第29話 ここは俺の町だ
「よかった、ユストはまだ生きていたんだ」
建物は俺が最後に見た時とほとんど同じ状態で残っていた。
しかし人通りが少々少ない気がする、前はもうちょっと活気があったはずなのだが。
「この町はシュリアと違って建物がきれいに並んでいるわね」
「ほんとうだ、マリーちゃんよく気づいたね!」
「ここは一度あった町を取り壊して、できるだけ美しく見えるように作り替えたんだ。自然に発展していったわけでないからこうなっているんだ」
「魔王様詳しいね!」
「まあな。それじゃあ町の端のほうに向かうぞ。たしかそこに町の施設を密集させていたはずだからな」
「なんでそんなに自信なさそうに言うわけ」
「最後に責任者と会ったのは十年前とかだからな。町には毎日のように顔を出していたけれど、子供たちと遊んでいたし」
「やっぱり魔王は変態じゃない!」
「別にやましいことなんてしていないぞ。かけっこしたりおままごとに付き合わされたり……。なかなか楽しかったぞ」
「私たちと旅するのとどっちが楽しいですか?」
「そりゃあ今のほうが何倍も楽しいさ」
話している間に行政区域にたどり着いた。
「魔王、この町ちょっとおかしいわよ。さっきからほとんど人を見かけないわ」
「建物は何もされていなかったけれど、ひょっとしたら住民たちがさらわれたのかもしれないな」
できればただの思い込みであってほしい。
確認する方法はただ一つ、町長に確認を取るだけだ。
役場の中に入って受付に顔を出す。
「ユストで和服を着ているのか、薄い緑でとても美しいな」
「ありがとうございます。ところであなたは……?」
「俺は魔王帝国の王だ。町長は今いるか?」
「町長は魔王城が燃えたのを見てすぐにどこかへ逃げて行ってしまいました」
「そうか、なら今の統治者は誰なんだ?」
「統治者とは言いたくないのですが、ミリア族がこの町を乗っ取っています」
ミリアといえばシュリアの東側にある地域だ。
血の気が多く、統治するのにかなり時間がかかったと父が言っていた。
国が消滅したすきにやられたか。
「ミリアの集団が来てからというもの、町ではアルマルクに攻められるという噂が流れたり、奴らを怖がって外に出ない人が急増したりして町がめちゃくちゃになってしまいました」
「悪い人のせいで歩いている人が少なかったんだね! そんなの許せない」
「魔王様、どうか我々のことを救ってください」
そうって彼女は涙を流した。
それだけでどれくらい苦労をしていたのかが伝わってくる。
「今までよく耐えてくれたな、これからは俺に任せておけ」
「ありがとうございます魔王様。一生ついていきます」
「大げさだな。さっそくで悪いが町の人々をどこか一か所に集めてはくれないか? 俺が生きているところを見ればみんな安心するだろう」
「わかりました、ほかの職員にも伝えておきます」
「頼んだぞ」
職員がほとんど全員ではからった。
「魔王、シュリアとユストの両方を統治するって大変じゃない。どっちかを見捨てたりしないでしょうね」
「最終的には魔王国だった場所をすべて俺の支配下に戻そうと考えている。そうなると俺が全部を統治するのは無理だろう。だから地域ごとに直轄組織を作ろうと思う」
「それだったら魔王様の負担が減るね。でも誰を任命するつもりなの?」
「まあ今言ったことは最終的にということだかな。今すぐやろうというわけではないさ」
そう、この計画で一番の問題は誰に任せるかだ。
あまりにも優秀な人間に任せた場合、反乱を起こされるかもしれない。
逆に仕事のできない人間に任せたらその地域が衰退してしまう。
ほどほどの人材をどうやって集めるべきか……。
「ねえ外が騒がしくない?」
「言われてみればそうだな。ちょっと覗いてみるか」
外が騒がしいので扉を開けてみると、武装した集団がいた。
人数にして三十人ほどか。さっき噂されていたミリアの奴らだろう。
「二人とも、ちょっと下がっていなさい。すぐに終わるから」
