第93話ダンジョン攻略十日目2

 こうして俺達は、背後に居るヤツラに警戒しながら奥へ奥へと進んでいく……


「ダンジョンの深度には、右から進んできたけどもう左ルートとの合流地点は超えてるんんだけ?」


「はい。ここまではパーティーで来たことがあるんですけど、あくまでも到達しただけで真面に戦闘はしていないので……」


 俺よりもステータスが低い状態で、ここまで来れる時点で人数が居るというのは大きなメリットのようだ。


「もちろん。モンスターとの遭遇確率や数、質、量は比べ物にならないぐらいですけど……」


「あはははは、ごめんね」


「ゲームの難易度は、セーフティよりもハードで楽しみたいタイプなので不満はありませんよ?」


 微かに剣戟が響く音が聞こえて来た。

 一瞬背後にいる集団の関連か? と疑うが杞憂だとその思考を切り捨てる。


「戦闘でしょうか?」


「避けた方が無難だけど……少し戻らないと分岐がないねどうしようか?」


「敵意がない事を示しつつ横を通してもらうか交渉しましょう。先ずは様子見からですが……」


「そうだね……」



 俺達は音のする方へ近づいていった。

 今までのカラッとした洞窟のような場所からは一変し、湿気を感じる。耳を澄ませばどかかで水が流れる音がする。

 天上を見上げれば、鍾乳石が出来ている。



「一気に冷えますね……」


「探索者のスーツには魔石を用いて温度調整をする機能があるモノがあると聞いています。早くそう言ったものが欲しいですね……」


 ――――と愚痴をこぼす。

 立花さんのお古に温度調節機能がある事を祈る他ない。


  金属同士がぶつかる甲高い金属音が、先ほどよりも近づいてくる。


「近いですね……」


「先を急ごう!」


「ええ」


………

……


「魔法を使う! 前衛は敵を抑えてくれ!」


 杖を持った女がルームに響く大声で叫んぶと杖を構え小さな声で呟いた。


「クソ! 何て数だ!」


 女の眼前には、リザードマンやらマーマンの大軍が武器を手に仲間と白兵戦を繰り広げている。

 男の脳内には、治療のために前線から一度下がったメンバーを殿しんがりにして残ったメンバーだけでも逃げるべきかと言う思案が始まった。

 女は頭を振うとその想像に待ったをかけた。


「『炎よ! いと速き鏃と成りて敵を焼き尽くせ!』」


 詠唱を終えると洞窟内にひと際輝く深紅の炎が迸り、爆炎を立て続けに生み出す。

 その炎が燃え盛る音は砲撃音とまがう程であった。

 猛る轟音を聞いてパーティーメンバーは射線から離脱する。


ドン!


 その効果は『質量のない砲撃』そのもの、といっても過言ではないものであった。

 砲弾のように周囲に爆発が広がり何体かを倒し、それ以上の数を負傷させるが決定打にはならない。


「クソ!」


 パーティーのリーダーでもある。《魔法》使いの女は地面を蹴った。

 

「あの、大丈夫ですか?」


 能天気な少年の声が聞こえた。

 咄嗟に「大丈夫な訳ないだろう!」と怒鳴りそうになったが、最後の理性がそれを押し止めた。


「ここは危険だ。早く離れた方が良い……」


 男はぶっきらぼうに答えたが少年は、


「手伝いましょうか?」


と笑みを浮かべて手を差し伸べる。


「はぁ……コータローくんはお人よしですね。条件があります」


「なにかな?」


「倒した分の魔石+それ以外の半分でどうでしょう?」


(少年をお人好しと言う割には、あまり吹っ掛けてこないな……どちらにせよ。生き残らなければ取らぬ狸の皮算用だ)


「いいだろう」


「交渉成立ですね……コータローくん全力をだしてもいいですけど、《スキル》や《魔法》は出来る限り隠蔽してください。私が補助しますので存分に斬りこんで下さい」


「了解!」


刹那。


 ジャージ姿の少年は、数メートルの距離をあり得ない速さで移動した。


「なっ!?」


 俺は驚きのあまり、気の抜けた声が漏れた。

 少年は刀でも振るうように、金色に煌めいたショートソードを振るい。バッタバッタと爬蟲人リザードマン半魚人マーマンをなぎ倒していく……


「武器がすごいのか?」


楓波かなみ先輩!」


 負傷した仲間の声ではっと我に返る。

 私が今しなければならないことは、救援の探索者の雄姿を見届けることでも、感嘆の声を漏らす事でもない。

 今俺がやらなければいけないこと、それは仲間に指示を出す事だけだ。

 俺は大きく口を開け、空気を肺いっぱいに吸い込むとハッキリとした調子で声を出した。


「全体! よく聞け! 通りすがりの探索者二名が救援にはいっている! 諸君らは彼らの邪魔にならないように、戦線を維持しつつ無理のない範囲で押し返せ! 彼らへの報酬は『倒した分の魔石+それ以外の半分』だ。稼ぎが少なくなるとキツイ奴は死ぬ気で倒せ! いいな?」


「「「「「了解!!」」」」」


 青年と女性二名の前に一匹のリザードマンが現れる。

 距離はおよそ4メートル。

 鱗でおおわれた肌は茶黒色……通称ダンジョンパターンの色合いで縦長の黄色い瞳が、異形の存在であることを強く認識させる。

 左手に湾刀右手に盾を持っており、胴と顔が長く大きいそのシルエットが不気味さを増加させている。

 三人ともお世辞にも整った装備とは言えず。真新しいその装備から察するに新人のようだ。

 三人は互いに抱き合うようにして縋りあい。ガタガタと震えている。


「大学生のお遊びサークルだって言われているが我ら、愛◆大学迷宮同好会を舐めるなよォッ!!」


 サークルの切り込み隊長で三年生のハルトが長剣を振るう。その剣戟はリザードマンを吹き飛ばし、三人の仲間を守る。


「大丈夫か?」


「ありがとうございます。有馬先輩……」


「いいってことよ。しかしこれだけ敵が多いと守りながら戦うのは正直キツイな……」


 ハルトは呟くと、破竹の勢いで敵を切り飛ばすジャージ姿の少年を見つめていた。

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