第9話 点を取る意識 -3

視聴覚室に集まったサッカー部の部員総勢26人。それと監督とコーチ。


 ミーティングが決まってから何を言ったほうが良いのか考えていたが、昨日の壁打ちですべて吹っ切れた。ぐだぐだ考えるのは面倒だし、第一俺らしくない。

 俺が思うことを直接、叩きつけるだけだ。フォローはするってコーチも言ってたしな。


「皆集まったかな。じゃあ第一回サッカー部強化ミーティングを始めます。進行は監督である私がやるけど、あまり口は挟まないから、まずは各々で話してみてくれ。」


 いきなりの放任宣言。まじかこの監督。目線をコーチに向けると目が合ったが、肩をすくめたようなアクションを取られる。まずは俺に暴れろってか。


「まず最初に、水瀬くんから提案と議論の種をもらったからそれから始めよう。今回も議論の邪魔になるから敬語は無しでいこうね。」


「一年の水瀬だ。敬語は省かせてもらうのと、熱くなって口が悪くなったら申し訳ない。先に謝っておく。

 今日話したいのは、点を取る意識が少々足りないのではないかということについてだ。

 入部してから2週間、もうすぐ3週間が経とうとしている。何度も実践形式での共通練習をやったが、決定機でもパスを優先したり、コースが空いているのにシュートを撃たなかったりと、点を取る意識にかけているように見える。

 点を取らなければ勝てないスポーツなのに、優先してシュートを撃たないのは違うんじゃないかと思って、チーム全体に対してもっとシュートを撃とうと提案したいと思っている。」


 すると二年のミッドフィルダーである武谷たけや先輩が手を上げながら口を挟んできた。

「いやそりゃあんなエグいシュート撃てる水瀬からしたら俺らの攻撃がいかに貧弱かなんて見なくても分かると思うがよ、ありゃ俺らには無理だぜ?

 大体シュートを撃ったって俺らの力じゃキーパーに取られておしまいよ。そっちのほうがもったいなくないか?」


「何も俺と同じことを求めるわけじゃない。というか、何年もかけて、必死に作り上げたこの体と、シュートの技術、体の使い方をそうそう真似されたくないとも思っている。

 そうではなく、シュートを撃つという選択肢が最初から無いのが問題なんだ。

まだ研究なんかはされていないだろうから、試合が始まってからしばらくは気が付かれないだろうが、後半には確実に気が付かれる。相手はミドルシュートは撃ってこないって。

 そうなれば攻め込まれたらマークを濃くして中央を固め、クロスを上げに来る選手のパスコースを潰すだけで楽に守られる。

 俺がそこに加わったわけだが、ロングシュートを撃つのは俺だけと分かれば全く同じ状況だ。中学の時と同じ、出し手狩りが始まって点が取れずに負ける。」


三年のSB 野藍のあい先輩も加わる。

「言いたいことはわかった。だが力の差は歴然だぞ。うちの高校はここ数十年3回戦まで行ったのが良いところで、他の高校と比べるとどうしても劣る。そんな状況で攻めるサッカーなんて出来るわけがない。」


 確かに、他の強豪、例えば名門私立の古川高校はほぼ毎年インターハイに出場している常連校。去年と一昨年はここにそれぞれ2回戦と3回戦で負けて終わっている。

 他にも炭塚工業高校や熊添大学付属熊添第三高校など周辺にはサッカーの強豪と言われる高校がいくつもある。だが・・・


「力の差の有無はこの際関係ないんだよ。何も正面からボールを取り合えだとか、ドリブルで強引に突破しろだとか、すべてミドルシュートを放てだとか言っているわけじゃない。

 試合に望む意識をすべて点を取るための行動に向けろという話なんだ。自分ができないことをやるんじゃなく、出来ることをやった上でゴールを目指せってことなんだよ。

 俺はシュートが得意だ。どこからでもゴールが見えれば撃つ。そのために鍛えてきたしこの哲学を曲げる気はない。だが、ドリブルはまともに出来ないし、トラップも パスも下手くそだ。体を使って無理やりボールを自分のものにするくらいしかキープも出来ない。

 だけど先輩方、同級生のお前らは俺より出来るだろう?だったら各々が出来ることをした上で点を取る意識を持てば戦えないことはないんじゃないか?」


「例えば、ファイナルサードの場面、場所はペナルティエリア付近。味方は飛び出した二人、相手はディフェンダーが一人。ディフェンダーはパスを警戒してオフザボール側に寄っている。シュートコースはがら空き。そんな状況で今のサッカーでは9割型パスを選ぶだろう。事実模擬戦でもそうだった。

 相手のディフェンダーの目を見ているか?足の向きは?重心は?手の動きは?体の向きは?大股か小股かどっち?

 見て考えればパスを警戒しすぎていて、フェイントを一つ入れればシュートが有利に撃てるなんてすぐ分かるだろう。だがしない、出来ないんだよ。


 もちろん受け手にも問題が有る。ただ漠然とそこに走り込んで、ボールが来るのを待っているだけ。ボールが来たら足を出してゴールに向かって蹴るだけ。そんな風にしか考えていない。

 そしてボールの出し手は警戒するディフェンダーを躱そうと無理なスルーパスを出して受け手は取ることが出来ず、またはキーパーに取られて攻撃終了。


 自分の武器を考えて点を取る意識を持てばそうはならないはずだ。

 足が速いなら出し手よりもっと前に鋭く走り込む動きを見せる。相手はそっちにより意識が行くからもっとシュートが撃ちやすくなる。

 ドリブルが上手いならもっと手前でボールを要求し、自分で勝負を挑む。そうすれば出し手はフリーになりシュートを撃てる可能性がある選手が二人に増える。

 ミドルシュートが撃てるならより広がってエリア付近に侵入して角度があるシュートを撃てる位置に付けば良い。ディフェンダーはシュートコースを消すためにポジションを移動せざるを得なくなる。そうすればまた選択肢が増える。


 出し手もそうだ。シュートを撃つ、撃つフリ、ショートパスを出す、出すフリ、浮かしてみる、ドリブル突破を挑む。

 自分の武器を考えて、点を取るためにはどうしたら良いかを考える。そうすれば自ずと最後の動きに選択肢が増えるだろう。それをやるべきだと言っているんだ。」


一年のST 白垣が追従する。

「俺はそんなサッカーをしてみたいと思う。飛び出しは得意だがシュートは苦手だ。 

 だからどうしても前でボールを受けたいが、無理な場面でもボールが入ることが多くてうまくいかないと感じている。動き方を変えて、囮をやってみたり、浮かし玉を要求してボレーにつなげたりすればもっと点が取れると思うんだ。」


ふとコーチの敦賀さんが声を出す。

「点を取る意識を持つことは重要だよね。だけど2・3年生が言うことも分かるんだよ。だから今は目標として置いてみて、徐々に可能性を探ったほうが良いと思う。

 ただ忘れてほしく無いのは、点を取らないと試合では勝てないということだよ。

 大学サッカーでもプロでも僕はディフェンダーだったから後ろからよく見ていたし、サポートもしていたんだけど、点を取る意識がチーム内にあるときとそうでないときだと試合に勝つビジョンの見え方がぜんぜん違うんだ。

 だから超攻撃的なサッカーを試してみてもいいと思う。少しづつやってみようか」


 そんなコーチの一言でこの議題については終わった。

 そのあとは予選に向けたスタメンの選び方と選ぶタイミング、今後のスケジュールの確認をして解散になった。皆少し考え事をするような顔をしている。うまく焚きつけられたなら良いんだけど。

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