第84話

 翌日。

 昨日十分この町のことを知り尽くしたので、今日はついにアルマルク城に乗り込む。

 ……予定なのだが。


「魔術師ってどこにいるんだよ!!」


 そう、待ち合わせ場所を決めるのを完全に忘れていた。

 この町の中を隅から隅まで歩くのは時間がかかりすぎる、それに相手がずっと同じ場所にいてくれるとも思えない……。


「魔王様どうしたんですか?」


「魔術師との待ち合わせ場所を忘れてしまってな。……マーシャたちには話していないだろう?」


「それならあたしも聞いてたわよ。確かこの宿の舌で待ち合わせってことになってたはず」


「そうか、ありがとうマリー。おかげで教一日を無駄に使わずに済みそうだ!」


「大げさよ魔王、それよりあそこで待っている人がそうなんじゃないかしら?」


 マリーが指さしている先には、真っ赤な服を着たいかにも魔術師と言えそうな人物が立っていた。

 おそらくあの人で間違いないだろう。


「すまないが、魔王のことを待っている魔術師は君か?」


「誰だ、まさかアルマルクの……」


「違う違う。俺が待ち合わせをしていた魔王本人だよ」


「魔王様でしたか。失礼いたしました」


「別にこれくらい大したことじゃない。それよりもさっそくで悪いが、俺たち三人を連れて行ってくれないか?」


「もちろんです魔王様、ぜひ我々の願いをかなえてください」


「魔術師の願いとは……なんだ?」


「我々魔術師たちは一つの場所で生活していきたいとずっと考えていたのです。それが魔王帝国の内部で実現しようとしているという話を聞いたので」


「ブラッドが話していたのか。もちろんその計画は順調に進んでいる。一万人でも二万人でも楽しく暮らせるよな場所にしていくつもりだ」


「ありがとうございます魔王様」


「別にそれくらいお安い御用だ」


「こんなところで立ち止まっているわけにはいきませんよね、すぐに魔術を使用します。なので三人とも私につかまってください」


 移動するためには術者につかまるとかが必要なのだろう。

 多分だが……、それにしても二人は魔術師につかまろうとせずに俺につかまってきた。

 嫌というわけではないが、ほかの火の前でこういうことをされるのは少々恥ずかしい。


「それでは行きます。上級魔術瞬間移動!」


 魔術神にやられたときと同じように、周りが光に包まれる。

 今までは不穏な光のように感じていたけれども、今回は希望の光に包まれているといっても過言ではないだろう。

 心なしか力があふれかえってくるような気もする。

 そしてあっという間に大きな城の前に到着した。


「これがアルマルク城なのか」


「予定より少し遠くに来てしまいましたね。でもここからは一本道ですのですぐにたどり着けると思います」


「じゃあさっそく……」


「お待ちください魔王様。昼間の警備は人数が多いのです、できれば深夜のあたりに行くのが一番いいかと思います」


「そうだな、無駄な戦闘は極力避けたいからな」


「ありがとうございます魔王様、それでは私はここで待機しておりますので。アルマルク王の討伐が終わりましたらこちらにお越しください」


「ちょっと待って。魔術師さんはずっとそこにいるつもりなの?」


「魔王様達を待たせるわけにはいきませんから。それに私はまだ修行の身、少しでも多くの時間を修行に費やしたいのです」


 まだ話しかけようとしているマーシャのことを、マリーが止めた。

 彼女も魔術師の一人であることに間違いはない。

 だから彼の気持ちがわかるのだろう、俺にはあまりわからないけれども。


「夜まで暇になったことだし、町に散歩しに行くか」


「はい、魔王様!」


「せっかくだから魔王も名前負けしないような服装にしてみたら?」



 アルマルク城の城下町、ベルトビ。

 ここはざっと見た感じでもユストの三倍以上の面積がありそうだ。

 俺たちのほうは半分以上が張りぼての建物だったけれども、こちらはそのほとんどの建物がしっかり使われているように見える。

 単純に考えたら六万人程度は住んでいるということになるな。


「名前負けしないような服装といってもな。俺はあんまり派手なものは好きじゃないんだ」


「……今まで私たちが選んでもらっていましたし、今度は私たちからプレゼントするのはどうでしょう?」


「いいわね、マーシャに賛成!」


「プレゼントって……二人ともお金持ってないだろ」


「何を言ってるのよ魔王。私あたしには今までの貯金があるの、魔王ほどはさすがに持っていないけど、高い服の一着や二着くらい余裕で買えるわよ!」


 マリーはなぜか自信ありげにそう言ってきた。

 別にこの服で十分気に入っているのだけれども、ここで断るわけにもいかないだろう。


「わかった。それじゃあ一緒に探してくれ」


「あたしに任せなさい、魔王にぴったりの洋服を探してあげるから!」


「私にも任せてください。真っ黒で悪者っぽいものを見つけてあげますから」


「俺は悪者にはなりたくないんだけれども……」


 そういった俺の話は二人には聞こえなかったようで、すぐに服屋を探しに行ってしまった。

 ……こんな場所で迷子にさせるわけにはいかないよな。ちゃんと見張っておかなければ。

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