第78話

「魔王とマーシャやっときた!」


 既にマリーは風呂に入っているようだった。

 ……まあさすがにタオルは巻いているか。

 うん、待てよ風呂にタオルを入れるのはマナーの悪い行為だったかな。

 でもタオルを外されたほうがいろいろとまずい気がするしこのままでいてもらったほうがいいか。


「魔王様、さっきからマリーちゃんのことばっかり見ていませんか?」


「そんなことないぞ、マーシャのこともちゃんと見ている!」


「……いわれてみれば、ちょっと胸大きくなったか? あんまりわからないが」


「ちょっと魔王様どこ見ているんですか」


「そうよ、お風呂に入っていきなりそんなこと言うなんて!」


「マーシャが胸が大きくなったから一緒にお風呂入りましょうって言ってきたんだぞ」


「私そんなこと言ってないです。身長の話をしてたんですよ、魔王様変なことばっかり考えて……」


 もしかして、俺はとんでもないセクハラをしたのでは?

 どうしよう、ここで大声を上げられたら、最大で五人に変な誤解を持たれてしまう。

 ここは何としてでも許してもらわなければ。


「すまなかった。そうだ、マーシャの腕って細くて白くてかわいいな。髪型ともよく似合ってるぞ!」


「魔王様必死すぎますって。別に私は大声出したりしないから大丈夫ですよ」


「あたしのことを誉めてくれないんだったら、大声出しちゃおうかな?」


「マリーもかわいいぞ、上品な……上半身だし、スタイル抜群で一目ぼれしただけはある!」


「……褒められてるのかわからないけど、まああたしも声は出さないで上げる」


 ふう、何とか最悪の事態だけは避けられたみたいだ。

 それにしてもマリーよりマーシャのほうが好みだな。

 いろいろ細いし小さいし、強く触ったらつぶれてしまいそうだ。

 まあ俺が触ったら何でも物理的に壊れるだろうけど。


「マリーちゃん、今そっちに行よ!」


 マーシャは体を洗い終わったらしく、お湯の中に飛び込んだ。


「飛び込みは危ないからやめなさい、やけどするかもしれないし危ないぞ」


「大丈夫ですよ。私は魔王様みたいに重くないので!」


「俺は重いから地面を壊せるわけじゃない、筋肉がすごいだけだ!」


「魔王最近体重増えたんじゃない?」


「な、なぜそれをマリーが知っているんだ」


「それは秘密。もしかして私のおかげで幸せ太りしたの?」


 マリーは俺が恥ずかしがるのを見て楽しむ作戦のようだ。

 そんなことをされるのであればこちらにだって考えくらいある。

 恥ずかしがるのではなく、彼女のことを徹底的にほめまくればいいのだ。


「ばれてしまったか。実はマリーの作る飯がうますぎてな、体重が五キロも増えてしまったんだ。これからもお願いだ」


「……そんなにストレートに言われるとは思わなかった。でも、魔王が私の料理を誉めてくれた、これってつまり私のこともほめてくれるって考えていいのよね?」


 マーシャのことを素直にほめたら、どうやら壊れてしまったらしい。

 彼女はずっと独り言を言うだけになってしまった。


「マリーちゃん大丈夫……?」


「大丈夫よマーシャ、今日の夕飯は手抜きをしたとかそんなこと全然ないんだから!」


「別に何でもいいけど、あんまり大きい声を出さないでくれよ。ほかの人たちに一緒に入っていることがばれたら面倒だからな」


 そういうと、マーシャは自信ありげに答えてきた。


「大丈夫ですよ魔王様、今回のことはちゃんとほかの人たちにも知らせておいたので!」


「どこに大丈夫な様子がある、俺が変態という誤解を植え付けるじゃないか」


「…………変態でもいいじゃないですか、私たちとこんなにくっつけるんですよ?」


 俺が風呂に入ると、マーシャが立ち上がって近づいてくる。


「ほらほら、ちっちゃい子の体を触り放題なんですよ。どこ触りますか?」


「どこも触らないから! 俺から離れてくれ」


「いやです、魔王様とはずっと一緒って初めて会った時に言われました」


 マーシャがどんどんと距離を詰めてくる。

 このままでは理性が……。


「マーシャそれ以上はだめよ」


「そうだよなマリー。マリーの言うとおりだぞマーシャ、俺のことをからかうなんて……」


「抜け駆けなんて許さないわ! あたしも混ぜなさい!」


 マリーが止めてくれたとばかり思っていたので、二人から顔を近づけられるとは思わなかった。

 マーシャとは違いマリーはスタイルがいい。

 二人の甘い匂いが漂ってくる。

 このままじゃ本当に理性が……!


 別にもうほかの人にもばれてるんだよな、だったらもう理性なんて働かせなくていいんじゃないか?

 悪魔のささやきではなく魔王のささやきが頭に浮かんできた。

 どうせ変態の烙印を押されるのであれば、触れるものはたくさん触れておきたい。


「そんなに迫ってきた二人が悪いんだからな。俺は悪くないからな!」


 変態と言われようと、何と思われようとかまわない。

 覚悟を決めてマーシャの頭をなでる。


「魔王……さま?」


 今までやってこなかったけど、マーシャのことをずっと抱きしめてみたかったんだ。

 裸で抱きしめることになるとは思わなかったが、彼女の甘い匂いに包まれて幸せ……。

 と思ったのもつかの間


「魔王様は私の魅力にメロメロみたいです。マリーちゃん残念だったね!」


「何よその言い方、あたしのほうが百倍魅力的な体してるわよ。魔王私のことも触りなさい!」


 マリーがこちらに向かって体を押し当ててきた。

 二人の暖かさ、そしてマリーの少し小さめの胸に包まれて……。

 気づけば俺は気を失っていた。


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