第27話 研究所浸透2

「グウェエエエ!」


重装兵たちが悲鳴を上げながら、プロフェッサーのいる方に向かって関節をひねりながら近づき始めた。


プロフェッサーは落ち着いて危険物質の入ったタンクを小銃で撃ちまくり、後ろも振り向かずに階段の出入口に向かって飛び込んだ。


「くそ!」


背中から感じられる熱い熱気に瞬間的に壁にある出入り口のボタンを拳で殴り、出入り口を閉鎖した。


ドア越しにゲロをするような怪声が何度も鳴っているのを見ると、爆発の中でも何とか生きてもがいている模様。


「…これからは時間の争いなのか。」


静かに詠んだプロフェッサーが階段に乗ってサーバー室の前まで上がってくると、すでにデータを引き出したチーム員たちが爆弾を設置しているのが見えた。


「もういい。」

「プロフェッサー?大丈夫?」

「別に、もうすぐサーバー室が丸ごとダウンする可能性がある。 今すぐこっちに来て。」


ドーンという音と共にサーバー室の壁にひびが入るのを見た一行が乾いた唾を飲み込んだ。


「何がどういうことですか?!」

「…何だか分からない生物兵器が解放された。 出入口の方には脱出できない。」

「それ…危ないじゃない?」


プロフェッサーはためらうことなく首を横に振った。


「迅速に動けばまだ希望はある。」

「希望?」

「そう。」


プロフェッサーは指で胃を指差した。


「プランBだ。見たところコスモ・スポーンどもは出入り口を使って入ってきたわけではないから。」


その時になってようやく一行も理解したかのように首を横に振った。

出入口防御を疎かにしていたということは、彼らの脱出ルートが当初から出入り口ではなかったという意味だろう。


それなら、彼らが逃げる手段は屋上のヘリポートにいる奴らの輸送船であることが確実だった。


「ウィス・キース、飛行体を操縦した経歴は?」

「……えっと…ウォッカ一本なら何とかなるんじゃないですか?」


ためらいながら、自分のショルダー・バッグからこっそりウォッカ瓶を取り出して見せる彼女を見て、プロフェッサーはため息をついた。

よりによって適切なパイロットがいなかった。


「しょうがない。 パイロットは殺さずに脅迫して離脱しなければならないか。」

「うぅ…」

「がっかりすることはない。 誰でも専門分野というのがあるものだから。 今回は…少し想定外の事態が発生しただけだ。」


直ちにサーバー室を離れたチームは慌てて5階の屋上に向かって走り始めた。

後ろからは遠かったが、こつこつと吐出しする音が聞こえてきた。


「くそ!あのキモイ音を黙らせたいのに!」

「振り返らないことをお勧めする、グレイブ。」

「あ、知ってるって!」

「ひいー!気持ち悪い!」


何も知らずに振り返ったシャドウが真っ青になった顔で前だけを見て走り出した。

おそらく後方の光景はそれだけでも十分に伝わった状況。


必死に走った末、屋上の出入り口に到達したチーム員たちは順番にドアを開けて飛び出した。

プロフェッサーは最後まで席を守っていたが、胸から手榴弾を取り出してピンを抜いた。


「万が一の心情で気遣っておいたのが役に立つとは…!」


力いっぱい目の前に広がる半液体状態の表面から多くの人の形を作り出しながら、手を伸ばしてくる怪生物に向かって投げ入れたプロフェッサーは、すぐに飛び出してドアを力いっぱい閉めた。


「ちくしょう!この野郎!」


すぐに追いかけようとする怪物をドアに押し付けている間、女性たちはヘリポートで待機していた宇宙船に侵入した。


「この宇宙船は私たちが引き受ける! 反抗するやつはバラバラにするぞ!」

「ひ、ひい!?」

「あなたたちは誰だ!?」


運が良かったのだろうか。

戦闘兵力は研究所内に配置していたのか、宇宙船の中には操縦士と船員を合わせて4人だけだった。

おまけに戦闘訓練はほとんど受けていないのか、グレイブの叱咤に怯え、両手を上げて降伏するのに忙しかった。


「そんなことしったことねし、私たちの言う通りにしないと、あなたたちを研究所の中に投げ捨ててしまうから!”

