第2話 淫属性スキル『淫ヒール(小)』

 おっぱい吸いながらチマチマと淫属性の枝葉ツリーを育てていたところ、さっそく最初の分岐点にたどり着いた。


 どうやら淫属性ツリーはかなり早い段階で二つの方向性に分かれていくらしく、片方が『攻撃系』、もう片方が『回復系』であるというのがなんとなくわかる。


 ここで俺は自分の将来について悩むことになった。


『樹』を成長させるための『経験という水』は、より困難な状況を乗り越えるほどより多く溜まると言われている。

 それは実際に六回の人生を経ても実感できたことだ。


 問題は、どちらの方向に行けば『より困難な状況』により多くめぐり合うことができるか、ということだった。


 成長のしやすさはちょっと経験を注いで戻したところ(『経験という水』は次の枝葉に成るまでなら注いでも戻せる。神殿では教えてくれない人生お役立ちテクニックだ)、どちらも同じぐらいの成長適性を感じた。

 ここから判断できることが絶対とは言えないが、この感じだとどちらの枝葉も成長限界は同じぐらいではなかろうか。


 つまりどちらに行ってもいい。


 だからこそ迷う。ちょっと検討してみようか。お昼寝してぐずっておっぱい吸って漏らすしかすることねぇしな。


 まず『攻撃系』。


 攻撃する淫とはなんなのか? というのは枝葉が育っていけばおのずとわかると思うので今は考えても仕方ないとして、攻撃系の枝葉を伸ばすメリットは『単独で経験を稼ぎやすい』ということに尽きるだろう。

 この世界には太古のヤベー連中が放ったとされる『魔獣』が多くおり、それを討伐する仕事も多くある。

 我が家は平民も平民ド平民なので俺は枝葉を育てつつそのうち自活せねばならない都合上、稼ぐ手段と枝葉育成の手段は重なっていた方が都合がいい。


 そうなると魔獣討伐の仕事なんかをしつつ経験という水を溜めていける『攻撃系』はかなりいい感じだ━━

 まあ『淫属性でどうやって攻撃を?』という疑問はずっと頭の中にこびりついていて、真っ白い布についたインクの染みみたいに全然とれねぇんだが、とにかく『攻撃系』ということだけはわかるので攻撃はできるんだろう。きっと。


 そして何より『単独で稼ぎやすい』のがいい。


 この世界の連中は本当に意識が低くて困るんだ。

 主語がクソデカい言い方になってしまうが、マジで『この世界の連中』で合っている。世界人類、総低意識。気絶寸前。命が危ない。


 何せ『心の樹』の枝葉を伸ばすことより、命とか人生を優先するやつらばっかりだ。


 危険な仕事を避けたり、地味だが効率のいい『経験という水』を稼げるものを避けたり、一日に八時間も眠りたがったり、あまつさえ枝葉の育成はそこそこでも幸せに穏やかに生きていければいいな……なんて言ってみたり……


 危なくてもいいだろうが! 枝葉が育つんだぞ!

 地味でもいいじゃねぇか! 枝葉が育つんだぞ!

 八時間も寝てんじゃねぇ! 睡眠時間を三時間にしたら五時間も枝葉を育てる時間をとれるんだぞ!

 幸せに穏やかに!? 枝葉も育てず幸せになれるわけねぇだろうが!!


 どうにもみなさん、心の中に『樹』があるというのに、これが限界まで成長していない状態が気にならないらしい。

 気持ち悪くないか? 自分の中に常にある『樹』が中途半端な姿のままっていうのは……どうして耐えられるんだろう……まさかみんな、ギルドの張り紙とか隅々まで読まないで見出しだけ読んで満足するタイプ? ありえん……気持ち悪……


 そういうわけでだいぶ意識に差があるので、俺の人生で『仲間』だの『友』だのがいたことは一度もない。


 なので『単独で経験を稼ぎやすい』は非常に強いメリットになる。


 一方で『回復系』。


 こちらも『淫で回復って何?』という疑問が天井にこびりついたオイルランプの煤みたいに残り続けるのだが、まあ回復系であることはわかるので、回復できる前提で考えよう。


 回復できる技能のすべてに言えることだが、『回復するには、ケガ人がいなければならない』という大前提がある。

 ケガ人、つまり、仲間だ。

 辻ヒーラーなんていうのもいるのだが、ああいう連中は回復系に枝葉を伸ばすことを選んだというのに仲間がいないぼっちどもなので、見ていて情けないというか……『ああはなりたくないな』と思ってしまう。


 まあそういうわけで『淫属性の者ですが、辻ヒールさせてもらえませんか?』と言って歩き回る不審者にもなりたくないので、やっぱり攻撃系かなー。魔獣討伐とかで稼げるし……


 ……いや待て。


 ちょっとすごいことに気付いてしまってウンコ漏れた。


 自分で自分を傷つけて回復すればいいのでは?


 そもそも大前提に一つ見落としがあった。

 それは『十五歳まで自分の中の樹を意識することはできない』ということであり、換言すれば『十五歳まで世間が仕事をさせてくれない』ということだ。


 すなわち、このあと淫属性の攻撃を覚えたとしても、十五歳まで魔獣と戦わせてもらえないことになる。

 こっそり探して戦ってもいいかもしれないが、魔獣というのは基本的に人里の外に出る━━というか、魔獣の脅威を駆逐した場所を壁で囲んで『人里』と定義している以上、そうなる。

 たまに『はぐれ』とか『迷い』とかは出るが、その確率は低いし、以前の六回の人生で俺のいる村に『はぐれ魔獣』が出たことは一度もなかった。


 となると、攻撃系を選んだ場合、俺は十五年間を無為に過ごすことになる。

『経験という水』はより困難な状況にあるほど多く溜まるが、その『困難さ』はどうにもどういう系統の枝葉を伸ばすかで変わる。

 つまり攻撃系に伸ばした場合、『より強い相手に攻撃する』ということが必要となり、それは十五年間できない。


 だが……


 死ぬほどの自傷なら、赤ちゃんでもできる。


 つまり十五年間を無駄なく『経験という水』稼ぎに使えるというわけだ。

 うんこも漏れるわ。こんな簡単なことに今まで気付かず、俺は最初の一回を除くとしても……今まで五回の人生で……なんて無駄な時間を……


 なお無駄な時間が十五年短縮されると、寿命も自動的に十五年短縮されることになる気はするのだが、そこは考えないものとする(属性を極めたとたんに太古のクソボケ魂カスどもが押し寄せて体を乗っ取るため)。


 さて淫属性の回復系とはいかなるものがあるのか。

 さっそく伸ばした枝葉には『淫ヒール(小)』というスキルがついているのがわかった。


 とりあえず頭をベッドの柵にぶち当てて使ってみた。


「ミド!? どうしたの!?」


 ああママ心配しないで。ちょっと自傷ヒールのために頭をぶつけただけだから。ヒールはいらないんだよ。自分でするから。いらねぇっつってんだろ! やめろ! まだ発動に慣れてなくてなかなか発動しねぇんだよ! 俺より先に俺を癒やすんじゃねぇ!


 ママのヒールをごろごろ転がりながら避けつつ自分で自分に淫ヒールをした。


 ふわぁあぁああ……


 なんか超気持ちいい……


 おしっこ漏れた……


「ミド!? ミド!?」


 今いい気分なのでそっとしておいてください。


 結論、淫ヒールは気持ちいいし打撲も治る。

 そしてママの監視の目が厳しくなった。どうして……

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