第49話 病室/遭遇
俺はアーサー達を病室へ運び、屋敷からリオン先生たちを呼んでもらった。
キアラはスオ達と筋肉集団に護衛させているため、危険は少ないだろう。
並べられたベッドの上で、処置をされたアーサーが眠っていた。
さらにその上に、デブ助が乗って眠っている。
「う、ううっ……ズピー……ううっ……苦しい……ううっ」
眠りながらやる一種の筋トレかと思ったが、流石にそんな物はないとセシルに言われた。
じゃあアレ、ただの拷問……?
「ノア、来てやったぞ」
「ありがとうございます、ウィズさん」
長い刀身を背中に抱えながら、ウィズさんとリオン先生、それにフレイシア先生も来てくれた。
「それが例の【十二の魔法使い】ね。はぁ~、今日はもう仕事休みなのに、面倒事増やしてくれるわ」
「フレイシア。ノア様に呼ばれたら、仕事関係なく来るものでしょ?」
「デート中でも?」
「はい」
「即答ねリオン……」
一応、リオン先生達も居てもらった方が安全だと思った。
アーサーは眠っているし、セシルも側にいる。
俺は自分の力を自惚れちゃいない。
【十二の魔法使い】は弱いってイメージはあるものの、数が増えると厄介になるのは間違いない。
フラマとリサの時がそうだ。『服従』×『魔髪』の組み合わせは、かなり危険な代物だ。
このNo2を自称する子も、他のスキルと組み合わればどんな反応を見せるか分かったものではない。
でも、問題はそこではない。
「ん……」
問題はこの少女……いや、幼女だ。
ピンク色の髪にツインテールをした幼女が、目を覚ます。
「あっ、起きた?」
俺が顔を覗かせると、幼女が「ッ!?」とベットを後退る。
毛布を引き寄せ、キョロキョロと視線を見渡していた。
「大丈夫、病室だよ」
「な、なんの……つもり、だ! ノア・フランシス!」
おっ、俺の名前知ってるんだ。
正直あのスキルの詳細が聞きたくて、起きるのを待っていた。
だから、ズンズンと近寄ろうとする俺の肩にセシルが手を置いた。
「ノア、どっちが不審者か分からないです……」
「あっ、ごめん。えーっと……ダンベル、いる?」
「初手の会話も間違ってます……」
まずった。
どうやって初対面の人と仲良くなるんだろう……。
学園の時は、あっちから『筋肉ってどういうこと?』って聞いてきたから仲良くなれたけど。
シュコーが叫んだ。
「こ、殺せ! 私、殺せ! 敗者弱い! 生きる資格ない!」
場が静まり返る。
小さな少女が、自分を殺せと叫ぶ。
戦闘では手に鎌を持ち、特殊なスキルを使っていた。
【十二の魔法使い】という、悪名高き集団の……No2がこんな幼女であったとは、誰も想像ができない。
初見の外見は大人だったし、俺もそう思った。認識阻害の魔法でも使っていたのだろう。だから『気配察知』でも正確に分からなかった。
「断る」
「なぜだ!」
「アーサーが『女の子を傷つけちゃった……! これ一生面倒見ないといけない奴だよね!?』って焦った挙句、頭打って気絶したからだ」
それを聞いたウィズが頬を引きづらせる。
「眠っているのは、戦いのせいじゃねえのかよ……」
アーサーが頭を打って、これ以上馬鹿になったらどうするんだ。
割と真面目に俺は思ってる。
「気絶する時、アーサーが死ぬまで責任を取ると言った」
「……っ!」
「俺も面倒見るから、住む場所は心配しなくていいよ」
「ならばいっそこの場でお前らを────」
シュコーが殺気を放つと、「ひっ!」と可愛らしい悲鳴をあげた。
「誰を、どうすると?」
リオン先生が睨んでいた。
「ていっ」
俺が軽くチョップする。
ぽしゅっと柔らかい音がした。
「ダメですよ、リオン先生」
「あぁ……すみませんノア様」
俺は振り返る。
その背後でガヤガヤと話す二人の声が聞こえた。
「リオン、子ども相手にガチの殺気出すのやめなさいよ、私も怖かったんだけど」
「年齢で油断すると痛い目を見る、とお師匠様から教わりましたので」
「あぁ……未成年に手を出しかけて痛い目を見たからな……危なかったぜ」
……触れないでおこう。なんか、ウィズさんって掘り下げるとヤバいことたくさんしてそう。
「私は、知っているぞ。全部No1から聞いた! お前らは調べ尽くしている!」
「そっか。教えてくれてありがとう」
「あっ……いや! 今のはなしだ!」
え~……でも聞いちゃったからなぁ。
まぁ、掛かってくるのなら容赦はしないけど。
「どちらにしろ、負けた以上は俺たちの家に来てもらうよ」
「……くっ!」
「捕まえたのはアーサーだ。君をどうするか決めるのはアーサー次第」