「何、何を?!」

「ちなみに、今研究所の中に怪生物が解放されて暴れているの知ってる? あいつがあなたたちをおいしく噛んで食べるのを見るのもいいかも。」

「ひー、ひーっ?!」


グレイブの脅迫に乾いた唾を飲み込んだ彼らはすぐにコックピットに向かった。


「わ、分かりました! どこにご案内しましょうか? 話してください、お姉さんたち!」

「い、命さえ救ってくれれば!」

「ふん。いい子たちだね。」


鉄門をつかんで向こうにいた怪物といざこざをしていたプロフェッサーは、結局チッと舌打ちをしながら自分の突撃小銃をドアの取っ手に挟んで塞ぎ、宇宙船に向かって走り出した。


「くそが、好きな武器だったのに。」


自分の突撃小銃がもったいないように歯を食いしばったまま宇宙船の中に飛び込んでくると、直ちにハッチが上がり宇宙船が離陸した。


「早く行け!」

「ああ、知っています! と、ところで…WAC管制区域に入ると私たち撃沈されますけど?!」

「それは私たちが何とかしてあげるから、あなたたちは運転しなさい!」

「あ、分かりました!」


精一杯怒鳴りつけたグレイヴが荒い息を引き取りながらプロフェッサーの方に戻った時は、プロフェッサーが手に持ったスイッチを押していた。


「あ、それは…」


グレイブが答えを言う前に、宇宙船の窓の外に研究所が盛大に爆発する光景が繰り広げられ、巨大な火柱の中央で泥水のような物体が怪声を上げ苦痛を感じ、溶け落ちるのが見えた。


