ダンジョン攻略十一日目1-6

第100話ダンジョン攻略十一日目1

「聞いてください! コータローくんと冒険するようになってからもの凄く『ステータス』が伸びたんです! おまけに《魔法》も発現したんですよ!」



 ダンジョンに潜り始めて11日目の朝一番。

俺は師匠:立花銀雪たちばなしらゆきに駅近のドクターコーヒーに呼び出され、昨日までの愚痴を永遠と聞かされた。

その事に耐え切れなくなり、俺がスマホで中原さんを召喚したというわけだ。


 中原さんは師匠から見えないようにニッコリりとほほ笑む。


――――――――――――――――――


中原巴

Lv.1  

 力:B → S

耐久:B → A

技巧:B → A

敏捷:C → B

魔力:I  → H   

 

《魔法》

【龍神破魔矢】

・『オン・ディバ・ヤキシャ・バンダ・バンダ・カカカカ・ソワカ』

・呪いさえ払う破邪の火矢を作り出し攻撃する魔法。

・その一撃は障害である魔を祓い願いを成就させる。


《スキル》 

戦車チャリオッツ

・一対複数あるいは複数対複数の時に全能力が上昇し『力』と『耐久』が向上する。

・一対一の場合には『敏捷』と『技巧』が向上する。

【怪力】

・体力を消費する代わりに『力』を強化する。


――――――――――――――――――



「巴ちゃんはご飯食べた?」


「はい。食べてきました」


「そ、じゃあコータローと違ってコーヒーだけでいいわね」


 そういうと店員を呼んでアイスコーヒーを注文した。


「ありがとうございます」


「いいのよ。今年は馬鹿みたいに熱いし……セミの声うるさ……」


「確かに今年は煩いですね……」



 駅前で街路樹が少ないとはいえ、蝉が「ヤらないか? ヤらないか?」と雌にアピールする場が近くに全く無いわけではない。

 壁や電柱に止まり泣き喚くのだ。杉と同じくテメェらの繁殖活動に俺たち人間を巻き込まなないでほしい。


 俺にはそういう趣味はないんだ。


 鳴き声からして、クマゼミとアブラゼミというノーマルキャラの声しか聞こえてこないのが無駄に腹立たしい。ツクツクボウシやニイニイゼミ、ミンミンゼミ、ヒグラシなどのレアキャラなら文句はない。我が愛知県蒲郡市相楽町にある照葉樹林に生息しているヒメハルゼミは、四つの保存地区が存在している希少種であるらしく、ランクをつけるのなら差し詰めURといったところだろうか? 一度親戚の家の近くで聞いたことがあるが、あまり良い鳴き声ではなかった。

 一番解せないのは学名が、『千葉に住んでいる』と限定しているところだ。

 『物価が夢の陸と海の王国』に始まり、『ドイツ村落』『MAX珈琲をこよなく愛し、友人と共依存関係をしていた死んだ魚の目をした捻くれた男子高校生』、『千葉ットマン』、『甘噛み、清廉』、『俺妹など』有名なものがあるのだから、どれか一つぐらい他に譲るべきだと思ってしまう。

 ―――特に我が愛知は、建物モデルになったり一シーンだけの登場するアニメは多いがメインとなった作品は少なく、岐阜や三重、静岡に劣るほどだ。仮にも『三大都市(笑)』を名乗っているのだから作品が増えてほしいと切に願っている。


 頼む! (切実)



「なぜ。愛知はアニメの舞台にならないんだ! 千葉め、神奈川め、埼玉め!」


「何してるのかしら……」


「多分、思考が飛躍してるんだと思います。セミからきっと蝉の希少差を考えて蒲郡がまごおりに生息している。ヒメハルゼミあたりを連想しているんでしょう」


「春なのにセミ?」


「初夏にでるんです。旧歴だと4,5月ぐらいになるので春と言って差し支えないかと……」


「で、なんで東京圏に呪詛を吐いているんかしら……」


「山梨を忘れないで上げてください……ヒメハルゼミの学名がchibensis……『千葉に棲む』となっているので、東京圏って色んな作品の舞台や有名な建物が多くてズルい! 仮にも三大都市だぞ! と愛知県民がよく陥る思考をしているのではないかと」


「怖っ! コータロー妬んでも嫉んでも結果は変わらないわよ」


「はははは……そうですよね。コータローくん気分転嫁も兼ねてダンジョンに行きましょう?」



 中原さんの提案で俺達は早速ダンジョンに潜った。

 雑魚を掃討し、丁度的になってくれたのは動きの速いコボルトだった。



「『オン・ディバ・ヤキシャ・バンダ・バンダ・カカカカ・ソワカ』」



 呪文の詠唱が終わると、光輝いた鏃を単純化した矢印の記号のような不可思議な文様が五本空に浮かぶ。

 その全てに螺旋状に捻じれた火炎が、とぐろを巻くように巻き付いており、不浄を焼き払う神聖さをひしひしと感じさせる。

 『↑』とも『T』の変形文字にも見えるその魔法からは、複数のモノを無理やり一つに纏めたようなアンバランスな印象を受ける。



穿うがて!」



 彼女の号令で四本の矢は、まるで主人に忠実な家臣のごとく主人の指示通りにコボルトを射貫いぬいた。

 発射された弓矢は、まるでレーザー兵器のようにコボルトに幾栄もの穿孔を穿った。



「ファ〇ネル? ……いや最新の作品でドローンと言う事になっていたガ〇ビットか……」



 俺は前クールに見た宇宙戦争アニメを思い出した。

 この四本の光の矢は、恐らく二日前のリザードマンとマーマンとの戦いを踏まえて発現したもので、少数対多、補助、中・遠距離攻撃という必要性を凝縮して生み出された。願望とでもいうべき《魔法》だ。

 

 恐らく、《魔法》【皇武神の加護ディバイン・ブレス】は力の及ばなさに加え技術力のなさが……

 《スキル》【集中コンセイトレレイト】は何か一つでも上回ることで逆境を跳ね返す可能性を求め、《魔法》【神便鬼毒酒じんべんきどくしゅ】は魔法に対する対抗策と、あのモンスターに対する恐怖心からだろうと推察される。


 もし《魔法》や《スキル》が俺の予想通り、願望の発露ならば、俺の第一《スキル》【禍転じて福と為す】は一体誰のどんな願望の発露なのだろう? と思案を巡らせた。



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