そう、俺は思っている。
答えなんか決まってるけど。
「それでも納得が行かないのなら……俺とも戦う?」
微笑んで提案する。
「……お前は、不思議だ。強いのに怖くない」
「うん?」
「怖い奴、みんな強い。お前、怖くない……アーサーも怖くない」
ヤクザ的な奴だろうか。
もっとオラオラ系で行くと怖いって思われるとか。もしくはじゃがいも聖女みたいに『じゃがいも、どうぞ』って言うと怖いか。
いやそう思って欲しい訳じゃないんだけどさ。
「私、負けた。アーサーが生かす殺す決める、従う」
「そっか。じゃあ、よろしく」
「私、敵。まだ捕虜」
「ありゃ」
まぁ、そりゃそうか。
そう簡単に受け入れたりはしないよな。
でも、こんな子どもが人を殺したり、傷ついたりするのは嫌だ。
アーサーも同じはずだ。
そんな世界が嫌で、アーサーは剣を振るっているのだから。
「もしくは、私、仲間に殺される」
「させないよ。だから俺達がいるんだから」
リオン達が仕方ないか、と息を吐く。
シュコーの眼が僅かに輝いた。
ボソッと呟く。
「ここ、明るい……」
*
リオン、フレイシア、ウィズの三人が王都の道を歩いていた。
「なんで私たちに着替えを持ってこさせるのよ」
「フレイシア、仕方ありませんよ。今狙われているのは私たちなんです。別行動するよりも、固まって動いた方が良い」
むっとフレイシアが頬を膨らませた。
「私たち二人が良かったのよ。そっちの方がデートみたいじゃない……」
「我儘はいけませんよ、フレイシア」
「ちょっとくらい……我儘言っても良いでしょ」
女心が分からないリオンは、不思議そうに首を傾げた。
「俺は一人でも十分だぞ? 【十二の魔法使い】如き、返り討ちにしてやるよ」
「では、お師匠様は一人の方が良いですね」
「ちょっとは心配してくれよ……いや、信頼されてるのか?」とウィズが悩む。
意外とこの三人は、一緒に行動することが多かった。フレイシアは酒好きで、ウィズも大酒飲みである。
夜になると二人の煩い酔っぱらいに挟まれながら、リオンは静かに酒を飲むのが日課になりつつあった。
市井の活気が、平和な日常であることを示している。
その中で、リオンが真剣な声音で告げた。
「ですが……私たちはノア様に頼り過ぎています。スオの時もそうです」
「そうね、それは思うわ」
「まぁ、子どもらしくはねえわな」
大人として、それは良くない。そう思っていた。
「私たち大人が、解決するべき事案です」
せめてノアが大人になるまで、自分たちが守ってやるべきなのだ。
────ノアに重荷を背負わせてはいけない。
突然、冷徹な声が聞こえた。
「なんだ、ノア・フランシスの腹心はこの程度か。元剣聖もいると聞いたのに、呆れるな」
「「「ッ!!」」」
咄嗟に三人が振り返る。
槍を背負い、外套を身に纏う人間が居た。
「俺の背後を……!」
「その様子だと『獄門』は失敗し────」
その刹那、ウィズとリオンの剣が走る。
時が止まったかのような感覚が、その場を包む。
世界最高峰の剣士と、ノア・フランシスの師匠。
その二人の剣戟を、その人物は潜り抜ける。
((躱された……!!))
「急に斬って来るとは、物騒だ」
とても冷静な声で、トントンと肩の埃を払う。
「まぁ良い、確認は取れた。下手に会場へ近寄ると、ノア・フランシスに気取られるからな。奴と直接戦うのは、まだ早い」
「……どういうことですか」
「答えないさ。我々【十二の魔法使い】は、お前らフランシス家に正義を執行する」
リオンが言う。
「敵討ちのつもりですか……?」
その人物は鼻で笑い、裏路地へと姿を消す。
「はっ……仲間など捨て駒だ。ここは人が多いな、余計な巻き添えは正義ではない」
フレイシアが「ちょっと待ちなさいよ!」と追いかけようとした。
「ダメですよ、フレイシア」
リオンが冷静にフレイシアを止めた。
「え、なんでよ?」
「あの裏路地の先、魔法だらけですよ」
「でも、一切魔法の気配なんか……」
「当然です。あの魔法は全部……影魔法なんですから」
リオンが思う。
(影魔法は血統魔法……私の同胞が【十二の魔法使い】にいるとは信じられませんが……)
自分たちが予想していたよりも、【十二の魔法使い】は強敵であると。
そう、実感させられた瞬間だった。
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そろそろ他の締め切りがあるのでそっち集中します。
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