「うわぁ…目がいたくなる。」

「うぅ…帰ったら絶対にシャワーから浴びないと…」「お酒の味が落ちる…うう…」


身震いする一行とは違って、プロフェッサーはヘルメット越しに眼光を放ち、淡々とその光景を眺めていた。


彼女たちは知らないだろうが…

やがてあの光景をうんざりするほど見ることになるはずだったので。


*


WACの管制室をプロフェッサーが説得したおかげで、宇宙船は無事に合流地点に着陸することができた。

会場はリムジンで迎えに来て、彼らを迎えてくれた。


「本当によくしてくれたね。 我々の情報員たちが研究所がきれいに飛んでいったというニュースを伝えてくれたよ。」

「100%成功率が我がチームの誇りですから、当然のことです。」

「それは頼もしいね。 君のチーム名をもう一度確認してもいいか?」


会長の質問にプロフェッサーはヘルメットの中から笑みを浮かべたまま答えた。


「絶対的な解決策、 アブソリュート・ソリューション…. 好きなように呼んでください。」

「フランチャイズにふさわしい名前だね。」


今の質問は知っていながら聞いてみたに違いない。

もう一度聞いて刻印させることで、会長である自分がプロフェッサーのチームを頭の中にしっかり入れておくというアピールだろう。


「それで、データはどうなったのか?」


最も重要な問題をこっそりと表わし、手を差し出す会長に、キースが慎重にポーチを渡した。


「秘書、確認を。」

「はい!」


隣に立っていた秘書に渡すと、直ちにデバイスに装着して確認してみた秘書がうなずいた。


「…コピーした形跡もありません。」

「そりゃ…本当に意外だな。」


不思議そうにプロフェッサーを眺める会長。

普通、このような依頼を受ければ用兵たちは時々奪取したデータを別にコピーしておいて、今後依頼人を脅迫しに来たりすることも日常茶飯事だった。

しかし、プロフェッサーはそんなことをすることも考えずに正直に持ってきた状況。


「100%の意味は単なる成功率だけではありません。 依頼者との信頼度を意味している。」

「…それは、すばらしいことだね。」

「くぅ、気に入ったらたびたび利用お願いする。 あなたのような大物の依頼はこちらでもなるべく受けるからね。」


話を終えたプロフェッサーが胸の中から彼のカード名刺を取り出して会長に渡した。


「ほう…これがあのカード名刺か。」

「もらうのは初めてかな?」

「そりゃ, 今までは君たちのような用兵を使うことがなかったんだからね。」


取引を終えたプロフェッサーは、チーム・メンバーを指で指示し、自分たちのサーバーに戻る準備を始めた。

しばらくその後ろ姿を眺めていた会長が口を開いた。


「もしかして、また来て手伝ってくれる予定はあるか?」

「…必ずしも我々じゃなくても、他の用兵もいるんじゃないか。」


プロフェッサーの答えに会長は首を横に振った。

彼も今いる外国人選手のレベルは十分知っていた。

確かに経験もあり強い兵士たちだったが、まだ相手の装備についてよく分かっていなかった。


「今の彼らではこれからの戦闘は乗り越えられないだろう。 君のような人材がもっと必要なんだけどね…」

「それも心配ありません。 今ここに来ている者たちはいわば先発隊…のような種類だから。」

「……!」


その時になってようやく何かを悟った会長の目が大きくなった。

あんな者たちが先発隊ということは、今後あの者たちよりもっとすごい者たちがもっとすごい装備を率いて現れることもありうるという意味。


「…救援要請を送ったのが神の一手だったんだな。」

「…そう、あなたは立派な経営者だ。」


プロフェッサーの答えに笑みを浮かべた会長がカードを振って見せた。


「…まだ会おう。」

「常連が増えるのはいつも気持ちいいことだ。」


宇宙船の出入りハッチが降りてきて、プロフェッサーはキースの車に乗り込み、ハッチを通じて宇宙船に入った。


*


10日が過ぎた。

イベントのせいか、入ってくる依頼が減り、のんびりとした生活を送っているチーム員たちは応接室でニュースを見ていた。


[現在レーザー・ラインのイベントは多数の重歩兵の出現によりユーザー連合軍が大きな被害を受け戦闘が小康状態に陥り…]


「本当にプロフェッサーの予測通りになりましたね?」

「明らかな展開だ。」

「それにしても、本当にその時に抜け出したのがちょうどよかったね。」


シャドウはまもなく完成する自分の新しい刀剣を考えながら目を輝かせており、グレイブはそれが嫉妬するようにすっぱい表情をしていた。

プロフェッサーはそんなグレーブの肩をポンと叩きながら、


「何をそんなに太っている?」

「別に、何でもないんだってば。」

「くぅ、キューティクルが何も言ってくれなかったみたいだな。」

「何を?」


グレイヴの反問にプロフェッサーは無邪気にも口を閉じてしまい、すぐにいらいらしたグレイヴがプロフェッサーの胸ぐらをつかんだ。


「言え!今すぐ!」

「うっ…暴力反対。」

「うるさい!吹かなければベネチア見物させてあげるぞ!」


頭を両手で左右から押さえつけ、高く持ち上げて揺さぶるいじめを試そうとする彼女を見たプロフェッサーが結局口を開いた。


「WACから供給された部品であなたの機関銃を新しく作っていると言った。」

「え?!」

「…弾倉の重さを気にしなくてもいいプラズマ機関銃らしい。」


プロフェッサーの答えに口がほぐれた笑みを浮かべる彼女を見て、プロフェッサーは首を横に振った。

やはり彼女は火力に命をかける女性だったのだ。


「…作業の邪魔になるかもしれないから性急に飛び込むな。」

「あ、知っているんだから…!」


気分が良くなった彼女が、いきなりプロフェッサーをソファに放り投げては、期待感たっぷりの顔で鼻歌を歌い始めた。


あんなに楽しんでいたころ、呼び鈴が鳴った。

キースがドアを開けると現れたのは…


「ハローエブリワン! ナイストゥミチュ!」

「……!」


プロフェッサーの口から「くぬぬ」という痛みの声がした。


-つつく-

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