ダンジョン攻略十日目1-8

第92話ダンジョン攻略十日目1

 昨日と今日は予定があるとの事で、立花さんは東京へ出向いているため、俺達二人だけの探索となる。

 左ルートでケモノ型モンスターを狩りながら、集団戦や連携攻撃の練度を高めていた時の事だった。


 辺りに妙な空気が流れている事に気がついた。モンスターが向けてくる敵意でも、以前にトラップに近寄った時に感じる物とも違う。“障碍”の気配とも違う何かを感じた。

 一瞬、気のせいかとも思ったが、妙な空気に気が付いたのは俺だけなく中原さん同様に感じ取っていたようだった。



「中原さん。何か違和感感じない?」


「そうですね……粘っこい視線のような物を感じます……」


 

 俺達は倒して剥ぎ取っていたモンスターの肉を保冷バッグに入れ、リュックサックにいそいそとしまった後、こちらを覗き見ている奴らにバレないように、武器を何時でも抜けるように用意をして、周辺警戒をしながら先に進む。


  すると視界の端に小さく人影が写った。


(もしかして、つけられている?)


  中原さんにそのことを相談すると意外な返答が帰って来た。


「視線の正体は露払いに使われていた為ですか……」


 露払いとは、探索用語で実力の足らないパーティーや大人数のパーティー(レイドやレギオン、クランとも言う)が、移動したりする際に、モンスターとの戦闘による消耗を避けるために他のパーティーが、戦闘をした後を通る事で楽に奥に進める事を言うらしい。


「もしかしら、ダンジョン内での置き引きかもしれないですけど……」


「確かにその危険性が無い。とは言えませんね……少し警戒のレベルを引き上げましょう……よほどのバカでもない限り探索者は刑罰が重くなるんですから、そんな愚行を犯すような真似はしないと信じたいです」


 二人はそんな話をしながらモンスターを倒し進んでいく……当然俺の《魔法》は使わない。


 状況は良いとは言えず、度重なる交戦で俺の顔は汗で覆われ、少し濃い眉毛なければ汗が目に入って、視界を奪われかねない状況だ。

 ジャージの中が蒸れて熱い。ぜぇぜぇと犬のように肩で息をしするがそろそろ、汗を拭ったり水分を補給したい。

 が、そうは問屋が卸さない。

 現状眼前には裸のオークが一体。オークの後方にはコボルトが何体もおり中原さんがけん制をやめれば、いつ数の暴力で襲い掛かって来るか分からない状況だ。

 

(全くパーティーを組んでなかったら、大怪我確定だったな……)


「コータロー君は一度下がって水分を補給してください。汗を拭ってからで構わないのでそれから追撃してください!」


「了解!」


 元々の予定通り、中原さんの指示に従って斬り結んでいるオークの腹に蹴りを入れて前線を交代する。


「スイッチ!」


 その掛け声を合図に鋭い突きが放たる。前蹴りフロントキックで姿勢を崩した上裸のオークの腹を突き刺しすると、刃を活かして斬るようにして引き抜きながら半歩下がり、薙刀を構える。


 大将がやられた事を目視したコボルト達は、ルームの中央にいる倒れたオークの脇を、コボルト達は武器を構え走り抜ける。

 どうやら中原さんを無視して後方にいる俺に、攻撃を仕掛けようとしているようだ。

 左手の手を使い。ゴム製の弁の付いた掃除道具のように汗を払うと、両の手で柄を握り剣を構える。


「テメェら、俺と中原さんを舐め過ぎだ!」


 高らかに宣言する。

 中原さんの一払いで二体のコボルトが倒れ、右翼をすり抜けて来た一体に斬りかかる。

 左翼に展開しているコボルト達を心配せず戦う事が出来るのは、中原さんの高い全体火力故の事だ。

 相手の盾事腕を斬り飛ばし、二撃目で腹を切り裂き止めを刺す。


「せやぁぁぁああああああああ!!」


 頭を上げると、左翼に展開していたコボルトの集団のほぼ全てが、中原さんの薙刀の餌食となっている。


「やっぱりすごい火力だな……俺は周囲を警戒する! 中原さんは汗を拭いて水分と塩分を補給して!」


 見とれている場合じゃない。と自分に言い聞かせ語気を強めるとショートソード片手に周囲を警戒する。


(気を抜いちゃだめだ。違和感を探せ! ヒト型モンスターの集団との連戦で傍から見れば、俺達は消耗しきっている状態に見えるハズだ。俺達を監視している奴らとの距離は先ほどよりも詰まっているハズである……)


 俺は中原さんから離れないようにしながら周囲を警戒する。


「休憩ありがとうございます。ごめんなさいコボルトに抜かれてしまって……警戒変わりますね」


「いいよ。いいよ。スポドリ飲ませて貰うね……」


 中原さんは自身の反省点を述べる姿には感銘を覚える。

 流した水分をスポーツドリンクで補給すると心地よい。

 休憩とは言っても水分を飲んだり、クッキーやカロリーバーのような味気の無いモノを食べるぐらいで、本格的な休息はもっと人数がいないと無理らしい。

 中原さんが警戒している間に魔石を取り出して鞄にしまう。


 探索者が世に生まれて数年。初期の頃には、同業者を狙った強盗や殺人事件は少なからずあった。

 なぜならダンジョンでは最大でも、約24時間ほどで死体はモンスターと同じように、ダンジョンに取り込まれて消えてしまうからだ。 

 それ以外でも、モンスターのエサとして消えたりするらしい。

 探索者や学者の中にはダンジョンは、生き物や地球のような世界であると言う学説を信じている者がいると、ネットニュースで見た事がある。

 少し疲れたけど、帰るか進むか本気で悩んでいると中原さんが提案してきた。



「けっこう戦いましたけど、どうしますか?」


「引き返してもいいけど、監視の目が気になるな……このまま探索を続けてヤツらの尻尾ぐらいは掴みたいかな」


「分かりました。今日の指揮は私が行うんですから、もしもの時は私の指示に従って下さいね?」


「分かったよ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る