第9話 ボスとの戦い

 それからしばらく歩くと、山が見えてきた。


「魔王様、あの山見えますか?」


「見えるぞ、もしかしてあの山の近くなのか」


「近くというか山の中ですね。もうちょっと歩ければ入口が見えてきます」


「入口が見えてもかなり遠いぞ。あとどれくらい歩けばいいんだ」


 景色が変わるのであれば退屈しないのだろうが、そこに行くまではずっと森の中。

 全然進んでいる気にならない。



 ダンジョンの前には小規模の町があった。

 どうやらサンドワという名前らしい。


「魔王様お疲れ様です、つきましたよ!」


「村ほどではないけれど、結構人がいるな」


「ここは勇者でも倒せないモンスターが出るって噂ですからね。腕に自信のある人たちがたくさん集まってくるんです」


「そうなのか。……まてよ、山の中ってことは寒いんじゃないのか?」


「寒いかもしれませんが、何とかなると思いますよ!」


 こんなことになるんだったら上着も買っておけばよかった。

 中に入ろうとすると、鎧を着た人に話しかけられた。


「兄ちゃん、このなかはモンスターがいるんだぞ、本当に入るのか?」


「こう見えてもそこそこ強いんだよ」


「最初に警告しておくと、中のモンスターはすっごい強いからな。危ないと思ったらすぐに帰って来いよ」


「はいはい、それじゃあな」


 そういうと、管理人とやらはほかの人に話しかけに行った。


「ダンジョンって管理人がいるの? なんかすっごい柄悪い人なんだけど」


「それだけ中は危ないってことですよ」


「そうか、まあ入ろうか」


 強いって言ったってせいぜい昨日のあいつらくらいだろう。


「おいおい、強いも何もモンスターがいないじゃないか」


「ここは入り口の近くですからね。ほかの人がもう倒しちゃったのかもしれません」


「それじゃあもっと奥に行くか。マーシャ、何があっても俺から離れるなよ」


「もちろんですよ魔王様!」


 グォォォォォォ


「へー、ちっちゃいモンスターしかいないのかと思ったけど、そこそこでかいのもいるのか」


 グゥッッ


 正直驚いている。

 強い強いといわれていたので気を引き締めてきたのだが、一発蹴りを入れるだけで壁に飛んで行ってしまった。


「奥の敵はもっと強いのかもしれないけど、さすがに弱すぎやしないか?」


「私は戦ってないのでわからないけど、魔王様が強すぎるだけだと思う」


 まあ楽ならそれに越したことはないんだが、あとどれくらい行けば深層部にたどり着くのだろう。

 もう10分は歩いている気がするが、一向に下がっている気配がしない。


「魔王様、いつの間にかほかの人たちの姿が見えなくなっちゃいましたね」


 言われて気づいたが、見える範囲にいる人間は俺とマーシャだけになっていた。


「そうだな、マーシャと二人っきりだ」


「魔王様は怖くないんですか? だってどこから敵が来るのかがわからないんですよ?」


「そうか? 邪魔な音がなくなった分、敵の音が聞こえやすくなった気がするぞ。ほらこっちとかっ!」


 さっきから遭遇しているのはマーシャより少し小さいくらいのものだけだ。

 あとは踏みつけたら消えたスライムだけ。


「強い敵さんよぉ、いるなら出てきてくれないか? こっちから迎えに行くのは面倒なんだが」


 応じないだろうと思いながら大声で問いかけてみる。


「魔王様、そんな挑発的なこと言ったら相手怒っちゃいますよ」


「大丈夫だって。出てきたって弱いんだから」


 ドスッ、ドスッ、ドスッ


 呼びかけてからちょっとすると俺の倍くらいある巨大モンスターが出てきた。

 ひえー、まさか本当に出てくるとは思わなかった。

 まあ進む手間が省けたしよかった。


「お前がこのダンジョンで一番強い奴なのか? だったら早くこっちに来てくれ、さっさとお前のことを倒したいんだ」


 巨大モンスターは足元から何かを拾い上げ、後ろに思いっきり投げた。

 その衝撃で地面が少しえぐれたようだ。

 かなりの握力の持ち主だな……。

 勇者より強い魔物っていうのは本当のようだ。


「もう済んだか? 終わったんだったらさっさとかかって来い」


 ウオオオオォォォォ


 話しかけるとモンスターが叫んだ。おそらく同意の意味なのだろう。

 さてどう攻撃しよう。

 まずはマーシャに危害が及ばないようにするのが最優先だ。

 相手はほかのそれらと一緒で武器を持っていない。

 だとすれば片足を攻撃して、バランスを崩したすきに全体を攻撃するのがよさそうだ。


 ガアアアッッッッ


 叫び声を上げてこちらに突進してくる。

 よし、ここでまずは左足を食い止める。


 キエェェェェェェ



「思ったより防御しっかりしているんだな」


「魔王様、私どっか行ってたほうがいいですか?」


「いや、俺の真後ろにいてくれ。そのほうが安全なずだから」


「モンスターさんよ。さっきのパンチは防げたみたいだけど、これはどうかなああ」


 近くにあった大きめの石を左足に全力で投げる。

 おそらく右足で防ごうとするだろうからそこで顔にパンチ。


 グアアアァァァァァ


 やはり左足をかばった。

 ここでかばっている右足にキック。


 ギアアアァァァァァ


 そして最後に体を蹴る。


 グゥ…………


 これでもう終わりかな。

 さすがにボスはワンパンと言わけにはいかなかったけど、なかなかの速さで倒せたんじゃないだろうか。


「倒せたっぽいですね。魔王様」


「ああ、なんかやったみたいだな」


「そういえば今回のクエストって宝石を取ってくるって内容でしたよね。その宝石ってどこにあるんでしょうか?」


「それならこっちにあると思うぞ」


 モンスターをよけてさっき投げていたものを拾う。

 そこにはやはり宝石があった。

 暗いし価値もよくわからないが、一応もらっておこう。


「そういえばクエスト内容には巨大モンスターの毛皮とは書いてあったけど、こいつが巨大モンスターなんだよな?」


「もしかしたらほかにも同じようなモンスターがいる可能性もありますね。どうしますか魔王様、これを持ち帰って終わりにしますか? それとも最深部まで進んでみますか」


 そうだな…………。

 もしこれがクエストに書いてあったものでなかった場合、もう一度ここまで戻ってこなくてはいけない。

 もう一回来ないといけないリスクを考えるのであればここで奥まで行くのが賢明か。


「行けるところまで進もう。強い敵がいないならそれでいいし、いたらラッキーとでも思うべきだろう」


「わかりました魔王様、私はどこまでもついていきます!」

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