第12話 魔法修行③~杖を作ろう~

 俺のその申し出に対し、ジルファ先生の回答は、短絡的なものだった。


 はあ、どうぞ。


 まあ彼にとっては半ばどうでもいいことだろう。


 初心者でも扱えるという小刀を借り、2人並んで地べたに座る。実幸は大きな幹を抱え。俺はヴルーゲンをまるまる1本抱え。


「とにかく削っていき、自分の持ちやすいようにしていきます。持ち方はこんな感じで……怪我をしないように気を付けてください。また、木は土に根を張ることで生命活動を続けられるもの……そこから切り離しているわけですから、杖作りに掛けられる時間は、長くても1週間。それ以上かかれば、別のものに変えた方がいいかと」

「はぁい」

「そして貴方は、猶予はもう1日もないと思いますが……まあ、精々頑張ってください」

「……精々頑張ります」


 棘のある言い方だ。だがそれに対し、それ以外言えることはない。


 すぅ、はぁ、と軽く深呼吸をしてから、俺は小刀を握り直す。スピーディに、それでいながら、正確に慎重に、杖を作らないといけない。


 そもそも杖って、どんなデザインのものを作ればいいんだ? ファンタジーには詳しくないから、漫画とか映画とか、杖を持ってる魔法使いはどういうのを持ってるか分からないし……ジルファ先生や大司教の持ってた杖を参考にする? いや、でも、どうせなら独創性のあるものを作りたいよな……。


「……~♪ ~♪」


 考え込んでいると、横から呑気な鼻歌が聞こえた。これは……最近話題だとかいうラブソングだったっけか。若者の心に響くとかいう……。

 横を見る。実幸は何やら口ずさみながら、既にゴリゴリ削り始めていた。思い切りが良い。


「……実幸、どういうのを作るか、決めたのか?」

「え? ううん、作りながら考えればいいかな~、って」

「……ノープランかよ」

「でも作り始めたら、なんか見えてくる気がするんだよね!」


 見えてくるって。そう聞き返す前に、実幸は再び鼻歌を歌い始めてしまった。……かと思えば手元が狂い、盛大に幹を削ってしまう。あーーーーっ!! という悲鳴が、中庭に響き渡った。うるせぇ。


 実幸ばかりに構っていても仕方がない。俺も作り始めることにした。ゆっくり、刃を幹に当てる。……そして、静かにそぎ落として。

 ……こうすると、意外とこの木は柔らかいんだな、ということが分かる。少しでも気を抜けば、するっと全て削ってしまいそうだ。……気を付けなければ。


「……ら、ら、ら……♪」


 実幸の歌声が、小鳥のさえずりが、優しく頬を撫でる風が、穏やかに聞こえてくる。……静かな時間が、流れていた。


 集中できる。神経が研ぎ澄まされているのが分かる。周りからの刺激も柔く受け取りながらも……目線は、今手の中にある木。いや、もう、杖の形になってきている。


 作り始めたら、何か見えてくる。実幸の言った通りだ。……俺は理解している。完成図が、そして、それに向けて俺は、どうすればいいか。


「……」


 ふと、横から視線を感じる、と思った。だからそっちを見ると……。

 ……実幸が俺のことを凝視していたから、俺は思わず肩を震わせた。


「え、な、何だよ」

「……夢、光ってる」

「は? 遂に目までおかしくなったのか?」

「なってないーーーー!!」


 光ってる、って? そう言われて自分の手に視線を落とすと。


 ……ガチで光ってた。


 微かに、淡くだけど、太陽光と重なっていて、よく見ないと分からないけど、確かに光っていた。たぶん、全身を光の膜が包んでいるような……そんな感じだ。


「えっ、何これ、怖」

「……杖に、貴方自身の中にある魔力を渡している証拠です」


 俺たちが戸惑っていると、ジルファ先生が冷静に解説を入れてきた。


「……俺の中にも、魔力があるのか? 空気中だけでなく」

「ええ。人間の中でも、魔力は循環しています。空気中に魔力がないところもありますから、そういった時は体内にあるもので賄ったりします。……そういえば貴方は、勉強していないんでしたね」

「はーい! 私も知りませんでした!」

「お前は知ってろよ」


 俺の氷点下並みのツッコミもそこそこに、俺は再び自分の手に目を落とす。そう言われれば……光は、杖の方に向かっている……気がする。


「杖に貴方を主だと認めてもらうための工程……完成が近づいている、という証にもあります。……初めてで、こんなに短期間で、ここまで来るとは……貴方も多少なりとも、魔法のセンスがあるようですね」

「!」


 なんか今、初めて魔法関連で褒めてもらえたような気がする。


 顔を上げると、ジルファ先生はあからさまに嫌そうな表情を浮かべていた。そんな顔するくらいなら言わなきゃいいのに……。


「……ほら、お2人とも、手が止まっていますよ。集中力を持続させてください」

「はぁい」

「……はーい」


 珍しく俺も素直に返事をしてから、手の中の杖に向き直る。……随分削ったから、30センチあるかないか、くらいの長さになっているが、持ち心地はだいぶいい。自分で言うのもなんだが、出来栄えはかなりいいだろう。


 再び集中するため、深呼吸をする。


 杖に、俺が主だと認めてもらうための工程。

 ジルファ先生の言葉を思い出し、俺は心の中で呼びかける。


 俺は魔法適性微少のへっぽこ魔法少年みたいだけど、主だって認めてくれるか?

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