第65話

 日和国から帰ってきた。


「さて、少々さみしいが明日からはスズとはいったんお別れになるな」


「ずっと一緒にいてくれると思ったのに……」


「お別れといっても昼間だけだがな。実はローズたちと一緒に働いてもらおうと思っていてな。よるはうちで暮らしてもらうつもりだったのだが……それでもいいか?」


「……でも私お邪魔じゃないかにゃ?」


「私たちがそんなこと思うわけないじゃん!」


「スズが嫌じゃなければずっとうちにいてもらって構わない。どうせ部屋の半分くらい使ってないしな」


「ありがとう魔王様、一生ついていきますにゃ!」


 スズが喜んでくれたみたいで何よりだ。

 家に着いたことだし、まずは彼女の部屋を決めるか。


「寝室から右側と俺の横の部屋は空いているからどこでも好きな部屋を使いなさい」


「それじゃあ私ここにするにゃ!」


 選ばれたのは、俺の横の部屋だった。


「じゃあ必要なものがあれば何でも言ってくれ。家具も置いていないからな」


「中を見てもいいですかにゃ?」


「今からお前の部屋なんだ、好きにしなさい」


 スズは部屋の扉を開ける。

 そしてかなり驚いていた様子だった。

 まああちらの国とは部屋の作りとかが違うから若干戸惑っているのかもしれないな。


「こんなに広いお部屋を貸していただいていいのですか?」


「もちろんだとも」


「私起きて半畳、寝て一畳あれば十分なのに……。こんなに広いならたくさん家具を置けてしまいます」


 スズは今までどんな場所で過ごしていたんだろうか。

 彼女の言葉を聞いて驚いていたのだが、やはり彼女の耳に目が行ってしまう。

 さっきから興奮しているからなのかずっと耳がぴくぴく動いている。

 一度でいいから触らせてほしい……ただマーシャたちの前でそんなことできるわけないし。


「それじゃあ魔王行きましょうか?」


 自分の心と戦っていると、マリーに声をかけられた。

 そういえば今日ここに帰ってきたらデートするって話していたもんな。

 二人をここに置いておくのは心配だが、ちゃんとカギをかけておけば大丈夫だろう。


「二人とも、悪いが俺たちは少し出かけてくる」


「それじゃあ私も……!」


「すまないなマーシャ、マリーと二人だけで出かける約束をしてしまってな」


「マリーちゃんとの約束なら仕方ないですね。でも早く帰ってきてくださいね?」


「もちろんだ、じゃあまた後で」


 魔王城から出て、マリーにどこかに連れていかれる。

 どこに行くのかはわからないが、少なくとも村の外になるだろう。

 寄りにもよって何でそんな場所に連れていかれるんだ?


「魔王ここ覚えてない?」


「ここは……」


 マリーと初めて戦った場所、……戦ったというかずぶぬれにされた場所か。

 マーシャの時も同じようなことがあったな。


「あたしと魔王が初めて会った場所よ! もう一回やってみない?」


「勘弁してくれ、あんな冷たい思いはもうしたくない」


「冗談よ、代わりに上着かして!」


「代わりってなんのだよ。まあそれならいいけど」


 マリーに上着を渡す。

 彼女はそれを受け取ると、顔を近づけた。

 結構汗かいてたから匂うと思うんだけどな……。


「べ、別にこれは魔王の奴だからやったってわけじゃないんだからね! たまたま匂いを嗅いだだけなんだから」


「なんでもいいけどそれだけならマーシャたちのいる場所でやってもよかっただろ」


「魔王は全然わかってないわね。二人っきりでいるからいいんじゃない」


「そういうものなのか。よくわからんな」


 しばらくマリーの様子を観察してみる。

 俺の上着をとって何をするのかと思っていたが、まあ普通に着たか。

 もしかしてずっとマリーは寒い思いをしていたのか?

 だったら彼女のためにも何か買ったほうがいいか。


「いままで寒かったのか?」


「ううん、むしろ熱いくらいだよ!」


「……。よくわからないな」


 もしかしたらプレゼントして欲しいという要求なのか。

 できるだけ早いうちに買ってやらないとな。

 ただしアルマルク国をどうにかしてからだ。


 魔術神と魔術教にこちらへの攻撃をやめてもらう、そしてあいつの目的である死者数を最小限に抑える。そのためにはアルマルク王一人を倒せばいいだけなのだが……。

 何はともあれ、ブラッドがどこまで頑張ってくれるかにかかっているんだよな。

 しばらくは国力を高めるのに注力するか。


「そろそろ帰りましょ、マーシャたちも待っているだろうから」


「いやもうちょっとここにいさせてくれ。足がしびれて動けないんだ」


「わかった、それじゃあ……」


「いきなり抱き着いてどうした」


「なんでもない、しばらくこうさせて」



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