第14話 魔法修行➄~魔法を使ってみよう~
実幸も無事に杖……いや、魔法のステッキが完成したので、俺と同じく、「物の鮮度を保つ魔法」を使うことになった。実幸にとっても、これが初めての魔法の使用になる。魔法適性検査はノーカンで。
そして。
「物の鮮度を保つ魔法の呪文は、『アイガーリ・スティンシュワード・ザッペリア・テクラバースト』です」
「……????」
俺と同じ問題にぶち当たっていた。
「あ……愛……?」
「アイガーリ・スティンシュワード・ザッペリア・テクラバースト、です」
「すみません覚えられません」
実幸、潔い土下座。顔を上げてください!? と、ジルファ先生。そして何故かジルファ先生も土下座した。実幸より低くいないといけないのは何となく分かるが、絵面がすごいことになっていた。カメラないかな、ないか。ここに来てからスマホも正常に使えなくなってるし。
俺は実幸の背中に手を乗せ、優しく撫でながら言った。
「実幸、安心しろ。俺も覚えられなかった」
「え……夢も?」
「最終的にはなんとか覚えたがな」
「裏切者っっっっ!!!!」
「まあまあ、話は最後まで聞けよ」
涙目で怒鳴られたため、どうどう、と実幸をなだめてから、俺は気を取り直す。
「……覚えて、その呪文を唱えたまでは良かった。でも恐らく、俺の魔法は成功していない」
「……え?」
どういうこと? と言いたげに、実幸は俺とジルファ先生の顔を見比べる。それも無理はない。だって俺の杖はきちんと俺の手の中に、枯れることなく、劣化することもなく、そこにある。
俺が説明するより、ここは専門家に任せた方がいいだろう。俺がジルファ先生に視線を送ると、彼は小さく頷いた。
「……彼は正確に呪文を覚え、魔力を流しながらそれを唱えました。……しかし、魔力の流れを観察しましたが、それは正常に杖に流れることはなかった」
「え……っと、それじゃあ、魔法は不発……?」
「ええ。苦肉の策として、私が一度彼の魔力を貰い、そしてそれをエネルギーとし、魔法を使いました。そうすることで一応、彼が魔法をかけたという状態を成立、ということにしましたけどね」
俺は肩をすくめる。まあ、前回の話を振り返ってもらいたい。あくまで教えてもらったと言っただけで、一応俺は、「成功した」とは言っていない。結果もぼかしてある。
つまり俺は結果的に、魔法を使っていない。たぶん。
……ここに来て結構経つのに、俺たち2人はほとんど全く魔法を使っていない。それは申し訳ないと思う。思うのだが。成功しないものは仕方がない。
「理由は不明です。確かに彼の魔法適性は微少ですが、魔法が全く使えないわけではありませんから、彼自身の不備だとは考えにくい。……考えにくいですが、可能性も捨てきれない。そのため、実幸様も魔法を使ってみましょう。それで貴女様が成功すれば、彼に問題があるということ。もし貴女様も失敗すれば、貴女様たち側の、何か別の原因がある、ということになる可能性が高まります」
「……????」
「……とりあえず、魔法を使ってみようってことだよ」
相変わらず理解できていなそうだったため、俺はそう助言するのだった。
何度も同じことを唱えること、ざっと100回。古典的でありながら、一時的に覚えるには効果
「……アイガーリ・スティンシュワード・ザッペリア・テクラバースト!!」
一度も噛まず、ど忘れすることもなかった。いつものテストもこんな調子だったら先生の胃痛も治まるだろうに。いや、どうせこれもすぐに忘れてしまうのだろう。
まあそれは横に置いておいて。俺たちは実幸の手の中のステッキに注視する。呪文を唱えた瞬間は、実幸の体を眩い光が包んでいた。が、今はその光が……四方八方に飛び散っている。そんな表現が正しい。どう考えてもステッキには向かっていないので、なんとなく結果は予感はしつつも、ジルファ先生を仰ぐ。彼は俺と目を合わせてから、ゆっくり首を横に振った。
