第2話 幼女との出会い

「あなたは誰? こんな道の真ん中で寝てると危ないよ。誰かに蹴られちゃうかもしれない」


 俺に話しかけてきたのはオレンジ色の服をきた赤髪ロングの幼女だった。

 警戒していたが、どうやら敵意はなさそうだ。


「その質問には答えたくない。というか今は誰とも話したくないんだ」


 しゃべりると、今まで我慢していたものが崩れ落ちたような感覚に陥った。


「よくわからないけど、私がずっとそばにいてあげるから。ね?」


 幼女はそう言って俺のことを抱きしめた。

 心が落ち着くまで彼女に体を預けた。


「いきなりなきついてすまなかった。おかげで落ち着いたよ」


「どういたしまして、そうだお兄さんは何でこんな場所にいるの? この近くの町に用事でもあるの?」


「いや、勇者に負けたから城から逃げてきたんだ」


「勇者に負けたって、勇者は悪い人しか攻撃しないんじゃないの?」


「俺はこうみえても一応魔王だからな。狙われて当然なんだ」


「えっお兄さん魔王なんだ。全然見えない!」


 幼女はそう言ってニコニコしていた。

 怖がられるどころか、むしろどんどん距離が近くなっている気がする。

 口調は完全に子供なのに、先ほどの行動はお姉さんみたいだ。


「ねえねえお兄さん、お兄さんはお昼ご飯食べた?」


「いや、朝から何も食べてない」


「えっ、それじゃあお腹すいてるでしょ」


「ああ、何か食べたいんだがここに来る途中にはなにもなくてな。というか、気持ち艇にそんな気分になれなくて」


「大変だ、私が近くの村まで案内してあげる! その代わりにお願いがあるんだけどいい?」


「お願いってなんだ?」


「私にもご飯頂戴! 朝から何も食べてないからお腹すいちゃった」


「そのくらいならお安い御用だ。ただ、親御さんは心配しないか。知らない人についていくのはよくないとか言われてそうなものだが」


「大丈夫、私にはパパもママもいないんだ」


 声のトーンが明らかに下がった。

 どうにかして話をそらしたいが……。


「変なこと聞いてごめんな。えーとそうだ、まだ名前を聞いていなかったな。何て呼べばいい?」


「私のことはマーシャって呼んで! 魔王様」


「わかった。これからよろしくなマーシャ」


 グォォォォォ


「うわっ、なんだこいつ」


 犬に似ているが、目が殺気立っているし毛が真っ赤だ。なんだかやばい奴な気がする。


「この近くに生息してるモンスターだよ。結構強いから大人の人でもみんな逃げていくよ」


 こっちに向かって走ってきている。狙いはマーシャか?

 逃げ出すとしても時間が足りない、戦うしかないか。


「とりあえず蹴り飛ばせばいいのか?」


 グァァォォォォ


「これでもくらえっ!」


 全力でモンスターを蹴る。


 グアァァァァァ


「今のうちに逃げようマーシャ!」


「えっうん。シュリアの村はこの道をまっすぐ行ったところだから」


 手をつないで走ろうとしたが、マーシャは小さいためあまり速度が出ない。


「俺の背中に乗りなさい」


「ありがとう魔王様! 大好き」


「そういうのは軽々しく言うものじゃないぞ」


「大丈夫! 私重くならないから!」


 マーシャは体重か何かと勘違いしているのか、かみ合わない返事をした。



 きっちりと並んでいる建物たち、活気にあふれている人々、そして迷子になっている我々。


「おかしいなぁちゃんと地図通りに来たはずなんだけどなぁ」


 マーシャはここにきてからずっと地図とにらめっこしている。

 片手は俺と握りながらだが。

 彼女いわく俺が迷子になりそうだからとのことだが。


「なあ、もしかして道を間違えたんじゃ……」


「魔王様、あそこだよやっと見つけた!」


 マーシャが『魔王様』と呼んだ瞬間、視線がこちらに集まった。

 彼女が普通に受け入れてたから忘れていたけど、魔王といえば普通に驚かれるものだもんな


「マーシャ、これから人前で俺のことを呼ぶときには……何て呼ばせよう」


「どうしたの魔王様?」


 俺は父が失踪してからずっと魔王と呼ばれ続けてきた。

 今更ほかの名前で呼ばれても気づけないかもしれない。それに、俺の本名ってなんだっけ?


「ああいやなんでもない、それより早くご飯にしよう。この建物なんだよな」


「魔王様変なの」



 店内はお昼ということもあってかそこそこにぎわっていた。


「いらっしゃいませ二名様ですか?」


「ああ、はい」


「お席な席にどうぞー」


「ここの席にしましょう!」


 ほんの数秒目を離したすきに、マーシャが席を決めていた。


「わかったから、あんまり大きい声出すな。ほかのお客さんの迷惑になるから」


「はーい。あっ、私これがいい!」


「決めるの早いな。いつもきてるのか?」


「うん。毎日来てるよ」


 子供が一人で来るような雰囲気ではないけれど、もしかしてこの子俺が想像しているより子供じゃない?


「魔王様聞いてた?」


「なんか話してたのか。すまない聞こえなかった」


「私これが食べたいんだけど、魔王様はどうする?」


「じゃあ俺もマーシャと一緒のものにしようかな」


「わかったじゃあ注文するねーー」


 口調は子供っぽいがしぐさというか行動はお姉さんみたいなんだよな。

 彼女に関しての疑問を抱えながら料理が来るのを待つ。

 何も考えずに天井を見ていると、隣のテーブルの話声が聞こえてきた。


「奥様、最近このあたりで不審者が出るんですって」


「きいたことあります。なんでも小さい子を人質にとって金目のものを盗むとかなんとか……」


 随分と物騒な話だなぁ。

 まあ俺は金目の物をほとんど持っていないし、狙われることはないだろう。

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