第46話 リオンと愉快な魔法使い達


 王都にあるフランシス家の屋敷で、デモ活動が行われていた。

 筋トレを一通り終えて、俺ことノアは、でも活動を眺めていた。


「ぶーぶー! 魔力タンク反対!」

「反対だー! 反対だー!」

「リオン先輩は鬼! 鬼畜!」


 三十代後半の大人たちが、揃いも揃ってなにやってんだろう……。


 【十二の魔法使い】のデモ活動を、リオン先生が静かに睨む。


「チッ……」


 リオン先生の舌打ちに、フレイシアが唖然とする。

 

「最近あんた、舌打ち隠さなくなってきたわね」

「何か問題でも」


 カップル関係になったとしても、リオン先生とフレイシア先生の立場は変わらない。

 よくセシルやキアラがそれを見て、『恋人って言葉知ってます? リオンさん』とか『人の心とかないの?』って言われているのを見た。


 それを言われて平然と『分かりますよ、惚れた方が奴隷になるんですよね』って返してドン引きされていた。


 最終的に魔力タンク達から『愛を知らずに育った鬼』と言われて、その陰口がバレて徹底的に絞られていた。


 リオン先生が溜め息を漏らす。


「まったく……あなた達は自分の立場というものを理解しているのですか。元とはいえ、悪党の【十二の魔法使い】ですよね」

 

 それを言われ、魔力タンクたちが「ぐぬ……」とたじろぐ。


 だが、フレイシア先生が気付いてしまう。


「え? 私は? 悪党じゃないわよ?」

「……」

「ねぇ、リオン……私はぁ!? なんで黙るのぉ!? ねぇ、私はどうなのぉ!?」


 まるで『もう別れよう……』と言われて、フレイシアはそれが絶対に嫌で、必死に相手の男へ縋るような姿に見えた。


「あなたは恋人です」

「恋人らしいこと何もしてないじゃない!!」


 その言葉を聞いて、リオン先生が意を唱える。


「この前デートをしたではありませんか」

「私に首輪をつけて引きずり回すのはデートって言わないの! おしおきをデートって言わないでよ~!」

「それはあなたが私に隠れて────」


 あぁ……始まった。

 ああなってしまうと、二人を止める方法はない。


 最終的にフレイシア先生が『リオンなんか嫌い~!』と叫んでそっぽ向いてしまう。


 やっぱり仲良し……ちょっと羨ましいな。


 すると、俺の目の前を一匹のデブ助が軽快なステップで通り抜けて行く。


「にゃ、にゃ、にゃ。今日はどこでお昼寝するかニャ~」


 そういえば、もう正体隠してないけど……デブ助も【十二の魔法使い】なんだよな。


 ふと、最初の魔力タンクである【天秤の魔法使い】アルバスが、デブ助を捕まえる。


「にゃっ! なんだ、アルバスかニャ」

「……よく考えてみると、俺たちだけ、この扱いは酷いと思う」

「にゃ? 離してくれニャ~、お昼寝したいのニャ……あれ、ニャ……あれ、なんでそんな本気で掴んでるニャ?」


 すると、他のメンバーであるリサとフラマもデブ助を捕まえる。


「ニャ!? は、離すにゃ!」

「ミーア……デブ助などと、卑怯だ! お前も我々と来るんだ!」

「い、嫌ニャ! 魔力タンクは嫌ニャァァァッ!」


 捕獲されたデブ助がリオン先生の前へ持っていかれる。


「り、リオン先輩……俺たちも魔力タンクを捕まえてきました……! こいつ、デブ助じゃなくてミーアっていう名前なんですよ!」

「にゃ、にゃ……」


 完全にデブ助は恐怖モードに入り、イカ耳になっている。

 リオン先生が深く覗き込む。


「……例えそうだとしても、魔力タンクに出来ません」


 ため息を漏らす。


「最近はうるさいんですよ。王国動物愛護団体がやれ虐待だとか、飼育放棄だとか言って……そんな状勢で猫なんか魔力タンクにしたら、怒られますよ」


 リオン先生ってそこ気にするんだ……意外。

 

「これでも王国労働基準法には触れていません。ホワイトですなんですよ、ここ」


 内容がブラックなんだよ。って言わなくても俺には聞こえるよ、魔力タンクズ……!

 

「た、助かったニャ……」


 安堵するデブ助へ、俺は声を掛ける。


「良かったね。そういえばアーサーの姿が見えないけど、どこ行ったの?」

「あぁ……アイツはノア達が剣術大会出るって聞いたら、『俺も出る!』って参加申請を出しに行ったニャ」

「一人で大丈夫かな……もう応募もギリギリのハズだけど」

「確か、予選もそのまま受けるって言ってたニャ」


 俺たち貴族は、参加する際に多額のお金を払う必要があった。それをしなければ貴族は参加ができず、平民は予選で参加資格を得る。


 俺も予選に出たかったのだが、貴族だからダメと言われてしまった。剣術大会の活動資金は貴族から得ているようだ。


 まぁ……ルールなら仕方ない。

 

 でもアーサー、一人で出歩いて大丈夫かな。

 三歩歩いたらすぐ忘れるからなぁ……。


「心配なのかニャ?」

「そりゃあね、俺の我儘で住んでもらってるし」

「それは違うニャ。アーサーはここが好きで、ノア達が好きでここにいるんだニャ」


 諭すようにデブ助が言う。


「お前たちは凄い奴らニャ、私も好きニャ~」

「……そっか、ありがとう。じゃあ、一緒にアーサーの予選見に行く?」

「お昼寝……まぁいいかニャ。代わりに抱っこするニャ」


 俺がデブ助を抱っこすると、一瞬だけ……これ、ダンベル? と錯覚しそうになってしまった。

 すげー重いんだけど……。


「あっ、道中にあるたい焼き屋寄って欲しいニャ。あそこの美味いのニャ〜」

「はいはい……」


 アーサーがどんどん食わせるから、こんだけブクブク太ったな。


 俺たちは一緒に予選会場へと向かう。


 *


 ノア達の向かう予選会場で、見知らぬ【十二の魔法使い】が参加をしていた。


 予選の対戦相手が発表される。


 そうして、人物から笑みが溢れる。自分と最初に戦う相手の名前は────アーサー・ミリアムであった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る