「やはり……駄目ですね。魔力が正常に働いていません」
「そうですか……」
「というか……あの、何と言うか……実幸様、雑過ぎます」
「えぇ!?」
ジルファ先生の言葉に、実幸は勢いよく顔を上げた。その瞬間光は納まり、消え失せる。……遂にジルファ先生が言葉を選ばなくなったのが面白くて、俺は思わずほくそ笑んでいた。
「あっ、えっとですねぇ……あ、そう。実幸様は力が大きい分、それに振り回されているように感じます。むやみやたらと振りかざしているというか……そこのコントロールの練習が、必要なようです」
すごい、言い直した。
「……そのためにもまず、俺たちが魔法を使えない理由を調べないとな」
「そうですね……」
不貞腐れた様子の実幸をなだめつつ、俺はそう言う。ジルファ先生がそれに賛同した。
「おい司祭!! 大変なことになってるぞ!!」
そこに、耳がうるさくなるほどの大声が響いた。
この声は……聞き覚えがある。しばらく聞いていなかったから、存在を忘れていたが……。
「ゲルニカ!?」
「俺の名前を呼び捨てにするな能無し!! ……ってちげぇよ、おい司祭!! 城の外に魔物がうじゃうじゃいやがんだ。早く来い!!」
「なっ……こんな所まで!? 一体、どれくらいの規模なんです? というか、大司教様は?」
「知らねぇよ!! 俺は団長に呼んで来いって言われたから来ただけだし……大司教は体調不良だとよ、こんな大変な時に、使えねぇな!!」
「……大司教様を、侮辱しないでいただきたい。そもそも彼がああなっているのは、貴方たち騎士が、彼を無理に働かせたからでは?」
「あ? ……んだよ、文句あんのか?」
どうやら、城の外が大変なようだ。そして目の前の2人も、一瞬でなんとも険悪な雰囲気になる。……確かに俺たちがここに来た時、騎士たちが大司教に暴力を振るっているのを見たな……ああいうのは日頃からなのだろう。だったらこの様子にも納得……。
そこで、1つの人影が、動いた。
俺の横を通り過ぎ、黙って中庭の出口を急ぐ。そしてその方向を見上げると、黒煙が上がっていて。恐らく、あの方向で魔物との戦闘が……。
……じゃなくて!!
「実幸!!」
俺は叫ぶ。俺の大声に、剣と杖を抜きかけ、一触即発だった2人が振り返った。そして何より……実幸も足を止め、こちらを振り返った。
「行かなきゃ」
俺が何かを問いかけるより早く、実幸はそう言った。
恐ろしいほど真っ直ぐな瞳で。そこに恐怖の色はない。無理をして押しとどめている様子もない。そこにあるのは。
──助けなきゃ。
そんな、無垢すぎるお人好し精神だった。
俺は思わず額を抑える。額を抑えて、天を仰ぐ。分かってんのか? 相手は魔物だぞ。俺たちには知識は皆無だし、魔法も使えない。はっきり言って、俺たちが行っても足を引っ張るだけだ。まだ異能力のある俺の方が使えるだろ。何も出来ない俺たちが行ったって、無駄に死ぬだけだ。ここは本職のやつらに任せた方が賢い。
「だったら俺を置いて行くな」
頭で並べた理性は、口から出ることはなかった。
こいつを前に、正論なんて馬鹿馬鹿しい。どうせ聞きやしないのだ。そして俺が折れる。その未来が見えている。
だったら初めから、俺は実幸に付いて行く。
俺は、実幸のこういうところに……どうしようもなく、救われてしまったのだから。
そんな愚かな人間の、愚かな宿命なのだ。
……それにしても、流石に本当にヤバそうな時は、こいつを引きずってでも逃げるけどな。
実幸は笑う。そして俺たちは、手を取った。
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