第21話 キャムと勇者たち
「魔王か、勇者よりあいつのほうが何倍もまともそうだ。ただあいつの仲間になる選択肢はない。もしそうしたら魔術神様を裏切ることになる、そしたらリックだってどうなるかわからない」
せめてアルマルクにもあのような統治者がいればよかったのだが。
勇者たちの部屋に戻って一息つく。
玄関の靴を見た感じ、今中にいるのはデリーさんだけかな。
「キャム、帰ってきていたなら言ってくれればよかったのに」
「ごめんなさいデリーさん。ちょっと考え後としてまして」
「キャムにしては珍しいじゃん、もしかしてお金に困ってるの? 私も同じなんだよねー」
「お金ではないですけど、まあ友人といろいろありまして」
適当にはぐらかしていると、リックとケビンが帰ってきた。
「ただいまー、いい酒買ってきたぞ」
「すいません姉さん、リーダーがどうしても酒が飲みたいっていうもので」
「二人ともお帰り、キャムはもう帰ってきてるぞ」
「早いですね、ここからシュリア村まで即日で言って帰ってこれるなんて」
「魔術のおかげですよ。それで、もう報告を始めちゃっていいですか?」
「構わんぞー、俺は先に酒飲んでるからな!」
「リーダーなのになんでお前は毎回そう呑気でいられるんだ……」
この人たちは本当に魔王を倒すつもりなのだろうか、こんなぐだぐだであの魔王に勝てるわけ……。
まあこの国で一番まともと言われている勇者たちであってもこのありさまだし、アルマルクの王たちがどれくらいひどいのかは容易に想像できる。
「ダメだこりゃあ、リーダー完全に寝ちゃいました」
「仕方ない、それじゃああいつ抜きで報告してもらうか。よろしくなキャム」
「はい。まず今日の目的である魔王との遭遇はできました。どうやらシュリア村の村長になるそうですよ」
「いきなりすごい話が飛んできましたね」
「内容はすごいけど、あそこの村はもともと王に気に入られてなかっただろ。だから寝返るのも当然さ。続けてくれ」
「それで村の人たちは完全に魔王のことを信じているようでした」
「まあそうだろうなぁ、うちの王があの村に何かしてあげているのを見たことが一度もないもの」
「少なくともこちらに攻め込んでくるような発言はなかったです」
「それじゃあ私たちが先制攻撃できるってわけか」
「それはいいですけど、戦略どうしましょう。その村の中で戦ったら住民たちからも応戦されそうだし、どうしましょう」
「とりあえず今日はここまでだ。相手がすぐに攻めてこないと分かったのであれば、次は戦場を探すべきだな」
「戦場ですか、申し訳ないのですが僕は地理が苦手で」
「それじゃあケビンに行ってきてもらうしかないな。お願いできるか?」
「ちょっと待ってくださいよ、魔術を使えない俺じゃあ言って帰ってくるだけで一週間くらいたっちゃいますって」
「それを何とかするのがお前だろ、頑張っておいで」
「まさか、今すぐに出発させるつもりなんですか?」
「もちろん早く魔王を倒さないといけないからな」
ケビンはぶつぶつ言いながらも荷物をまとめてすぐに出発していった。
今はデリーさんと二人っきり。
リーダーもまだ起きる気配ないし、雑談振ろうか。
「そういえばどうして勇者討伐を始めるようになったんですか?」
「なんでだったかな。確か、リーダーが報酬の高さに目がくらんだんじゃなかったかな。それで討伐に向かって魔王城を放火したのはいいものの、肝心の本人を取り逃がしちゃったってわけ」
「魔王城放火したんですか? でも、あそこには結界が張ってあるって私の知り合いが言ってましたよ」
「ええ、だからその結界を壊すのに時間がかかっちゃたんだよね。まあそれさえなくなっちゃえば全然問題なかったけど」
「それじゃあ僕たちは金のために動いているってことですね」
「言い方を悪くするとそうなるな、でもそれがどうかしたのか」
「住民を殺されたとかの復讐で戦っているのかと思っていたのでつい」
「ないない、今の代はこっちに攻撃してくることなんて一度もなかったから」
「そんなにおとなしかったのになぜ……」
「まあクエストの依頼主はアルマルク王だったからね。自分の地位が脅かされてるとでも思ったんじゃない」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます