第37話 じゃがいも
そこは王都にある魔法教会であった。
聖堂の真ん中で、一人の聖女が神へ祈りを捧げる。
彼女は淑女にして、母性に溢れる胸を柔らかな服装で隠していた。
そこへ、一人の女騎士がやってくる。
「精が出るな、ミネルバ」
聖女の名はミネルバ。
王都魔法教会の管理人であった。
長い白髪が揺れ、ミネルバが視線を向ける。
「これは……クレー王女様。一体こちらへはどういったご用で?」
「聖遺物の調査だ。我々を襲った魔族を見るからに、魔王たちもいつ襲って来るか分からない……聖遺物が、我ら人間側の鍵を握ると言っても過言ではないんだ」
魔法教会には、聖遺物を管理する役目があった。それは神殺しの槍や神の刻印。太古の昔にあったとされる伝説上の代物だ。
神の力は魔族の力を大きく上回り、人間にとって大きな希望となる。
過去、数百年もの間、魔法教会はそれらを管理し統括してきた。
「聖遺物は神々のもの、そう簡単に人間が触れて良い物ではございません」
「それは、ミネルバも聖遺物所持者だから出る言葉か?」
「はい、もちろんです」
勇者アーサーも、聖遺物の持ち主であった。
それが勇者に選ばれた理由、勇者と呼ばれる所以である。
「そうか……忠告を肝に銘じておこう」
クレーはそう言い残し、聖遺物のある部屋へと向かう。
「……幼き頃から変わりませんね、クレー王女様」
慈愛に満ちた瞳をミネルバは向ける。
母性の強いミネルバは、自分にとって同い年であってもクレーを、まるで娘のように思っていた。
少し気が強いが、それを装っているだけ。心の奥底は可愛らしい少女で、最近では男の匂いがするようになった。
(一体……誰の匂いかは知りませんが、頼れる男性でも見つけたのでしょうか)
ミネルバにそれを追求するつもりはないが、気になりはした。
すると、クレーと入れ替わるように赤髪の女がやってくる。
「す、すびばぜん……」
「はい。なんでしょう」
「け、結婚……する方法、教えてください……」
心身ボロボロのようで、赤髪の女性は自身をフレイシアと名乗った。
普通に人であれば『結婚相談所に行け』や『婚活パーティーに参加しろ』と言うのだろう。
だが、聖女ミネルバは違う。
「良い男性とは、身近にいるものです。もしくは、神に祈るのです」
「神……?」
「ええ、神。そう、例えばこのような……神です」
ミネルバは懐からじゃがいもを取り出す。
「じゃ、じゃがいも……?」
聖女ミネルバの聖遺物は、じゃがいもである。
じゃがいもは歴史上で飢餓から世界を救い、貧困層においても重要な役割を果たした。その功績が神々から認められ、聖遺物となった。
そのじゃがいもに選ばれた者こそが、聖女ミネルバであった。
「我らが神、じゃがいもです」
そして、聖女ミネルバは……ノア・フランシスの推しキャラであった。
「あなたも信仰しなさい、じゃがいもを」
スキル────『じゃがいも』発動。
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じゃがいも
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