第24話 地位5

 青の謝罪を受け入れた翌日、例の副官高力が菓子折り持ってやってきた。


「うちの長官がご迷惑をおかけしました」


 頭を下げて謝罪された。

 ダメな上司を持つ部下は苦労する典型だ。気の毒に。


「あの、もう謝罪は結構です」


「あのアホ……いえ、長官は手土産も持たずに伺ったとか……」


 今、アホって言ったよね? 気のせいではないよね?…………気にしないでおこう。私には関係ないことだ。うん、関係ない関係ない……。


「つまらないものですが、どうかお納めください」


 差し出された菓子折り。

 これで貸し借りなし。上司の無礼を許して欲しいといったところかな?私としてはその菓子折りの中身がとっても気になる。開けたら何が出てくるんだろう。そして貰っても大丈夫な物なの?


「そんなに気を遣わないでください」


 持って帰って!切実に言いたい。言えないけど。

 高力から差し出された通常よりも大きい箱が不安を隠せない。断りたい。でも断れない。仕方なく、入り口に控えていた侍女に目で合図をして、侍女に菓子折りを受け取らせた。うん。これで言い訳はたつ。私本人が受け取った訳ではない以上、もしも菓子折りの中身が賄賂のような代物だったとしても礼儀上仕方なかった、と言える。逃げ道って必要。



 その後、何故か高力と話す流れとなった。内容は監禁された時の状況。まぁ、詳しい話は青に直接言ったから内容は副官の彼も知っていたみたい。それでも聞いてくるところに青の信頼のなさが透けて見える。


「長官は並外れた頭脳の持ち主なのですが……そのなんと申しますか、自分が考えている事は相手も分かっていると思っている節があるんです。そのせいで何度も意思の疎通がうまくいかないことがありまして……」

 

「それは大変ですね……」

 

「御自分の頭の出来は理解していらっしゃるのですが……なんといいますか……。あ!いえ、こちらの話です!」


 そう言うと彼は慌てて誤魔化した。……この人は多分苦労人だ。主に青関係で。

 青が頭が良いのは分かる。天才型なんだろう。そのせいで周囲との摩擦があるんだと目の前の彼の言葉で何となく理解した。でも、私の所に謝りに来るだけでここまでする?なんだか釈然としない。

 この人、もしかして……。

 

「それで本日の御用向きの本当の理由はなんですか?」


 私の一言に一切の動揺が無かった。

 さっきまでの喜怒哀楽ぶりはなんだったのかと思う程に。

 髭と黒眼鏡で表情は分からんけれど話しぶりと態度で彼の心情が思いっきり反映していた。実に分かり易い人物だと思ったけど、どうやらその解釈は間違っていたみたい。

 

「さすが長官の見込んだお方。勘も良い」


 うわー。この人、青が前に言っていた『優秀な人材』に分類される側だわ。頭が切れるわけね。これは下手なこと言わない方がいいかも。……なんて思っていたけどすぐにバレた。そして色々聞かれた挙句に全部吐かされました。えぇ。隠し事なんか出来るはずなかったんですよ。だって頭の良い人の質問ってメチャクチャ答えにくい。ああ、この場合の「頭の良い」は「経験と実績を伴った」という枕詞がつくけど。誘導尋問に近いのにそうと思わせない口ぶりは流石だわ。青が負ける訳が分かった。ここは素直に従うのが正解。そんなことを考えている間に彼は満足そうに笑っている。顔は見えないけど雰囲気がそう。こんな芸当ができる人物は只者じゃない。

 やっぱり侮れない。気をつけよう……。



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