第36話 湖を作ろう


「あれ、魔王様どこに行っちゃったのかな?」


「きっとそこら辺に隠れているんじゃない。あの変態のことだから」


「何度も言うが、俺は変態じゃないぞ。ちょっと陰から観察していたくらいで何でそんなふうに言われないといけないんだ」


「陰から見ないで堂々と見てればいいのに」


「魔王様ずっと私たちのこと見ててくれたんですね、なんだかうれしいです!」


 二人の水着選びは終わったようだ。


「あれ、店員はいないのか?」


「私とマーシャのパジャマと普段着も用意してもらってるんだ。かわいい私たちにはかわいい服じゃないと!」


「それは別にいいけど、あんまりたくさんは買わないでくれよ。今は金があまりないんだ」


「大丈夫、水着は一着でいいって言ったらサービスしてくれた!」


 金貨十枚って結構な額だったんだよな。

 下手したらこのお店の商品全部買えるくらいの金額だったんじゃないか?

 すごくもったいないことをしたような気がしたが、それよりもきになるのは二人の水着姿だ。


「お待たせいたしました、こちら当店で一番高級なパジャマ二着とお二人に一番似合う服が各十着になります!」


「たくさん買ってしまって申し訳ない」


「とんでもございません、またいつでもお越しくださいませ! 次回もその次もお題は結構ですので!」


「いやいや、さすがにそういうわけには……」


 次に俺の服を買うという約束をして店を出た。

 あの店の高級品は俺には似合わないと思うんだがな……。

 高級スーツも革靴も俺にはどうも魅力的に思えない。


「魔王様、どこで水遊びするの?」


「言われてみればこの近くで川があるとは聞いたことないな」


 適当に歩いていけば川につくだろう。

 ただそれじゃあ遊ぶ時間が減ってしまうし……。

 悩んでいるとマリーが話を振ってほしそうにこちらを見てきた。

 そういえば彼女は水属性の魔法が使えるんだったか。


「マリーは水を使えるんだったよな。でも水遊びできるくらいの水を用意するのは難しいんじゃないか?」


「何を言ってるのよ、私のことを舐めないでよね。ここに大きな湖を……」


 マリーはそう言って町の中に魔術を使おうとしていた。


「まてまて、こんな場所にそんなものを作ったら道がなくなるだろ。そういうのは農地の近くでやったほうがいい」


「そうなの? じゃあそっちでやりましょう!」


「ふう、危うく道の整備にかけていた時間が水の泡になるところだった」


 シュリアのはずれにある農地に来た。

 水が少なくて困っているという話を聞いたことがあるし、この近くなら湖を作っても問題ないだろう。


「ちょっと待ってろ、ここに大きな穴をあけるから」


 農地に影響が出ないように、少し離れた場所の地面に思いっきりパンチをする。


「はあっっ」


 どんどんと土が前方に移動していく。

 浅いとがっかりだろうし、どうせならできる限り深くしてみよう。


「ねえマリーちゃん、魔王様が見えなくなっちゃった」


「そうね……さすがに掘りすぎよね」


 周りは乾燥した土しかないからいいけれども、あまり大きな穴があったらそれはそれで危険だ。


「魔王様それくらいでやめてください! それ以上掘ったら危ないです!」


「わかったこれくらいにしておく」


 無我夢中でやっていたので気づかなかったが、俺が四人くらい入りそうな深さになっていた。

 けっこう掘ったけれど、どうやって出ようか。

 この中を上っていくのは難しそうだし、水を入れてもらってそれで出るしかないか。


「マリー、いつもの奴を頼む!」


「私はお店じゃないのよ、でもそれ位じゃないと出れなさそうだし……わかったわ」


「すごい、こん名にたくさんの水どこから出てきたんだろう?」


「これが私の魔術よ。マーシャもそのうち使えるようになるかもね!」


「うん、そうなったらいいな」


 無事に穴から出れたのはいいのだが、また服が濡れてしまった。

 それにしてもそこそこ深い穴になったな。横の大きさも軽く泳げるくらいはあるな。


「それじゃあ俺は離れたところで着替えてくるから、二人も適当なところで着替えていなさい」


 店の中で水着を見せてもらおうと思ったのだが、マリーに断固拒否されてしまったのでお預け状態だった。

 店員のあの言葉も気になるし、いったいどのような水着なのだろう。

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