反撃開始

第51話

 さて、今日からも頑張るぞ!


「魔王様、私も準備できました!」


「そうか、それじゃあ出発しようか」


「どこか出かけるつもり?」


 朝起きた時にはマリーの姿がなかった。

 だから置手紙を置いて出発しようとしたのだが、どうやら外に買い物をしに行っていたようだ。


「お帰りマリー、この時間にここにいて大丈夫なのか?」


「今日はやること少なそうだから遅めに行くんだ。それにしても二人がこの時間に起きているなんて珍しいね」


「今日から魔王様と一緒にユストに行くんです!」


「からってことはもしかして、何日もかかるの?」


「いつまであちらにいるのかはわからないが、ユストを任せられる人間を見つけられるまではいることになるだろうな」


「そう……。魔王がいない間シュリアは守っておくから! 私がいないからって泣かないでよ!」


 マリーは笑顔で送り出してくれていたが、絶対悲しんでいたよな。

 もっと早く伝えようと思ったのだがマリーは帰ってきてからもつかれていたからな……。

 それにしても毎回歩いて移動するのは面倒だな、せめて馬車か何かがあればいいんだろうけれどユストでもシュリアでも農業用でしか動物を育ててないからな……。


「魔王様朝から悩んでどうしたんですか?」


「移動手段について考えてたんだ。マーシャも毎日歩いて回っているし、疲れるだろう?」


「私は魔王様と一緒なら平気ですよ!」


「すごいなマーシャは」


 悩んでいるうちにユストについたみたいだ。

 とりあえずこの村の現状を知る必要があるな。


「これから町の中を歩くが休憩してからにするか?」


「私はこのままで大丈夫ですよ! それじゃあ出発しましょう」


 目的もなく村を歩く。ミリアの人間たちがいなくなったおかげか以前よりも活気にあふれている。


「見て、あの人魔王様にそっくり!」


「本当だ、魔王様って言われても違和感ないよ!」


「坊やたち、俺は偽物じゃなくて本物だよ」


「えっ本物の魔王様だったの?」


「そうだとも」


「すごいすごい! 握手して!」


「いいぞ」


「ずるい、僕ともして!」


「もちろん」


 子供たちの間にも俺のことが広がっているようだ。

 少年たちと別れてしばらく歩いている音、道の端っこで泣いている少女を見つけた。

 さすがに放っておくわけにはいかないだろう。


「マーシャ、ちょっとこっちに来なさい。あの子と話をしてくるから」


「わかりました魔王様!」


「なにか困ったことでもあったのか?」


 歳はマーシャと同じか若干下暗いだろうか。

 小さい子と話すときは目線を同じにすればいいと聞く。

 なので相手の目を見てにこやかに話しかけたつもりなのだが……。


「うわーーん」


 泣き止んですらくれなかった。

 うーん小さい子の扱いは難しいな。


「魔王様、ここは私に任せてください」


「いきなり話しかけちゃってごめんね。私はマーシャっていうんだ」


「メ、メアリー」


「メアリーちゃん。どうして泣いてたのか教えてほしいな」


「ローズ姉さまに外で遊んでおいでって言われたの、でも気づいたら街の知らないところにいて……。メアリー一人で怖かったの」


「そっかそっか。大丈夫、私とそこにいる魔王様がお姉さんのこと探してあげるから」


「あの人魔王様だったの? うわさは聞いたことあるけど、本物見たのは初めて」


 小さい子の相手は小さい子に任せるのが一番ってわけか。

 それにしても泣き止んでくれたようでよかった。


「いかにも俺が魔王だ。よろしくな」


 そう言って手を差し出したのだが、マーシャの後ろに隠れてしまった。

 なかなかうまくいかないものだな。


「メアリーちゃん。魔王様は見た目は怖いかもしれないけど、中身は取っても優しい人だから。そんなに怖がらなくてもいいよ」


「ほんとに?」


 見た目が怖いと言われたような気がするが、きっと気のせいだろう。

 というかそうであってくれ。


「ローズお姉さんの特徴とか教えてくれる?」


「えーと。『わふく』っていう珍しい服を着てるんだ。薄い緑色でとってもきれいなんだ! それととってもかわいいんだよ!」


「魔王様わふくとは何でしょうか?」


「ユストのずっと南のほうにある国でのみ作られてる服だ。お腹のあたりにこう、布でできている帯をつけているのが特徴だな」


「魔王様がつけているのはベルトですもんね」


「ああ。だからそれを目印にして探すのがいいだろう」


 この町で和服を着ている人なんて……そういえばいたな。


「メアリー、君の姉は町役所に勤めてなかったか?」


「なんで知ってるの? もしかしてストーカー」


「いや、前にあったことがあるんだ。薄緑の和服を着ていたからよく覚えているんだ」


「姉さまかわいかったでしょ!」


「顔までは思い出せないが……姿は美しかったな」


「そうでしょ! 姉さまは世界で一番美しいんだから」


 この子、姉のことを話しているときはやけに元気だな。


「それじゃあ行政区域に向かうぞ」


「はい、魔王様!」


「うん。ありがと……」






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