第30話 旧魔王


 旧魔王城の一角で、冷徹な声が響いた。

 玉座に座る男は魔法布で出来た服を纏い、剣を象ったイヤリングが揺れる。


「アーサーを仕留めそこなったか」


 その瞳には不快の色が映っていた。

 大柄な魔族が、膝をついて提案する。


「私が参りましょう。その方が早く済むかと」

「位置は掴めているのか?」

「王都へ向かったとこまでは……ですが、情報によれば魔法教会が手配した豪華客船にいるとのこと」


 なるほど、と納得した様子を見せる。

 しかし、その顔色には何処なく怒りが混じっているように聞こえた。

 

「だが、成功した、などと我に嘘をついた者がいる」


 アルバスとミーアへ最初に依頼をした魔族は、中級魔族であった。

 その人物は縛り付けられて、この場で倒れている。


「失敗したことに気付かなかった貴様の失態だ。もし一手間違えれば、現魔王に感づかれる所であったぞ」

「申し訳ございません! お、お許しを……! どうかお許しを魔──────」


 パチンッと指が鳴ったかと思えば、中級魔族が破裂する。

 王座に座る男は、瞳の色を変えることなく、見下すような視線を向けていた。


「誰が喋って良いと言った」


 どこまでも傲慢で、不遜な態度を崩さない。大柄な魔族以外は、恐怖で身体が震えていた。

 王座にいる男に、この場の誰も逆らうことができない。


 軽く発せられている魔力に当てられてだけで、命の危機を感じる。


「アーサーを殺しアンデット化させる。その目的のために、我はここにいる」


 魔族たちは力で支配されていた。

 間違いなく、世界最強の魔族に相応しい人物に逆らおうとする奴はいない。


「カバルディ、見つけたら我に報告しろ。アーサーの顔を見るのは、奴の村を燃やしたぶりだ」

「御意、スオ魔王様」


 最も忠臣なる部下、大柄の魔族カバルディにそう命令を下す。

 

 スオは感情が僅かに高ぶった。その余波で一部の下級魔族は震えが止まらない。

 

「旧魔王軍などと我らを罵り、見捨てた奴らが……地獄へ落ちるよう」


 そう言って、スオが立ち上がる。

 カツン、カツン、と機械音のような特徴的な足音が響いた。


「強き者を配下に加えるのだ」

 




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