第10話 計略4

「お前、もしかして、魔法の知識が全くないのか?」

 しかし、魔導士の反応はことごとくフィーネの期待を裏切り、興味深げに聞いてくる。


(なんでよ? 怒らないの? とっくに「お前の家に支援などしない!」とか言って怒りだして、たたきだれているところじゃない?) 


 それによってフィーネは野垂れ死にするけれど、実家は見事没落するのだ。たぶん、悔いはない。

 贅沢なミュゲもロルフも苦労すればいいのにと思っていた。

 

 しかし、魔導士はハウゼン家には興味がないようで、なぜかフィーネに興味をそそられている様子。


「はい、もともと魔力がありませんので、その手の教育は受けておりません。興味もありませんし。それで、こんな詐欺のような真似をした実家を罰していただきたいのです。伯爵家からこんな真似をされて腹が立ちませんか? 

 どうか資金援助はせずに没落させてくださいませ。だいたい、父が、私が反対していた投資に手を出したせいでこんなことになったんですよ。私が病に倒れている間に勝手なことをして」


 余命わずかなフィーネの考えた精一杯の復讐だった。このためだけに長旅に耐えたのだ。しかし、しゃべりすぎて息が上がり、気分が悪くなってきた。

「ふむ」 


 だがしかし、そのかいもなく、怒り出すかと思っていた魔導士が今度は考え込み始めた。


「あの、怒らないのですか? 腹が立たないのですか」

 フィーネが畳みかける。


「お前は、私を怒らせたいのか?」

 逆に不思議そうに魔導士に聞かれてしまった。


「当然です! ひどい話ではないですか! これは詐欺ですよ? 詐欺!」

 フィーネがだるい体を叱咤して、声を振り絞る。


「そうしたら、お前はここで放り出されるぞ。見たところ、お前の家の使用人も馬車も主人を置いてとっとと逃げ出したようだが。お前はここで野垂れ死にする気か?」


 魔導士が端的に事実を指摘する。確かに彼の言う通りなのだが、フィーネは魔導士の冷静な態度にもやもやし始めた。


「できれば、野垂れ死には避けたいのですが、致し方ありません。それと彼らは雇い主である伯爵家に逆らえないだけです。弱い立場の者たちなので、使用人にはお咎めのない方向で、ハウゼン家に復讐してもらえませんか?」


 フィーネが諦め半分で、首を傾げて言い添えると魔導士は困ったように、フードをかぶったままで頭をぽりぽりとかいた。


「仕方がない。俺の醜い姿に耐えられるようなら、少しの間この屋敷でお前を使ってやってもいい」

「え?」


 話しが明後日の方向に向かっている。彼はひょっとしてフィーネに同情しているのだろうか。


 フィーネが驚きに目を見開くと、魔導士はフードをばさりと脱いで素顔を晒した。


 あまりの恐ろしさに、フィーネはその場で吐血し、卒倒した。



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