第87話ダンジョン攻略九日目5 集団戦3
「……仕掛けます!」
俺の声を合図にして、一斉にオークに攻めかかる。こうすれば距離は空くが、後横方向に少しだけ余力が出来る。こうする事で互いの長所を殺さない連携が出来ると言う訳だ。
本当なら一体の敵に対して
前線を張っているロングソードの不意を突き、一撃防具によって守られていない肩を切っ先で突く、痛みで醜いオークの顔が歪む。
「ブモォォオオオオオ!!」
「躱せ」か「よくも」か「ゆ゛る゛さ゛ん゛!!」と言っているのだろうが、我を失った一撃と言う物は怒りの為に無駄な力が入ってしまっており、本来の一撃より威力、速度共に早くとも狙いが素直過ぎたり、脳のリミッターが外れているため痛めやすい諸刃の剣と言える。
――――大剣オークの怒声を聞くと、ロングソードオークは身を捩り肩から切っ先を引き抜いた。
来ると分かっていれば避けられる。
俺はショートソードを引き抜きながら、剣を引き後方下段で剣を構えそれと同時に突きで前に出した右足を戻す事で、オークの振り下ろした大剣を寸での所で躱し、地面に大剣を叩き付け無防備になった首筋目掛けて、ショートソードを力一杯ねじ込む。
バタバタと暴れるが頭を押さえ首の骨……あるいは喉を断つようにグリグリと剣先を動かし、重要器官をズタズタにして絶命させる。
そのまま剣を抜き立ち上がると、ロングソードの袈裟斬りを避ける。左肩の骨が砕けたのだろう太刀筋が寝ぼけているような不正確さと、余りにも遅い剣速で避ける事は容易だった。
上段廻し蹴りを首元に叩きこみオークを蹴り飛ばすと、2mに迫らんとする大剣を手に取った。
血脂に塗れたショートソードでは、切れ味が悪すぎるからだ。
大剣を手にすると振り返って標的を定める。
刺突跡の酷い大剣使いのオークは既に虫の息であり、今すぐ確殺する必要性を感じられない。
盾を持った短槍、短剣オークの二匹は、盾がボコボコになっており、鎧も所々が凹んでいる……恐らく石突を用いた刺突を食らったのだろう。
「大剣死亡、長剣虫の息……加勢しにきました」
「状況は見ての通りです。短槍、大剣を抑えるので短剣を始末してください」
「分かりました……」
「「行き――「参ります!!」」
薙刀捌きで短槍を責め立てる。するとカバーに入ろうと仰々しい動作を見せる大剣が目に入るので、瀕死の大剣を今度は責め立てる……すると今度は短槍が大剣のカバーにと……状況が好転する事はない。
想定外の第三者でも介入しない限り、三匹でも苦しかった状況を覆せる道理はないのだ。
短剣使いはこちらが大振りにならざる負えない事を逆手に取り、ボクシングで言うジャブ……格ゲーで言う弱攻撃を多用してコンボを繋ぎ、集中力と忍耐力を切らせてこちらの攻撃のミスを誘う作戦のようだ。
「実に面白い」
大剣を振りかぶる。
刹那。
待っていましたと言わんばかりに、醜いオークの顔が歪む。
(はい掛かった……)
真っ向斬りはフェイクで本命は振り上げた脚による、体重の乗った蹴りだ。
刹那。
「えい、やー!!」
――――と言う声がダンジョン内に響くと、薙刀による鋭い突きが視界の外から伸びてきて、的確にオークの鎧の間を縫って肩を突き刺し、振りかぶっていた短剣を振り下ろさせぬまま後方へ押し態勢を崩した。
一瞬の出来事で驚きを隠せないが、何が起こったのかは理解出来た。
俺はそのまま一歩踏み出すと大剣をそのまま振り下ろし、オークを輪切りにする。
その遠心力を利用して剣を再び振りかぶると、中原さんの側面から襲い掛かろうとする。長剣を持ったオーク目掛けて大剣を放り投げる。
「――――ア゛ア゛アアアアア!!!」
ブンブンと鳴く、大剣は回転しながら長剣を持ったオーク目掛けて飛来し、気円斬や八つ裂き光輪、ギロチンショットの要領でオークの腕を落とし絶命させた。
「大丈夫ですか?」
呆然としている中原さんに声を掛けた。
が、帰って来たのは生返事だ。
「ええ……」
「さっきはありがとうございました」
そんな事を話していると……師匠が声を掛けてくると俺達二人を抱き寄せた。
防具を着ていないせいで、師匠の柔らかい双丘に頬が当たる。
幸せを感じる。
「二人共よく頑張ったわ……特にトモエちゃんは格上相手に一歩も引かず薙刀のリーチと腕ぐらいで良く時間稼ぎしたわ……それに最後の突きも凄く良かったわ。コータローは大剣を囮にして爪先で押しだすような蹴りで距離を開けて大剣を当てるとか言う無茶な作戦に出た様だけど……パーティーならする必要のない無茶だわ……コータローはコータローで言われた事を几帳面に守りすぎな部分はあったけど、アタシが言いたい事には気が付けたみたいだから不問にしてあげる……」
(バレてらぁ……)
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