第86話ダンジョン攻略九日目4 集団戦2

「すいません。怪我はないですか?」


「ええ、大丈夫です」


 コボルトAに抜かれた時は、どうなる事かと肝を冷やしたが、幸いな事に俺にも中原さんにも怪我はない。

 次に生かせる範囲の失敗だ。



「二人ともお疲れ様……案の定5メートルのラインを二人とも超えたわね……」


「「……」」


 薙刀のリーチを考えれば致し方がないように思えるが、師匠はそうは考えていないようだ。


「コータロー何でコボルトが襲い掛かって来る時に、「来ます」でも「来る」でもいいから声に出さなかったの?」


「ぐっ!」


「トモエちゃんはパーティーでの戦闘経験があるから、と覚悟して戦ってたように見えたわよ? 男として情けないとは思わない?」


「私はその……」


「いいのよ気を使わなくて……もしトモエちゃんが小さなミスで薙刀の振りが悪ければ、コボルトから一撃は貰っていた訳だし険悪にならない程度に文句を言えばいいのよ……」


「は、はぁ……」


「戦闘時に一声あればお互いに心構えを持つことが出来るでしょ? 戦闘時には出来るだけ何をするのか? を短く端的に言うように心掛けなさい」


「それに……」――と短く前置きするとこう言った。


「それに薙刀にしろ剣にしろ、真後ろに人が居て武器が満足に使えななら、多少間隔を開けてズレなさい。コレは頭を使えと言う意味よ? それに二人とも右で構えれば武器の干渉は起こりにくいわ……そう言う仲間の癖を把握して仲間が戦いやすい環境を考えるのも大事ね。3メートルも5メートルも私からすれば遠いわ、実践では何の役にも立たないけど完璧な背中合わせでも、スリーフットレーベンズの仲間となら戦えるわよ?」


「確かにそうですね」

「すげぇ……」


「トモエちゃんは、相手を意識しすぎて押されているのはダメよ……基礎があるからそれぐらいかしら……

 コータローの方は最初からソロのせいか周囲に人がいる戦い方じゃないわね……サッカーとかバスケみたいな団体競技ダンタイキョーギのように、常に敵と味方の位置を確認し俯瞰フカンした視点で物事を考えられるようにするべきね。頭を振って目を左右に動かして広い視野を心掛け『何をするのか?』『何が来るのか?』を声を張って味方と共有する事を心掛けて、二人で話し合ってコレから進む事いい?」


(まさか、ここまでとは思わなかったわ……トモエちゃんは前のパーティーでは相当苦労してたみたいね。前に声を掛けて来た少年と比べれば劣ると思っていたけれどそんな事は無いのかも……)


――――と内心、銀雪は中原巴と言う少女の評価を上方修正した。


「「はい!」」


 俺達は元気よく返事をした。


「じゃぁ今の失敗を踏まえてもう一戦してみましょうか。ルールはさっきと一緒。5メートル以上離れない事と《魔法》や《スキル》を使わない事いい? 丁度モンスターが来ているわ」


「「はい」」


 現れたのは、五体の武装したオークだった。


「――――くっ!」


(どうすればいい? どうすればいい? どうすればいい?)


 武装したオーク五体なんて初めての経験だ。

 初めての経験故に戸惑ってしまう。

 俺よりも戸惑っているハズの中原さんの方を横目で見るが落ち着き払っている。

 焦っても意味がない事なのに、狼狽えている自分が情けない。

 俺はぐっと奥歯を噛み締める。

 俺の緊張に気が付いたのか、中原さんが声を上げた。


「右三体は私が相手します! その間に他二体を確実に倒してください……心配は要りませんの時は立花さんが居ます……今出来る全力を尽くしましょう!」

「はい!」


(何て俺は情けないんだ……)


 中原さんが薙刀を振うと、モーセが海を割ったようにオークの集団は分かれる。

 丁度、中原さんの宣言通り3:2に分かれ持ち回りが決定する。


(いくら年上とは言え、女の子に決断させ俺はその間恐怖でブルっちまっていた何て……本当に情けない!)


 追撃として俺が斬りこむ事で、やや強引に間に割り込む事で位置的振りながら、連携攻撃ジェットストリームアタックをさせないように、敵の陣形を崩して戦略を崩壊させる。

 前回の反省を生かして俺と中原さんは、互いに1メートルほど距離を取り、武器を構える。


  眼前に居るのは、長さ80~100センチ長剣ロングソードを構えた身長180㎝程で、恐ろし気な病的な青白さを持つ豚のような醜くい顔は、兜である程度隠されているものの目、鼻、口は隠れていない。


 前面と背面の金属板二枚を紐でつなぎ合わせただけの簡素な『胴鎧ロリカ』を着込んでおり、二の腕から手首にかけては、腕の形状に合わせて加工した金属板をつなぎ合わせて作られた『手甲マニカ』を装備しており、脚には金属製の脛当てである『グレアウェ』を装備しており、剣闘奴隷やダキア戦争時のローマ兵の装備のようである。


(地球の歴史で言えば、紀元前から紀元100年程度の防具を身に付けているのに、武装だけは11~16世紀の間の武器を装備していると言うチグハグさを感じる。)


「大剣1、ロングソード1……」


 短く端的に敵の武装を報告する。

 それに続いて中原さんも端的に情報を返してくれる。


「短槍1、短剣1、大剣? 1……うち盾持ち2短槍剣」


 三匹受け持った中原さんの方が、薙刀の長さの分だけ有利って感じか……一方俺の方は長さで負けていて“不利”と言っていい。

 だが、レベル1の時に高めた高い『ステータス』がレベル2の『ステータス』に加算されれば、この困難な状況も覆せると確信している。


「行きます!」

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