シンのギター1
詩が生まれる前の話だ。
シンの心が少し病んだ時シンの音楽の才能が開花したみたいだ。
一つ目の歌は始まりの夏。
それは感情のうねりに翻弄されながらシンが生み出したものだ。
シンからあふれ出たと言った方が良いのか。
この明るい歌が出来た時、実はシンは苦しんでいたことに気が付いた。
苦しみながらも私の事を想って書いた歌だとわかった。
心の中に残る元カノへの思いと今を一緒に生きる私への想い。
それをシンは私には言わないけれど一人で苦しんでいた。
信頼していた人からの裏切りは心に深い傷を刻み込む。
裏切った側はそんなに気にしないだろう。
同じような経験をするとわかるのだろう。
時間が経っても忘れられない。
心のどこかにしこりのようなものがあって時々それが疼く。
シンが夜中に泣きながら元カノの名前を呼んだこともある。
そんな時私は一人で涙をこぼしたような。こぼしてはいないけれど悲しかった。
自分ではなくシンがかわいそうになったのだ。
でも一つだけシンが言った寝言でどっちなのかわからないことがある。
「コハル、いったらアカン」
シンがそう呟いた時不謹慎ながらエッチの時にいったらアカンのかそれともそっちにいったらアカンのかの判断がつかなかった。
どっちにしても私の事が夢に出て来たんやなと思うとうれしかった。
話を戻すけれども、シンの意識のどこかにまだ元カノが居て夢の中でシンを苦しめているのだろうか。
あの歌詞の中の女の人はシンにとっては私であったり元カノであったりしたのだろう。
その事で私は不思議と妬いたりしなかった。
でもいつかその心の中に私だけが存在するようになればシンの苦しみは消えると思う。
シンが私だけを愛そうとしているのがわかるから。
シンの事これからもたくさん愛してあげよう。
私の愛情のシャワーでシンを幸せにする。
シンが幸せになると私も幸せになれる。
今までも幸せだったから。
そう信じている。
私がメロディーを楽譜にしてコードを付けたことによって
この歌は一つの歌として歩き始めた。
この歌はまだ私以外には聞かせたことがない。
そして二つ目の歌が白い蝶だ。この歌も詩がお腹にいるときに出来た歌だ。
この歌がきっとシンの心の奥底の叫びを表現したものなのだろう。
シンが立ち直るために思い描いていた世界が表現されていると思う。
シンは心の中の元カノを追い出そうとしているのだとわかる。
私とお腹の赤ちゃんのために。
いつまでも引きずってはダメなのだとシンは戦っている。
それが私にはわかってしまった。
だから私は安心した。シンは私の事だけを想うようになる。
シンは私だけを愛するのだ。
そう遠くない時期にそれはやってくる。
詩が生まれ花が生まれ、やがて小学生になった。
いつの間にか元カノの事は気にならなくなっていた。
それはシンに愛されているとわかっているからだ。
シンが私だけを愛しているとわかったからだ。
シンの心の傷は癒えたのだろうか。
わからないけれどもう夜中に泣きながら元カノの名を呼ぶことはない。
シンは仕事が忙しくなりギターに触れる時間が減って行った。
時々は触れていたものの上達するまでには至らない程度の触りようだ。
シンのギターは二十歳くらいの時に友達にギター始めようやと誘われて買った一万円くらいの中国製のものだった。
私のギターは国産のギターで三十万円くらいする。
アルバイトをして買ったものだ。
一緒に弾いているとシンのギターは音が響いてないなとかこもっているなといつも思っていた。
シンはあまり音の違いが分かっていないようだったけど私のギターの音を聞いてからはコハルのギターは本当に音が広がる感じがするなと言っていた。
最近仕事の忙しさは変わらないのにギターを触っている頻度が多くなってきている。
「シン、最近ギターよく触ってるね」
「そうやな。触っていると楽しいなって思えるんや」
「そうなんや」
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