第81話SIDE:利根川3

 夏休みの課題など脇に置いて、ダンジョンに潜り続ける事四日目。運動部でもない俺は、疲労感をヒシヒシと感じているが今ここで歩みを止める訳には行かない。


 今日は少し寝坊してしまったので、混雑の時間から少しズラすために駅前をブラブラと歩く……



 とは言っても、名古屋のベッドタウンとしては遠く、都会で買い物をしたければ静岡県浜松市に行く豊橋市民にとっては、幾ら再生したシャッター商店街とは言えども見る物は少ない。



「はぁ……」



 俺は重い荷物を背負いながら溜め息をついた。


 強くなっている事は『ステータス』が示してくれている。

だが加藤光太郎アイツのようなを達成出来た訳ではない。


 そんな感情を抱きながら時間を潰していると……


 探索者が行き交うこの場所にはやや不相応な風体の女性が視界に入った。


 少し大きめのトップスが醸し出すシルエットがかわいく、ゆったりとしているので随分と着痩せして見える。


 有体に言えばギャル……年のころは女子大生と言ったところだろうか? 俺はその女性に見覚えがあった。


 立花銀雪たちばなしらゆき。日本……いや世界でも有数な探索者チーム『スリーフットレーベンズ』に所属している一級の探索者だ。



「(コイツはついてる! 立花銀雪と言えば有名なダンジョン探索者を何人も発掘した言う逸話がある戦闘狂バトルジャンキー、俺の才能を持ってすればなんて楽勝だ!)」



 早速俺は声を掛けた。



「あのーすいません。立花さんですよね」



 利根川圭吾は、他者と自己を徹底的に区別し格付けし“上と下”を認識し、上に格付けした者には内心はどうあれ徹底的に媚び諂い。下のものを駒や下僕として扱うが、下に扱われるとストレスを貯め込むが、利益の為には人の下に付いてその権威の傘を借りて相撲を取れるぐらいにはクソ野郎だからだ。



「何? 今日は弟子の用事に付き合うから時間ないんだけど……」


「(弟子? いま弟子と言ったか? 俺よりも才能のある奴がこの町に居る訳無いだろうが!?)」



 利根川圭吾は、フツフツと沸きあがるドス黒い怒りと嫉妬の感情を抑え付けると、張り付けたような笑顔を浮かべる。


 まぁいい、俺の方が才能あふれる事を示せばオレの事を優先してくれるはずだ。と自分に言い聞かせる。



「俺に戦い方を教えてくれませんか?」


「嫌よ……アタシ、今初めての弟子を育ててるのよ? 前までの暇つぶしとは訳が違う……コータローは間違いなく台風の目になる存在よ。君如きが比較される対象じゃないの……コータローのパーティーメンバーになるのなら、合間で見てあげてもいいけど……」



 俺は、彼女の言葉に内心焦りを覚える。コータロー、コータローと言ったか? 俺が知る限り最も凄い実績を持つコータローは加藤光太郎ただ一人だ。


 アイツとこの俺が比較される対象じゃない……だと? この俺があんなデクの坊と比べて劣ると言う事か!? 


 ふざけるなっ! 


 ふざけるなっ!! 


 ふざけるなっ!!!


 怒りに震える声で呟いた。



「コータローってもしかして、最近探索者になってレベル1になった加藤、光に花咲く太郎の太郎で光太郎の加藤光太郎ですか?」


「コータローはレベル2になったばかりよ。背が高い高校一年で学校は……XXよ」


「ソイツですよ」


「もしかして君コータローの知り合い?」



 などとテンションを上げキャーキャー騒ぎながら話す姿が癪に障る。

 

 あいつこの短期間でレベル2になってやがったのか……つくづく癇に障る……


「ええ、同じ学校のクラスメイトです……」


「装備を見る限り、前衛盾役かな? 刀使いのコータローには丁度いいね。見た感じパーティーメンバーいなさそうだけど良かったらコータローに付いて行きなよ。レベルが低くても防御に専念していれば大怪我は負わないし、必要な技術や《スキル》《魔法》や『ステータス』の向上や習得が早まるよ?」


「彼とは誤解がありまして、仲があまりよくないんですよ。またお見かけした時にお声がけしてもいいですが?」



イライラする。一瞬、一秒でも早くこの場から離れたくて仕方がない。でなければ俺の仮面がはがれてしまいそうだ。



「……そうなの。残念……まぁヒマな時ならいいわよ」



 そういうとスマホが震えたのか手提げかばんの中に手を入れてスマホを取り出し操作する。



「あ、もう時間だ! じゃぁね。私、セイレーンコーヒーに行かないと……」



 そう言うと彼女はこの場を後にした。


 ニコニコと張り付けたような笑みを浮かべ、彼女の背中が見えなくなるまで見送る。


 直後、利根川の笑みはスッと消え悪鬼羅刹のような憤怒の表情を浮かべている。


クソ! なんであんなクソ野郎が認められて俺が認められないんだよ!!


 利根川圭吾のイライラは頂点に達していた。

『モノにあたる』人の目を気にする利根川は今までやって来たストレスの発散方法が使えないため、より一層イライラとした感情が膨れ上がる。


 さらには夏の暑さが利根川を刺激する。


 本当にここ最近ついてない……横井やダイゴは、やる気が無く……パーティーに誘った美人な女にも袖にされ、俺の才能を見抜けない立花銀雪たちばなしらゆきにも心底失望した。


 俺は今日も大学生や社会人のパーティーに頭を下げて、ダンジョンに潜るために俺はJSUSAの豊橋支部に向かった。

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