第15話 勇者の孫 認められる
「ドラゴンを見せれば信じてくれるかも」
ユウトはドラゴンを見せればさすがに二人も信じてくれるだろうと考えたようだ。
「な、何を……ドラゴンなどマンガや映画だけの世界の空想の生き物だ。そんなのが実際にいるわけが……」
「まさか本当にいるの? でもどうやって……」
玲は否定したいけど仕切れず、楓も精霊魔法という未知の魔法を見せられたことでもしかしたら本当にいるのではと思い始めていた。
「いるよ。地球には無いけど異世界のS級ダンジョン。こっちの基準だと六つ星ダンジョンになるのかな? まあそこの下層にうじゃうじゃいるよ」
「む、六つ星? なんだその途方もないランクは……」
「ポーションの等級が4等級までしか無いから、もっと上のダンジョンが存在するんじゃ無いかとは言われていたけど……まさか本当に存在するの?」
ダンジョンで手に入るアイテムは、『鑑定のルーペ』という同じくダンジョンで手に入るアイテムでその詳細を知ることができる。そしてこれまで産出されてきたアイテムは、どれも4等級止まりでその上の等級が出てくることはなかった。そのことからダンジョンを研究する研究者たちからは、四つ星や五つ星のダンジョンが存在する可能性を示唆されていた。
「まあ百聞は一見に……えっと、おかずだっけ? とりあえず見せてあげるよ」
ユウトは微妙に間違っていることわざを二人に言ってから、闇の精霊に山の周囲と空を覆い光と音を遮断し周囲から見えなくなるよう指示をした。
そして空間収納の腕輪からエメラルドグリーンの色をした拳大のひし形の魔封結晶を取り出し、魔力を込めて『顕現せよ風竜王エメラ』と口にしたあと頭上へと思いっきり投擲した。地面でないのはスペースがないからだ。
そして魔封結晶が50メートルほど上空に達したところで、魔封結晶から緑色の強烈な光が発せられた。その強烈な光に玲と楓は目をつぶったが、光はすぐに収まったことで再び目を開け空を見上げる。するとそこにはエメラルドグリーンの鱗を持つ巨大なドラゴンが滞空しており、玲と楓たちを見下ろしていた。
「ひっ!? ド、ドラゴン!」
「あ……あ……う、嘘でしょ……本当に」
玲と楓は全長50メートルはありそうな巨大なドラゴンに見つめられ、その場にへたり込みその顔を恐怖に歪ませていた。
「あー大丈夫大丈夫。エメラは俺が隷属させてるから、二人に危害を加えることはないから。それにそもそも大人しい性格のドラゴンだし」
ユウトはイグニスだと見た目が厳ついので、同じくS級ダンジョンのボスである風竜王であるエメラを顕現させた。エメラの顔はドラゴンの中でも柔らかい方で、鱗もエメラルドグリーンで美しい。
ユウトはこれなら二人もそんなに怯えることはないと思ったのだが、それは異世界人でしかもトップクラスの実力を持つユウトの感覚である。普通は爬虫類の顔をした体長50メートルの生物というだけで、恐怖の対象になるのは当然である。
「こ、これを隷属? このドラゴンを」
「あ、あはは……なんかもう……ほ、本当に食べられたりしないよね?」
「大丈夫だって。うーん、こんなに可愛いのになぁ。遊覧飛行でもすれば恐怖心もなくなるかな? 領地の子供たちもそうだったし、うんそうしよう」
ユウトは始めてドラゴンを見て怯える領地の子供たちが、ドラゴンの背に乗って遊覧飛行をしたら大喜びしていたことを思い出した。乗せるまでは泣き叫んだり、乗せた後もしばらく発狂していたのだがそのことはユウトの記憶にはない。その辺は他の子供達が対処していたからだ。
「え? 遊覧飛行? どういうことだ?」
「ま、まさかユウトさん私たちを……」
「正解! 一緒に夏の夜空を散歩しようぜ! エメラ頼む!」
ユウトは二人に親指をグッと立てて本人が爽やかだと思っている笑みを浮かべた後、エメラに声をかけた。するとエメラの翼が一瞬光ったと思ったら、ユウトたちは地面から突き上げる風に宙を舞った。
「なっ!? うわあぁぁぁ!」
「え? きゃあぁぁぁ!」
玲と楓は突然地面から突き上げるような強烈な風に抵抗することもできず、人間ロケットのように空へと打ち上げられた。その後に一瞬遅れてユウトも風で打ち上げられると、すぐ上に楓の青いパンツとプリっとした肉付きのよいお尻が見えた。ユウトはラッキースケベだと歓喜しつつ、楓のパンツと尻を目に焼きつけた。
そしてエメラの少し上あたりまで到達すると、今度は二人を包み込むように左右と下の三方向から風が吹いた。その風によりゆっくりとエメラの背。首の付け根辺りへと降り立った二人は、腰が抜けたのかその場に崩れそうになった。
