ポーン教団編 第三十話 限界への到達

「精霊斬!!!!」


 凛とした声が遠のく意識の中で響く。

 瞬間、魔法の鞭が切れ、力が抜ける。宙から落下し体を打った。


「ミトラさん!!大丈夫ですか!」


「あぁ、大丈夫だ。私の心配なぞしなくて良い。君は君の心配をしたまえ。ほら、そこに。大地の叫びラウドアース


 先ほど作っていた魔法陣を起動する。意思を持ったように大地が、樹木が蠢き、斬撃となる。それらはミシアを襲った鞭を再び切り落とす。


「気をつけます!!こっからのビジョンは!?」


「ない!!正直、ラオがいるとなれば勝てる可能性は低いだろう!クラークが自由になれば逆転できるのだが、あの様子じゃ無理だ!まずはラオを見つけださないと……天啓の雷撃エンジェルボルト!!」


 教会の屋根を貫いて稲妻が降り注ぐが鞭を避雷針のようにされ防がれた。鞭は一掃できたが一秒もしないうちに復活する。

 

「そうですね!勝てる可能性……ミトラさんが教会ごと破壊するのはどうですか!?」


「コウシがいる!」


「じゃあ助けてきます!!」


「させるわけないだろ!!束縛する蛇!!!!」


「あぁ!行ってこい!!飛来する龍アイアンシャトル!!」


 複数の鉄の板が自由に飛び回り高速で鞭を切断しに行く。本体も狙ってはいるがそこまでは許されないようだ。

 

「早くいけ!ミシア!!」


「はい!わかってます!!精霊の風!!」


 ミシアの姿が一瞬にして消える。理屈はわかっているのだがこの目を持ってしても精霊類が見えないのが悔ましい。


「くそっ!!!!狐の王の百尻尾!ひ弱な探査者!!」


「やっといなくなったか。早く救ってここから出ていってほしいものだな。炎龍の吐息サラマンダーブレス氷河の幽墳ブリザードアンガー


 二色の風が混ざり合い一つの風に昇華する。


紫紺の暴風ヴァイオレットストーム!!!!!!」


 熱を持ち、雹が降り、雷鳴が轟き、大地が揺れる。


「くそくそっっっ!!!!伝説の狐の無限尻尾!!!!」


 なんだ?風のせいであまり見えないが男の顔がどんどん変わってって……狐の面がついているような……いや、焼き付けられているように肌となっている。スキルを使った代償か。前々から存在は知っていたが使わないのはこれが理由か。

 狐の王の百尻尾の百倍、千倍……いやいや、倍とかじゃない。数として存在しない領域まで行っている。空間全てを濃密な魔力の塊でできた尻尾で埋め尽くして紫紺の暴風を一瞬にしてかき消してしまった。

 今できる中での最高火力で攻めたつもりだったが、いとも容易く無力化されるとは。


 ミシアの言う通りこの教会を一気に破壊するほどの……いや、それでもあいつは倒せない。やはり、クラークの不可侵への収監が鍵だ。だったら、ラオを探して潰すしかない。早くにひ弱な探索者でも使っておけばよかった。今使っても部屋中に広がる尻尾ですぐに潰されてしまう。

 紫紺の暴風は単発での威力が低い。一撃が大きいスキルでようやくいくつかを潰せる、といった感じだ。今、頭の中には勝つためのあるスキルが浮かんでいるがそれをするにはミシアとコウシの撤退をしないといけない。

 とりあえず今の目標が決まった。クラークだってもう『終わり』に近いだろう。何回使ったんだ。何回使わせてしまったんだ。ミシアの到着を待つしかない。

 そのためには今を耐えなければならない。威力の高いスキルでせめて振り払うのとクラークを守ることしかすることがない。

 

魔女の雷撃ウィッチズスペル

森林の捕食フォレストイーター!」

森林の捕食フォレストイーター!!」

四五口径の獄炎ファイアバレット!!!!」


 もうだめだ。もう魔力が底をついている。もう何回スキルを使おうとして出なかったか。あの時以来だ。私はもう一度あのスキルを使わないといけない。あと一分でもこれが続いたら限界を超えた限界ですら終わる。


「早く来いよ!!!!ミシア!!」


 瞬間、そよ風が通り過ぎたような気がした。尻尾の風か?私のスキルの風か?いや、違うだろう。なんで今更それを感じ取った。それは「異質」なものだったからだろう。

 勘違いで終わっても事実であってもどの道今打たないと終わってしまう。


 そこで後ろから声が聞こえる。


「ミトラさん!!いっけーーーーーーーー!!!!!!」


「あぁわかっているよ。言われずとも起動させていたさ」


 限界を超えてさらにこれを打ったら魔力枯渇障害に陥るかもしれない。そしたら本によるスキルの習得も緋色の思いも消えてしまう。

 だが、構わない!!


「死ね!!!!ロッシュ限界への到達メテオ!!」


 教会の屋根を突き破り建物を破壊していく。大量のエネルギーに包まれ教会と尻尾が焼かれる。


「クラーク!氷華アイスローズ


 降ってくる隕石から守るために氷の薔薇を展開する。

 ラオは隕石を防ぐのに必死なのかはたまた逃げたのか不可視の拳は来ていない。

 

 いつの間にか男はやられていて跡形もなく消えている。それと同時に建物内を満たしていた尻尾も消えている。

 

 尻尾が消え見渡しが良くなった部屋の奥に仰向けで倒れているラオが見える。

 ラオは苦悶の表情などでは決してないほどの顔を浮かび上がらせながら手を動かしている。

 そういえば隕石の落下が止まっている。

 隕石の下には見える状態にまで強化されている大きな拳がいくつも浮かび上がっている。

 

 まぁ、あれはほっといても死ぬだろう。


「さて、戻るとしようか」


「気になっていたのだが、ここはどこできみは誰だ?どうしてこんな状況に?どこに帰ればいい?」


「あぁ、そこまでいってしまったか。安心してくれ、私は君の味方だ。ミトラという名前に覚えはあるかい?」


「いや、ない」


「そうか。君はやりすぎだ。仕事の処理は私の方でしておくから君はゆっくりとメモを読んでいるといい。君はどれくらいで読むのだったか……」


「メモ?読む速さ……」


「あぁ、君が記していたメモだ。そこに君の記憶が眠っている。まずは君を君の家に案内しよう」


「頼む」


 記憶をなくしたクラークにできるだけ教えながら外に出る。


「ミトラさん!クラークさん!無事だったんですね!」


「あぁ、私はな。ただ、こっちはそうでもないため、一旦酒場に戻ってこれを休ませるとするよ。そちらの様子はどうだ?」


「それが……

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