第24話 マリーの弱点


「こんな小さな虫がこわいなんてマリーはおこちゃまだな」


「こ、怖くなんてないわ。こんなやつあたしの魔術で溺死させるわ」


「やめろ、初日から家を水没させるつもりか」


「うるさいうるさい! 虫がいるのが悪いのよ」


 ここで水を流したら一回まで被害が及ぶ。

 それは何としても避けなければいけない!

 あの長いカーペットを掃除したくない!

 マリーの魔術は対象物のあいての上から水を充てるものだったはず。

 それならこいつを急いでつまみ出せば……。


 バッシャーーーー


 ふう、庭に水がまかれる程度で済んだ。


「魔王ありがとう」


「これくらい大したことないさ、ただ二度と同じことはしないでくれ。もし家の中でやられたら掃除が面倒だからな」


「わかってるって」


「そういえばマリーも魔術師なんだよな。この家を作った人に思い当たりはないか?」


「魔術師はアルマルク国に何百人もいるもの。おそらく土属性とかを使える人なんだろうけど、派閥が違う人とは一度も顔を合わせたことがないわ」


「派閥なんてものがあるのか」


「ええ、主にその人の属性ごとに分かれているわ。ちなみに魔術神様は全部の属性を自由に操ることができるらしいわ」


「俺も頑張れば魔術を使えるようになるか」


「さあ、それはやってみないと分からないんじゃないかしら。どうしてもというなら教えてあげなくもないけど」


「それじゃあお願いがあるんだが、瞬間移動とかの術を教えてくれないか」


 昨日会ったあの少女。

 今俺が知っている情報で結論を出すのであれば、彼女は魔術で移動したことになる。

 もしそれを使いこなせるようになれば移動がぐんと便利になるに違いない。


「申し訳ないけど、それは高位の魔術師しかまともに使えないのよ。私も自分だけを移動させることならできるけど、目的の場所と数百メートル違うとかもちょこちょこあるし」


「そんなに難しいのか」


「ええ、正確な位置に飛ばせるのは魔術教の幹部くらいじゃないかしら」


「まてまてその魔術教ってなんだ」


 彼女の口からききなれない言葉が出てきた。

 魔術教というからには単純にそういう宗教なのだろうが、興味が出てきた。


「魔術教は魔術神をまつっている宗教。入ればだれでも魔術がつけるわ、逆にここに入らないで魔術を習得するのはかなり難しい」


「マリーもそこに所属しているのか?」


「もちろん、ただ籍だけ置いている状態だけどね。ただ数年は教会に近寄ったことないし、詳しいことは何もわからないよ。ただ……あくまで噂なんだけど、一部の高位魔術師は人の血を集めたり、人生のすべてを魔術神様に捧げているらしいわ」


「そんなにやばいところなのか」


「まあそういうのは全体の一割もいないと思う。それにあくまで噂だからね。大多数の人は魔術を使いたいって目的だけで入信しているよ」


「そういうものなのか、ありがとうマリー」


「もしかして魔王も入りたくなっちゃった?」


「いや、俺は誰かに頭を下げるのが気に入らないんだ。独学で何とかするよ」


「力になれることがあるわからないけど、いつでも私を頼っていいんだからね。今回の恩返しとして何でも教えてあげるわ」


 マリーと話していると、こちらに近づいてくる足音があった。

 ぺたぺたと言ってこちらに向かってくる、おそらくマーシャのものだ。


「二人とも、床に座ってお尻痛くならない?」


「ごめんごめん、ちょっと魔王と話し込んじゃってた」


「それじゃあ家具をいろいろと買いに行くか」


「わかったわ、さっさと行っちゃいましょう」

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