「おっと、鱗は硬いから注意してな」
しかし二人の背に着地したユウトにより腰を支えられ、硬い鱗の上に膝をつくことはなかった。玲はデニムパンツだが、楓は薄い生地のワンピースだ。ごつごつしているドラゴンの背に膝をついたらかなり痛いだろう。
「あ、ああ」
「あ、ありがとうございます、ユウトさん……」
玲も楓もユウトに腰を抱かれ支えられたことに恥ずかしさを感じたが、自分たちがドラゴンの背にいる事が信じられないようで若干放心しているように見える。
そんな彼女たちからはユウトに対する敵意はもう感じられない。ドラゴンを呼び出されて敵意を抱く命知らずが存在するはずもないが。
二人を支えながらユウトは、空間収納の腕輪から三人が座れるほどのベンチを取り出し置いた。そして闇の精霊魔法にベンチを固定するように頼むと、エメラの背から黒いロープ状の物が現れベンチを固定した。
玲と楓は突然何もない場所から現れたベンチに驚いたが、今はそれよりもドラゴンの背に乗っていることの方に意識の大部分を取られていた。
それからユウトはエメラをレーダーなどから隠蔽するために『隠蔽の結界』という魔道具を取り出し、それを闇の精霊たちにドラゴンの尾と頭部。そして両翼の先端に設置固定するように指示をした。
隠蔽の結界とは、4つのキューブ状の魔道具からなる結界で、4つのキューブに囲まれたエリア内にある物の姿、音、匂い、熱、魔力を隠蔽する物である。これはユウトが人型起動兵器をステルス仕様にするために持ち込んだダンジョン産のアイテムだ。
「よしっ! 準備はオッケー! これで爺ちゃんのいうことが正しければ、レーダーとかいうのには引っ掛からないはず。んじゃ空の旅に行ってみよう!」
ユウトは祖父の言葉を信じエメラに高度を上げるように指示をした。両隣に座る玲と楓が震えていることには気付かない。そして彼女たちがユウトを疑ったことを猛烈に後悔していることも。
そんな借りてきた猫のように大人しくなった彼女たちを気にすることなく、ユウトは日本に来て初の観光を美少女二人とできることを喜んでいた。
♢♦︎♢
2時間ほど東京の空を強制観光させられた玲と楓は、家の庭にエメラの風魔法で降ろされユウトと別れた。そしてフラつく身体を二人で支え合いながらなんとかリビングにまでたどり着いた。
「…………」
「…………」
二人ともソファーに腰掛けたまま放心状態である。無理もない。祖母を騙していると思っていた男は魔力を持ち、地球にはない未知の魔法を使いドラゴンまで使役していたのだから。その挙句に東京の上空で浅草ってどこ? お台場は? と聞いてくるユウトになぜか観光案内までさせられ、最後は楽しかったと笑顔で家まで送り届けられた。
しばらく放心状態だった二人だが、心の整理がついたのか楓が口を開いた。
「ねえ、お姉ちゃん……ユウトさんって異世界人で合ってる?」
「さすがにあんな物を見せられてはな」
楓の問いかけに玲は疲れたようにため息を吐きつつ答えた。
「だよね、魔力を持っていて魔力障壁なんてよくわからないバリアを張れて、そのうえ未知の魔法を使えてドラゴンまで使役していて……地球人じゃないのは確定だよね」
「あの赤い目もカラコンではないのかもしれないな。お婆ちゃんに見せてもらった大叔父の写真にはエルフや獣の耳をつけた人間がいたからな」
玲と楓は美鈴から秋斗のデジカメに映っていた写真を見せてもらっていた。だがその時はどこかのファンタジー系映画の撮影時に撮った写真を元に、合成した物だと思っていた。
「まさか本当に異世界人だっただなんて……謝らなきゃだね」
「ああ、結構酷いことを言ってしまったからな」
様々な否定できない証拠を見せつけられた二人は、ユウトを異世界人と認めるほか無かった。そうなるとさんざん疑ったうえに、罵倒までしたことをユウトへ謝罪しなければいけないと考えた。
「ユウトさんには明日謝るのは確定として、お母さんになんて報告するの? 本物の異世界人でしたって言う?」
「母さんが信じるとは思えないな。自分の目で確かめてくれと言うしかないだろう」
「あーうん、まあそうだよね。あれは自分の目で見ないと信じられないと思う。それでお母さんも信じたとして、そのあとどうするのかな? 立場もあるし」
楓は母に言葉で説明することは諦めた。ユウトは問題ないとだけ伝え、あとはこっちに来て自分の目で直接精霊魔法なりドラゴンなり見てもらうしかないだろうと。それよりも母が異世界人の存在を知った時にどうするのかが気になった。母は国営の探索者協会の支部長だ。決して低い地位にはいない。そんな母がユウトの出自と能力を知ったらどうするのか?
