第80話中原巴の修行2
「それは確かに異常者ですね」
「まぁこれからの時代には必要なタイプよコータローは、私みたいなタイプは少し生きやすくなった程度だけどね!」
会話の最中、ほぼノーモーションで放たれた逆袈裟斬りにより頬の薄皮が裂ける。
全力で後ろに下がらないと!
「惜しいわね……今のは驚き過ぎて目が瞑れなかった。と言ったところかしら……あと少し動くのが遅ければ1センチは頬を斬れたんだけどね……」
パチン、とショートソードが鞘に収まる音でようやく張り詰めていた緊張の糸がプツンと斬れた……
「誰ですか! こんな頭の悪い訓練考えたの! 不意打ちとか卑怯ですよ!!」
「うちのリーダーよ!」
――――と元気に答える酔っ払い。
戦闘狂に聞いた私がバカでした……スリーフットレーベンズのリーダーの賀茂さん、あなたも戦闘狂でしたか……
「それに、ダンジョンに居て不意打ちは卑怯って言うのはイカガナものかしら……いつでも襲われるかもしれないと言う心構えを持ちなさいな……」
「はぁ、分かりました……」
私は確かにダンジョンで気を抜いたのは、私の怠慢だと思い至りこの野蛮な訓練を諦めた気持ちで受け入れる。
「じゃあ行くわよ! さっきも言ったけど、目を閉じている間は終わらないから! これは度胸と覚悟を身に付けて自分よりも、圧倒的に強いモンスターに立ち向かうには隙を減らす必要があるのよ!」
「分かりました……ではお願いします!!」
半身をとって腰だめに構える。――――刹那、体が微かに前方に沈んだと思った瞬間――――銀の閃光が煌めいた。
鞘から抜剣したショートソードは、左下段の逆袈裟斬りとも横薙ぎ払いとも付かない一閃が走る。
あくまでも一振り目は、抜剣のための所作、本命は二振り目に他ならない。今回は「来る!」と理解し、考える時間が僅かだが存在する……そんな些末な事に思考回路のリソースが、割かれている間にも……右上段からの袈裟斬りが放たれた白銀の凶刃が迫りくる――――
「――――くっ!?」
私はあまりの恐怖に目を瞑りかけるが、気合で耐える。
時間にすれば、刹那ほどの間なのに長い長い悪夢を見ていたようにじっとりと体中に嫌な汗が滲む。
「閉じちゃダメよ! 心に余裕を持ちなさい! 所詮恐怖心なんてものはあなたの心の中に存在するだけなの……『怖くない』『余裕だ』と気を持てば出来るわ。まぁオマケしてギリギリ合格と言ったところね……」
そう言うと血払いの所作を行うと、ポケットから紙を取り出してショートソードを拭うような仕草をする。
「この訓練でここまで苦戦するようだと、この後が心配ね……」
「まだこんな気が狂ったような訓練があるんですか?」
「もちろんよ……国内でも有数の探索者パーティーだもの、これぐらいは普通よ……」
当然よ! 他所のパーティーもやっているわとばかりに頷く。
そんな狂人共の集まりだとは聞いていない。
「はい。下級
「は、はぁ……」
なにその地獄……古代ローマの剣闘士や剣闘奴隷でももう少しマシな待遇を受けてるわよ……
「北欧神話のオーディンの私兵であるエインヘリアルを参考にしたって聞いたわ……」
北欧神話の主神オーディンは、何れ来る神々の大戦争『
「だって、そうでもしなきゃ実戦で使えないでしょ? 斬られたり、噛まれたり、打たれたり、骨折したりなんてダンジョンでは当たり前なんだから……ダンジョンで初めて経験するよりも、事前に経験しておく……学校の勉強と一緒よ……『真剣ゼミでやったところだ!』って奴よ」
「そうかもしれませんけど……」
「大丈夫よ。中級は上手く使えば斬り落とされた腕なら繋げられるわ……脳を含めた重要臓器の損傷以外なら大抵は中級で治るわよ……多分(ボソ)」
「イマイチ信用できない……」
私の顔色はみるみる内に悪くなる……
「あ、もうこんな時間。じゃあ今日はおしまい。また次もがんばろうね!コータローはダンジョンに潜る日に私のレッスンが多いんだけど、別日でいい?
私にとってあなたはコータローのサブでしかないから……ごめんね。
じゃぁ帰りましょうか……あー動いたらお腹空いて来た……マ〇クいかない? ポテナゲ買ってあげる」
「要りません」
「えーひどいよぉ~」
「ご褒美だって……アタシ達探索者は怖がったらダメなんなの……私たちの背中に日本の否世界の平和が掛かってるのよ……」
おちゃらけた様子だった師匠の表情が一瞬険しくなる……探索者には、ダンジョンには何かあるのだろうか?
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