第16話
「……はっ! きゅううぅぅ」
高い位置の窓から日が差し込まなくなることで、吾輩は目を覚ます。
ふるるっ
少しだけ冷えた体を震わせる。いつもよりほんの少しだけ長い昼寝となったようだ。
夢の中で懐かしい感触が尻尾にあったような気がして、眠りが深くなってしまったのかもしれない。
「では、吾輩は帰ると、し、よう……?」
自慢の茶褐色の毛並みを整えてから顔を上げてリットを見ると、驚いて固まってしまった。
冷静沈着な吾輩をそれほど困惑させたのは、この若い司祭の異様な雰囲気だ。
「た、タヌキ……さま」
赤い瞳の目を潤ませて、両手をしっかと組んでこちらを見る視線は、まさに敬虔な信者のもの。こんなことを言うのも申し訳ないが、人は良いがいつもどこか退屈そうに教会を掃除しているリットのイメージに合うものではない。
それに吾輩のことは『タヌキさん』と呼んでいたような……? 確かに吾輩ほど偉大な存在を呼ぶにあたっては『様』とつけるのが適切ではあるものの、そこは同胞にも寛容さで称えられた吾輩だ。親しみを込めた呼称を咎めたことなどない。
「な、何かあったのかな? 司祭……殿」
豪胆さで知られる吾輩もさすがにヒゲ先を少しだけしならせての質問になってしまう。愚かな人間はうつろいやすいものではあるが、これは急変に過ぎる。思わず言葉遣いも丁寧にしてしまうというものだ。
「そ、そんな、タヌキ様!? 私如きはリット、と呼び捨てになさってください! もしくは卑しくて汚らしい司祭と強めの語気で詰ってくださいぃ!」
「っ!? ぽ!? ぽこぉ…………」
吾輩がひと眠りしていた間に何が……?
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