「母さんは身内を売ったりしないだろう。多分ユウトのことは隠し続けるだろうな」
「そうだね。まあ裏でユウトさんにお協力してもらって出世しそうな気がするけど」
「ははは、確かにやりそうだな」
翠は負けず嫌いな性格をしている。だからこそ三つ星ダンジョンを攻略するまでの力を得たのだが、力が通用しない協会での政治には苦戦しているようだ。そこでユウトが異世界人であることを信じたならば、裏でこっそり協力してもらおうとするのではないかと二人はそう思っていた。
「協会の上役をババアとか言ってたしね。ユウトさんは色んなアイテム持ってそうだし、それを利用して出世していきそう。それに私たちも」
「そうだな。私たちのダンジョン攻略にも協力してくれると言っていたな」
ユウトは別れ際にダンジョン攻略で力になるから声をかけて欲しいと二人に伝えていた。世界一の探索者にしてあげるとも。
「世界一の探索者か……なれるのかな?」
「あれだけ強く、そしてドラゴンですら使役しているんだ。そんな男の協力を得られたなら夢ではないと思う」
「そっか、そうだよね。世界一の探索者になれれば……お父さんの仇を討てるね」
「ああ、現役の時の母さんよりずっと強くなれば間違いなく討てる」
玲と楓の母である翠は、10年前に三ツ星ダンジョンのボス。それも極低確率で現れるレアボスと遭遇した。そしてその戦いに破れ、撤退時にポーターをしていた夫を失い自身も右目と右足を失った。
当時まだ7歳と幼かった玲と楓は、大好きだった父親を奪ったレアボスへ復讐を誓った。そしてその気持ちは10年経った今でも少しも色褪せることなく残っている。祖母や母親には心配掛けないよう母親のような一流の探索者になりたいと言っているが、二人の本当の目的は父親の復讐である。
「まずは謝罪だね。ちゃんと謝ってからじゃないと協力して欲しいなんて言えないし。お姉ちゃんもちゃんと素直に謝るんだよ? ユウトさんの筋肉に見惚れていたらダメだよ?」
「なっ!? わ、私が見惚れるなど!」
「そう? ああいう細く引き締まった筋肉好きでしょ? 確かに脱いだら凄かったもんね」
玲は隠れ筋肉フェチだ。そのことを知っているのは妹の楓だけである。裏山の戦闘中に見たユウトの筋肉が姉好みの筋肉だと思った楓は、自分も同意するとばかりに目を瞑りうんうんと首を縦に振って誘導する。
「ま、まあ確かに凄かったな。あの筋肉はジムでのトレーニングではなく、剣を振って付いた筋肉だろうな。恐らく相当な期間剣を振ってきたのだろう。人工ではなく過酷な鍛錬と実戦によって培われた筋肉。うん、本当に素晴らしい筋肉だった」
素直な玲は楓の誘導に簡単に乗るどころか、嬉々としてユウトの筋肉を分析してしまう。
「そっか、ならユウトさんに教えてあげようかな。お姉ちゃんは脈ありだって」
楓は引っ掛かったとばかりに真顔から一転、チェシャ猫のような笑みを浮かべ玲を嬲り始める。
「なっ!? ば、馬鹿なことを言うな! 私はすぐ死ぬ男など興味はない!」
「ユウトさんは魔力持ちだよ? 私たち並みに生きるから問題ないんじゃないかな」
「な、なら楓だって対象になるだろう! 楓はどうなのだ」
「うーん、私はパスかな。顔はまあ良いんだけど視線がね。年上なのに学園の男子たち以上に胸に釘付けなのは嫌だな」
「むっ、確かに露骨な視線ではあるな……なら私もパスだな」
二人は自分たちより早く死んでしまう男性と結婚は考えていないが、年頃の女性らしく恋愛はしてみたいとは思っている。
そんな彼女たちから見てもユウトは恋愛の対象外のようだ。やはりユウトのエロ視線は地球でも女性から避けられる要因となっているようだ。
「筋肉があっても?」
「き、筋肉があってもだ」
「ふーん、そっか。まあそういうことにしてあげる。とりあえずお風呂に入って寝よ。今日はもう疲れたよ」
「そうだな。私もクタクタだ」
リビングで雑談をしつつ体力と気力を回復させた二人は、久しぶりに二人で一緒にお風呂へと入るのだった。
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