魔法修行!!

第10話 魔法修行①~魔法基礎編~

「小波実幸、無事に復活しました!!」

「そりゃ良かったよ……」


 次の日、実幸はケロリとした顔で姿を現した。昨日の弱った様子とは打って変わっている。……まあ、元気になったなら良かった。

 ……昨日の体調不良、少し責任を感じなくもなかったし。


「林檎粥はどうたった?」

「うん、ばっちり!! いつも通り、美味しかったよ!!」


 保冷箱を返してもらいつつ、料理の感想を尋ねる。サムズアップをする実幸に、俺も同じポーズを返した。後ろでは護衛騎士が、訝しげな表情を浮かべている。


「あ、それで、今日は夢に用があって来たの!」

「? これを返しに来たんじゃないのか?」

「それもあるけど」


 それ以外にも。と実幸は言う。何だろう、と思い、俺は首を傾げた。


「実はね、本格的に魔法の練習が始まることになったの!! 夢も来ない?」


 嬉しそうな実幸のこの表情。魔法の練習が始まることが楽しみで仕方ないのだろう。全身からその幸せオーラが伝わってくる。


 くる、のだが。


「え……俺も? ……いや、でも、俺は……」


 適性微少、5歳児並み。そう言われた記憶がよみがえる。久しぶりに思い出した。あれ以降、魔法の話なんて全く出なかったから。


 久しぶりに若干ダメージを受けていると、実幸はそんなこと露知らずに、朗らかに笑った。


「夢も一応、魔法適性はあるんでしょ? だったら一緒に練習してもいいと思うの。せっかく使えるのなら、習得しておこうよ!!」

「それは……まあ……」


 実幸にしては、一理あることを言う。確かに、せっかく使えるというなら使ってみたい。実幸より弱いとしても、異能力以外の不思議な力……そのために修行。ワクワクするシチュエーションだ。珍しく気持ちが高ぶっている。

 使ってみたい。魔法。


 そう思いつつ、念のため護衛騎士を見る。目が合うと、普通に逸らされた。……我関せず、ということらしい。つまり、口を挟んでもこない。行ってもいいのだろう。


 差し出された手。そこに俺の手を重ねて。


「……じゃあ、ご一緒させてくれ」

「……うんっ!!」


 余計に嬉しそうな表情をする。一緒に行くと言って良かったと、そう思わせる表情だ。





 そして実幸と共に向かったのは、城の外にある中庭だった。城壁に囲まれる形であるのだが、だだっ広いため、太陽光が阻害されることはない。……とても暖かくて、心地良いところだった。


「えー……僭越ながら、貴方がたの講師を務めます。ジルファ・コーニーと申します。本当は大司教様が一番の実力者なのですが、彼は高齢なので……2番目に魔法の扱いに長けている、私が」

「……よろしくお願いします」


 俺がそう言うと、講師……ジルファ先生とでも言うべきか。彼は、あからさまに俺に鋭い視線を向けてきた。「どうしてお前にも教えないといけないんだ」と言わんばかりである。もちろん無視した。実幸の手前で諍いを起こすのは、俺も向こうも本望でないだろう。


 そしてその問題の実幸だが、この暖かな太陽光のせいだろう。分かりやすくウトウトしている。このままだと器用に立ちながら寝そうだ。……それを防止する意味も込めて、思いっきり顔の前で手を叩いてやった。実幸だけでなく、ジルファ先生も大きく肩を震わせる。


「わぁっ!? ……ハッ、こ、ここは……いつの間に……」

「もう練習の時間だぞ、目ぇ覚ませ」

「は、はぁい……えっと……」


 どなたでしょうか。ジルファ先生を見ながらそう言うものだから、俺はその頭を軽く1回叩いた。


 改めて自己紹介を終えると、ジルファ先生は何かを取り出す。それは1本の立派な杖だった。ここに来るときに会った、大司教みたいな……。


 ……いや、違うな、それより……。


「虚空から出したね……」

「当たり前のように出したな……」

「……慣れれば誰でも出せますよ」


 5歳児のお前でも出来ると言われた気分だ。自意識過剰か?


「魔法を扱うには、杖が必須です。ですのでまずは何よりも、杖作りから始めます」

「へぇ~、そうなんですね」

「……え、でもこいつ、杖なしで適性検査してたような……?」


 そして確かその時、適性検査をしてくれていたやつが言っていた。「杖なしで魔法を使うなんて」、と。つまりあれも魔法の一環のわけで。でも実幸はあの時、杖を持っていなかった。周知の事実だ。


 俺の質問に対しジルファ先生は、良い質問だ、と言いたそうな、そしてそれでいながら、今から説明するつもりだったんだよ、とでも言いたげな、そんな複雑な表情を浮かべた。面白いなこの人……。


「……まず理論上では、杖なしでの魔法の使用は、可能です」

「ふぅん」

「……ですが、それが出来る人間など、ここにはいません。……魔法とは、空気中に集まる目に見えない魔力を集め、それを改造し、生み出したい現象として放出すること。この『集める』という作業に、杖が必須です。普通ここで、魔力をろくに集めることが出来ない……出来たとしても、形を保つことは難しいものなんです。しかしそれを、例え魔法陣という助けがあったことを考慮に入れたとしても、素晴らしい魔法のセンスを持たれている……本当に特例なのですよ、貴女様は」


 そう言ってジルファ先生は、実幸の方を見る。その瞳には、羨望の色が浮かんでいて。……同じ魔法使いとして、実幸は憧れと言えるのだろう。


「……?」

「たぶんこいつ何も分かってないっすね」


 ただ本人が何1つ受け取れていなかった。可哀想に。


「え、ええっと、空気中にマリョク……集めて……?」

「……先日渡した本の中に、そこらへんの基礎知識を書いたものがあったと思うのですが……」

「あったとしても覚えてないと思います、すみません」

「何故貴方が謝るんです?」

「癖で」


 そんなコントはどうでもいい。今の説明で俺はなんとなく理解できたから……それを元の世界に置き換えて説明するとしたら……。


「……空気中にある酸素を吸って、二酸化炭素として俺たちは吐き出すだろ? でもこの時、『吸う』っていう行為が難しいから、物……そうだな、人工呼吸器に頼って、呼吸をしないといけないんだよ。でもお前はそれに頼らずに呼吸が出来るからすごいねって話だ」

「……あっ、なるほど!? 私すごいね!?」

「清々しい自賛」


 ジルファ先生はよく分かっていなそうだったが、理解できたなら良かったです、と笑った。


「杖を作ると、更に操作の精度が増します。魔力を集めることが、より容易になることでしょう。杖……えー、そちらの言葉で言うと……ジンコウコキュウキ?」

「あ。あくまで例なので無理に言い換えなくていいです」


 話がこじれる。


「まあそういうわけで、杖作りをしましょうか」


 無理矢理話を戻した感は否めなかったが、そういうわけで俺たちはまず、杖作りをすることになった。

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