第89話SIDE:利根川4

 岩肌が剥き出しの隧道ずいどう内に、金属同士がぶつかる甲高い音が木霊する。



「――――くっ!」



 小鬼とも呼ばれるゴブリンの斬撃を盾で受ける。

 俺は頭を振ってパーティーメンバーを見る。


 他の皆もゴブリンやコボルドの対処で、手一杯といった様子である。



「クソっ!」



 俺は悪態を付くと《スキル》の効果で二段階向上した『耐久』等を武器に盾を使って、強引ゴブリンを跳ね飛ばす。



「せやぁぁぁあああああああああああああああああぁぁっ!!」



 跳ね飛ばしたゴブリンには目も暮れず。

 俺は周囲にいるゴブリンに刺突を食らわせる。


 盾で半身を守っていたためどこに刺さったのか? までは確認していなかったが、《スキル》【一転攻勢】のおかげで『技巧』も向上していたのでそのせいだろう。


 ゴブリンはセミのように緑色の血を口から吐き出すと、力なく地に伏せる。



「助かった。君ホントに高校生?」



 助けた探索者は少し離れた場所にある私大の生徒で、大学とは言うものの俺が通う進学校からは、入学者が出ないようないわゆるFラン大学というところだ。



「まぁ、目標がありますので……次が来るみたいですよ?」


(肉壁が……休んでじゃねーよ!)


 俺は雑談してる場合じゃねーだろ! と言う気持ちを込めつつ言葉だけは優しく促す。


 俺の言葉で我に返ったのか「そうだね」と答えてメイスを構える。

 眼だけを動かして周囲を見渡すが、満身創痍まんしんそういと言ってよい酷い惨状さんじょうである。

 腕や足を骨折した者に頭部から出血した者までいる。最悪の場合いくら遊ぶ金の欲しいバカな大学生達でも、もう冒険に来る者はいなくなるかもしれない。


 そうなれば俺の数少ない寄生先が減ってしまう。

 毎日、毎日、朝、昼、晩と一緒に潜るパーティーを変え、一日10時間以上も潜っていると、朝方のパーティーや夕方のパーティーでミスをしてしまい。険悪なって混ざれるパーティーは少なくなる。

 一度もした事はないが楽なバイト先と、キツイバイト先があるように混ざるパーティーにもそういうものがある。

 基本は荷物持ちと、行き帰りの露払いのどちらかで契約をしているのだが、いつもは楽に稼げるパーティーなのに不幸と言っていい。

 禍を転じて福と為す。塞翁が馬などと言うように、俺にも不幸から幸福への飛躍があってもいいと思う。


 が、愚痴を言っていて仕方がない。戦える人間は僅かであり、今俺が頑張るしかないのだ。


 俺は覚悟を決めて剣を振るう。

 “斬る”というよりは、“叩く”と表現したくなるような刃筋がまるで立てられていない軌跡を描いて振るわれた剣は、ゴブリンの頭部に命中し一撃で絶命させる。

 斬り殺す。と言うよりは、“撲殺した”という表現の方が適当だろう……


(何というか圧倒的に手数が足りない!)

 

 戦えるメンバーは17人中4名と少ない。だが敵の数は12匹以上もいる。一人3人帰りに遭遇するモンスターと戦闘をすることを考慮してもギリギリ行ける範囲内だ。


 盾で相手の攻撃受け流し、ぶっ壊れ《スキル》【一転攻勢】で『力』を向上させるとお返しと言わんばかりに、逆袈裟斬りでゴブリンを斬りつけると止めに盾で殴りつける。



「よしっ!」

 

 

 俺は声を上げて喜ぶ。


 刹那。


 凶刃が利根川に迫る。



「――――くっ!」


 

 歯を食いしばり右手で構えた剣で、ゴブリンの攻撃を受ける。

 体制を崩され地面に叩きつけられる。


(あと一本剣か盾が振るえれば……こんな無様を晒す事はなかったのに……)


 利根川の心には悔しさと勝利への渇望が漲っていた。


 追撃の刺突を間一髪の所で避け、跳ね起きるような動作でゴブリンの胸に蹴りを叩きこみ、押し出すように蹴り飛ばすと跳ね起き剣を構える。


 乱戦の中蹴り飛ばしたゴブリン以外には、俺がフリーだということは認識されていない。


(ちょうどいい経験値をためるにはいい機会だ)


 特に足音と気配を消す事無く複数対一で戦闘をしているゴブリンの背後に接近すると、よく狙ってゴブリンの肩目掛け垂直に剣を振るった。

 狙った通りに剣がゴブリンの肩に命中し、武器を持った腕を切り落とすに至る。



「――――ゴブ!?」


 何が起こった? と言わんばかりの表情を浮かべ、腕を斬り飛ばされた事を目視で確認すると絶叫をあげ取り乱して暴れる。

 その声を皮切りに俺は剣を片手に、皆が奮闘し何とか死者を出す事無く探索を終える事になったのだが……


「すまない。暫くはパーティーを組めそうにない」


 ――――とサークルの代表から謝られてしまった。

 一応、新入生が基本の表層探索チームは暫く活動休止とするらしい。

 報酬は色を付けてもらった。



――――――――――――――――――



利根川圭吾

 Lv.1  

 力:E → Ⅾ

耐久:Ⅾ → B

技巧:E → Ⅾ

敏捷:E → Ⅾ

魔力:I → H


《魔法》 

姿なき魔精霊の魔手イヴィルインフルエンス・オブザ・サノバジン

『煙の出ない火、砂漠を吹く熱風より生まれ出でし天使と人間その間に存在せし漆黒の巨人よ汝のかいなを貸せ』

・不可視の炎を纏った腕を生じさせ、自身の腕のように扱うことが出来る。


《スキル》


【鉄壁】

・地面に両足が付いている時『耐久』と『技巧』が向上する。

また『耐久』値に成長率ボーナスを与える。  


【一転攻勢】

・攻撃を回避、受け流し、防御した場合、全能力上昇。また特定の条件を満たした場合次の追加の効果を得る。

・攻撃を回避で『敏捷』を向上させる

・攻撃を受け流しで『力』を向上させる

・攻撃を防御で『耐久』を向上させる


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