二人ともただ事ではないのを察したらしく、素直に従ってくれた。
「おい兄ちゃん、そこどいてくれないか。ここは俺たちミリア族が統治することになったんだ」
「誰の許可を得てそんなこと言ってるんだ」
相手の武器を見たところ剣が半分、のこぎりだったり包丁だったりが半分。
武器をそろえる金がないのかそれともこの建物を壊すつもりなのか。
「俺は魔王帝国の王だ。お前たちはミリア族といったな。魔王国の後継である魔王帝国の王とどんな血筋かわからないお前たち、どっちがこの地を納めるのにふさわしいだろうな」
「魔王って生きてたのか」
「いや生きていても先代のとは違って弱かったはずだ」
「それじゃあやっちまうか」
相手のことを観察していたが、中心人物がいるというわけではないようだ。
それに全員がこちらに武器を向けている、戦うしかなさそうだ。
「俺が弱かったのは事実だ、しかし今の俺はお前らを全員殺せる力を持っている。今降伏するなら命だけは取らないでおくぞ」
「それはこっちのセリフだ!」
ミリア族の一人が剣をこちらに向けてくる。
試しにそのまま攻撃を受けてみる。
カッキーーーン
金属がぶつかったようないい音があたりに響く。
どうやら相手の剣にひびが入ったようだ。
「それが本気なわけないよな? 手加減してるんじゃねーよ」
そいつの膝を思いっきり蹴る。
「うわぁぁぁぁぁぁ」
宙を飛んで仲間の上に落っこちたようだ。
あの様子じゃあ死にはしないだろう。
「全員で一気に攻撃だ、そうすれば勝てる!」
「そうだそうだ突撃だ!!」
一人打ち負かしたと思ったら今度は全員で襲い掛かってきた。
ちょっとは楽しませてくれよ。
「ぐはっっっっ」
「うわぁぁーー」
「ぎゃーーーー」
目の前から突進してくるもの、後ろに回ってスキを突こうとするもの、二人同時に攻めてきて俺を混乱させようとするもの。
いろんなやつがいたが全員軽く蹴っただけで吹っ飛んでしまう。
「おいおい、さっきまでの威勢はどこに行ったんだよ。もっと本気出してくれよ」
敵の中で一番強そうな相手に話しかける。
「なあ、俺のことを殺せると本気で思っていたのか?」
「い、いえ。そんなことは決して……」
「あっそ、嘘でもそうですと言えば許してやったのに」
一切抵抗の相手はつまらない。
適当に道の反対側に投げる。
「みんな寝っ転がってどうした。みんな立てないのか、それとも立てないようにしてほしいのか?」
「ぎゃぁぁぁぁ」
軽く足を踏むといい反応をしてくれる。
もちろん跡が残らないようにほんの少しだけしか力は入れていない。
しばらく遊んでいると、ようやく音を上げるものが出始めた。
「魔王様、自分たちが間違えていました。どうかお許しください」
「申し訳ありませんでした、今後一切はむかいませんのでどうかおゆるしください」
「助けてください魔王様、俺には妻子がいるんだ」
一人が降伏すると、あっという間に他の人も同じようなことを言い始めた。
無抵抗な相手を痛めつけるような趣味はない。
「それじゃあ誠意を示してもらおう。今すぐにこの町から出ていきなさい、そして金輪際近づくんじゃない。次俺の前に現れたら……どうなるのかもちろんわかってるよな?」
全員が一斉に背中を向けて走り出す。
歯ごたえのない相手だったが、これでまちに平和が戻ってきたと考えるのであればやってよかったな。
「魔王様ご無事ですか?」
しばらくすると扉が開き、マーシャの顔が見えた。
「俺は平気だ、二人のほうには人が飛んでいかなかったか?」
「こっちにはなにも来てないわよ」
「追っ払っておいたから当分はここに来ることはないだろう」
「さすが魔王様です!」
「そうだろう、ただ疲れてからちょっと横になる」
久しぶりにかなり体を動かしたために、疲れが出ているようだ。
町の人々が到着するまで仮眠しよう。
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