第94話ダンジョン攻略十日目3

 俺は中原さんの指示通り、敵を蹴散らす“切り込み隊長”として突っ込む。

 新《スキル》の『【集中コンセイトレイト】』が暴発し、地面を軽く蹴り出しただけでトップスピードに達した俺は、中原さんの「注意したばかりだというのに……」と言いたげな表情を横目で見ると玉がヒュンと縮み上がる。


「私も続きます」


 ―――と宣言すると、薙刀を持ったまま走り寄ってくる。

 大学のサークル? と思わるメンバーが敷いている防衛線を飛び越えてモンスターの群れに斬りかかる。


 ジャンプ状態から放たれる真っ向斬りで、マーマンを斬り殺す。


 その姿は特徴的で眼球が飛び出し両の目は離れ、目のほぼ真下に大きな鼻? の穴がポッカリと開き、大きな口は耳に相当する部分まで裂けており、耳に相当する辺りには魚のヒレのようなものが生えている。首元にはエラがありその皮膚は全体的に弛んでおり、指の間に少し小さな水掻きがある。

マーマンという名前だが、両生類人間という方が適切かもしれない。

 だがそのマーマンの鱗は刀を弾くほどの硬質さを持ち合わせてはいない。


「脆い……」


 武装はしていても鎧を纏っていないせいで、今までのモンスターの中でも別段硬い方ではないと斬り心地で判断した。

 レベルが上がった事で『技巧』や『力』が増加したことでそう感じているだけかもしれない。


 しかし、ショートソードを横に振りぬいて周囲のマーマンを攻撃しようとしたときには既に退避していた。


「――――素早いッ!!」


 頭を上げ周囲のマーマンを見ると、三叉矛トライデントを付きの構えをしているのが見える。

 

(不味いっ! 【集中コンセイトレイト】を発動させて退避できれば避けられるか?)


 ―――と思案を巡らせる。


刹那。


「―――ァッ!!」


 俺の頭上を白銀の刃が通り抜け空を薙いだ。

 すると木製の柄の三叉矛トライデントとマーマンの胸を斬り裂き、何匹かの半魚人が膝を付いた。

 

 恐らく今彼女はその二つを用いている。

 《スキル》【戦車チャリオッツ】と《スキル》【怪力】だ。効果は『一対複数あるいは複数対複数の時に全能力が上昇し『力』と『耐久』が向上する。』事と、『体力を消費する代わりに『力』を強化する』ことだ。

 そのおかげでダンジョン産の木材ですら、容易に切り裂いたのだろう。


「助かった……」


「バーゲンダッシュ買ってください」


「わかった。バーゲンダッシュが高級アイスクリームであろうと命に比べれば安いものさ」


「期待してます……来ます!」



 少し小粋なトークをしている間に俺たち二人はモンスターに囲まれる。

 マーマンとリザードマンが、周囲をグルリと取り囲んでいる。


 見た限りリザードマンの鱗は硬そうで、剣すらもはじき返しそうだ。

 前後に長い頭を持ち頭部には、皮膚でおおわれた二本の角を持ち、やや姿勢が悪い姿勢だがしっかりと二足歩行で歩いている。

 上半身に比べて下半身がやや貧弱ではあるが、大きく長い尻尾でバランスを取って居るのだろう。

 曲刀や片手剣、片手斧、槍をに持ち開いた右手で盾の類を構えている。



「二人で一人のパーティーとして協力して対処しましょう!」


「はい!」


「俺は固そうなリザードマンを担当するので、中原さんはマーマンをお願いします」


 俺の性格を理解している中原さんは、無茶をしないように予め俺に釘をさす。


「異論ありません。しかしもしものことを考えてあまり斬り込まないでくださいね?」


「……分かった」


 曲刀を装備したリザードマンは、一歩踏み込むと袈裟斬りで斬りかかる。

 俺は攻撃をヒラリと身をかわし、一歩前に踏み出したことで近づくと、露出した太腿を斬り付ける。


ザシュ。


 しかし、剣は表面を傷つけるだけで思いのほかダメージは入っていないようだ。


 俺は一度後方へ下がり追撃を避けると、《魔法》を使うことに決めた。

 が、一応中原さんの許可を得ておこうと思って、先ほど太腿を斬りつけたリザードマンと鍔迫り合いをしながら声を張って中原さんと会話をする。


「リザードマンの鱗なんですけど、このショートソードだけだと少し傷付けるだけになりそうです。打撃武器を持っていないので、《魔法》を使用したいんですけどいいですか?」


 俺の言葉に中原さんは呆れたような声で答えた。


「人命最優先です。恩の押し売り時を間違えると大問題になると私は、転生系なろう主人公から学びました! 金色の剣の使用を許可します。必要とあらば神酒も使って下さい!」


 多分その作品は俺も読んだ事はあるけど、女性ウケはしないような作品だった記憶している……創作に関して中原さんは雑食なんだな……と思いながら短く「Yes Ma'amイェスマム」とだけ答えた。

 昨今ジェンダー問題で、階級をサーやマムの代わりに付ける事になるらしいとネットの記事を読んで、俺達のハートマン軍曹は消えるのかと物悲しさを覚える。


「『南無八幡大菩薩なむはちまんだいぼさつ』……」


 俺は何時になったら真言っぽい呪文から卒業できるのだろう? と考えながら《魔法》【皇武神の加護ディバイン・ブレス】の呪文を呟くように詠唱する。

 刀身は、金色に輝き魔法が発動したことが視認出来る。

 刀身が光輝いた事で目が眩んだのか? 一瞬。リザードマンの動きが鈍る。


 今だ!


 俺は情け容赦なく、体重を乗せた前蹴りフロントキックをリザードマンの腹目掛けて放ち距離を取る。

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