第50話 二人だけの時間
翌日。
「それじゃあ私は仕事するから、多分すぐ終わると思うけど」
「頼んだ村長代理」
「私に任せなさい!」
マリーは朝早く起きて俺の代わりに仕事をしてくれている。
なんともありがたいことだ。
さて、俺は今日はゆっくり……。
「魔王様おはようございます! 久しぶりに二人になれましたね」
ゆっくりできそうにないな。
「おはようマーシャ、朝早いじゃないか」
「魔王様と一緒に行きたい場所がありまして……もしよければ一緒に行ってくれませんか?」
「今日は暇だしいいぞ。どこに行くつもりなんだ?」
「それはついてからのお楽しみです!」
どこに行くのか見当もつかないが、マーシャについていく。
それにしても二人っきりになるのは一部りだろうか、もしかしてマリーと会ってからは初めてなんじゃないか?
「魔王様行きたい場所なんですけど、実は村の外なんです。それでもいいですか?」
「いいぞ、久しぶりに二人になれたからな。どこでも好きなところを言いなさい」
「魔王様と初めて会った場所に行きたいです」
「わかった、それじゃあこっちの道だな」
俺たちが初めて会った場所、魔王城とシュリアの間の道だ。
しかし、こうしてみると町も随分と変わったよな。
俺が初めて見たときにはこんな堀なんてなかったし、見張りの兵士ももっと殺伐としていた。
それにしてもやはり水堀にして正解だったな、中からも外からもきれいに見える。
「魔王様早くいきましょうよ。じゃないとマリーちゃんが帰ってきちゃいますよ」
「ちょっと位遅れてもいいだろう」
「ダメです、私が早くいきたいんです!」
「わかったわかった。だから俺の服を引っ張るのだけはやめてくれ、伸びてしまう」
マーシャに催促されて歩き出す。
確か分かれ道のところで出会ったんだよな。
「ここですよね、魔王様と初めて会ったのは」
「マーシャも覚えていたのか。この場所からすべてが始まったんだよな」
「まだ始まったばかりです、そういうことを言うには早いですよ」
「そうだな、あれからまだ二週間くらいしかたっていないもんな。それにしてもなんでここに来たいと思ったんだ?」
「ちょっと長くなりますけどいいですか?」
「いいぞ、好きなだけ話してくれ」
「知らない村に放り出されて声をかけることもできずに逆に声をかけられることもなく歩いていたんです。そしたらとぼとぼ歩いている魔王様を見つけて」
「そうだったな、あのときはかなり絶望していたからな」
あの時のことは今でも鮮明に覚えている。
絶望していたときにマーシャから話しかけられたこと、そして金がないのにおごらされたこと……。
まだ一か月もたっていないのに、遠い昔のことのように感じる。
「魔王様、ここで膝枕したいです。いいですか?」
「わかった、それじゃあ遠慮なく……」
正座した彼女の膝に頭を預ける。
初めて会った時にも同じことをしていたな。
「私の顔見つめちゃってどうしたんですか。もしかして何かついていましたか?」
「なんでもない、いろいろと思い出していただけだ」
しばらくそのままでいると、足音が聞こえてきた。
「どうされたのですか魔王様?」
「足音が聞こえてな。誰かにこの状況を見られるわけにはいかないだろ」
「私は別にいいですよ。魔王様とずっとつながっていたいですし」
「もともとつながっていないだろ、それにその表現はいらぬ誤解を招いてしまうかもしれないからな。気を付けてくれよ」
話をしている間にどんどんと足音が近づいてくる。
このあたりを通る人間がいるとは珍しいな、ユストとシュリアが同じ国になったとはいえ……。
しまった、完全にユストのことを忘れていた。このままあっちに行くか……。
いや今日はマーシャと二人でゆっくりしよう、そして明日から本気を出す。
「マーシャ……とそこにいるのはどなた?」
足音の正体が分かった。
若い女性だった。マーシャのことを知っているようだし、こちらも見おぼえがある。
いつかの正夢でマーシャと会っていた人物。
「初めましてリック、私は魔王帝国の魔王だ。こうして会うのは初めてになるのかな?」
「あなたが噂の……マーシャ、いい人を見つけたわね」
「ちょっとリック恥ずかしいからそういうのは大声で言わないで!」
「いいじゃないちょっとくらい、それでどこまで行ったの。もうキスはしたの?」
俺のことそっちのけで恋愛話をしている。
それは別に構わないのだが、俺が目の前にいるのを忘れているんじゃないだろうか……。
「まあ冗談はこれくらいにして安心したわ。それじゃあ私はこれで」
「ちょっと待ってくれリック。俺はお前と話がしたいんだ」
「こう見えても私は忙しいの。ごめんなさいね」
そういうと、彼女はユストのほうへ向かって歩いて行った。
あの町に何か目的があるのか?
念のため追跡しておいたほうが……。
マーシャに腕をつかまれた。
「今日は私と一緒にいてくれるって約束でしょ。もう忘れちゃったの?」
「……。そうだったな、今日はマーシャの好きなようにしていいぞ」
「やった! 魔王様大好き!」
「ああ俺も好きだよ」
「じゃあ好きって証拠に今度は魔王様が膝枕して!」
「しょうがないな、少しだけだぞ」
リックの目を見たがすぐに脅威になるわけでもないだろう、それに彼女はマーシャの仲間のはずだ。こっちに手を出してくるとは考えずらい。
それに今日はマーシャと二人で過ごすと約束したしな。
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