第30話 ユストの人々

「本当に魔王様がいると思うか?」


「きっといるよ。だってミリアの奴らが帰っていくのをこの目で見たんだ!」


「あいつらをあんな目に合わせられるのはにできるのは魔王様くらいしかないはずだ」


「どんな姿をしているんだろう、私あったことないから楽しみだわ」


 外が騒がしくなったせいで目が覚めてしまった。


「おはようございます魔王様、ちょうどいいタイミングでしたね」


「村の人たちが集まり始めたわ。もうそろそろ話を始めてもいいころだと思う」


「もうそんな時間か、それじゃあまた出てくるから」


 俺が一人で出ようとすると、マーシャに止められた。


「せっかくなら三人で話しませんか? そのほうが本当の魔王様のことを知ってもらえると思うんです!」


「だめだ、もしかしたら暗殺部隊が入り込んでいるかもしれないからな。もしものことを考えたら二人のことを出すわけにはいかない」


「ちょっと大げさすぎない、でもそれくらいのほうがいいのかもしれないわね」


 マリーは納得してくれたようで、マーシャの説得を手伝ってくれた。

 結果的には二人とも納得してくれたので一人だけで出ることとなった。


「あーユストの人々よ、私はシュリア村の村長であり魔王帝国の王である。今回この村に来たのは、魔王帝国の再建のためである。みんなにはそれのための力を貸してほしいんだ」


 息継ぎをするためここで一息つく。


「俺はこの町のことを大切に思っている。それに町の経営には自信がある、どうか俺にこの町を再び納めさせてくれないか」


「魔王様の言うことなら賛成だ!」


「あの人なら私たちの生活も豊かになりそうね。というか魔王国が崩壊するまでは豊かになり続けていたし」


 来てくれた人々の間では、俺が町長に就任することに対して文句を言っている人はいなかった。

 シュリア村の時にはすぐに結果が分かったけれども、あいにくこちらの町では人数が多い分、今日中に結果を知ることは難しいようだった。


「これからどうしましょうか魔王様」


「そうだな、今回もライバルがいないわけだから勝つことは間違いないだろうし、これ以上の選挙活動をする必要はないだろう」


「それじゃあお昼にしませんか、私お腹すいちゃいました」


「わかった、じゃあ行くぞ」


 ユストの飲食店は熟知している。

 マーシャの好みに合いそうなところだと、あそこだな。


「おー兄ちゃん久しぶりだな。そちらの二人は?」


「こちらの小さいのがマーシャ、大きいほうがマリーだ」


「へー、二人ともよろしくな。いつもの奴でいいのか?」


「ああよろしく頼む」


 そう言って適当な席に座る。


「魔王様、このお店全然人がいないね!」


「人通りの少ない通りだからな、町の拡張が実現できればもっとにぎわうはずなんだが」


「確かに、ここ町の隅っこだもんね」


「将来的には魔王城のほうまで町を広げたいと考えていた。そのその前に国がなくなってしまったので白紙になったが」


 二人の前だから格好つけて言ったが、魔王国時代に一度もそのような話を考えたことはなく、とっさに考えた思い付きだ。

 ただ税収を増やすには悪ない案かもしれないな。


「へいお待ち、特製の焼き鳥だよ」


「このお肉トロトロでおいしいです! ありがとうございます魔王様」


「気にするな、どんどん食べてくれ」


 マーシャがおいしそうに食べてくれて何よりだ。

 ここのタレは驚くほどしょっぱい、でもおいしい。


「ありがとう、それじゃあ追加で何か頼もうかな」


「食べ過ぎて動けなくなっても知らないから」


「大丈夫だマリー、俺がそんなことするわけないだろ」

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