第19話 三つ巴(ノア/【十二の魔法使い】/勇者)


「ノア坊ちゃま、そろそろ王都へ入学の準備をしなければ」


 その一言で、俺の日常は終わりを告げた。

 これまで行って来た剣術や魔法の特訓は、十分すぎるほどの成果を残していた。


 ステータス。


 ───────────────────

 【ノア・フランシス】 レベル:55 年齢:15 性別:男


 体力 :S+

 攻撃 :S

 魔力 :A+

 素早さ:S

 知能 :筋肉

 

【スキル】スキル

『鑑定』      Lv9

『瞬歩』     Lv10

『気配察知』   Lv8

『並列思考』   Lv10

『刀術』     Lv10

『空間魔法』   Lv5

『錬金術』    Lv6

 

 New!!

『魔力耐性』    Lv10

『観察眼』     Lv4

『コピー』     Lv1

『身体強化(特殊)』 Lv1

爆発物ダンベル』     Lv1


 ───────────────────


 ステータスが大幅に上昇し、新しく多くのスキルも手に入れた。


 そして──────今まで知能『不明』だったものが、『筋肉』になった。

 本当に意味が分からなかった。


 俺が転生した人間だから、今まで知能が不明なのだと思っていた。ほら、ゲームの中に日本の知識とかないじゃん。そういう意味かなーって思ってたんだ。


 でも知能:筋肉ってなに。

 

「勉強でございます。ノア坊ちゃま!」

「やだ!」

「勉強してください!」

「嫌だ!!」


 断固拒否する! 

 勉強なんてものは、筋トレに比べれば実るのが遅いし、努力しても必ず実を結ぶとは限らない。


 いい加減、受験とかいうシステム改善しようぜ……ほら、お金払うだけで入れる方が楽じゃない。大切な学生時代、遊んだ方が良い。

 

「ダンベルを没収しますよ!!」


 そう言われてしまっては仕方ない。

 大人しく席に座る。


「でもさセバス。俺たち貴族って受験とか受けなくても、お金払えば入れるんじゃないの?」


 アブソリュート学園は特別な様式で、貴族はお金さえ払えば入学することができた。その反面、平民は努力で入学しなければならない。

 貧乏な家庭であれば、特待生で入学しなければお金の問題も解決できない。


「ノア坊ちゃま……本当にそれで良いのですか?」


 セバスは、過去の俺と今の俺を比べながら言っているような気がした。

 厳しいけど、セバスの俺を見る目ってなんとなくおじいちゃんっぽいから、嫌いになれない。


 そのせいか、俺もセバスに少し甘えてる所がある。


「せっかく……ここまで努力されたのです。ならば、首席で入学しましょう」

「しゅ、首席……!」

「そうです! ノア坊ちゃまの実力を、皆さまに見せつけるのです!」

「筋肉!」

「見せつけるのは実力です! 筋肉ではありません!」


 なんだ、じゃあいいや。

 俺の落胆ぶりを見ると、セバスは教卓を強く叩いた。


「良いですか! フランシス家は昔の悪行によって『クズ』だの『カス』だの言われ放題なのです! これもすべてはノア坊ちゃまの行いのせい!」

「うぐっ……」

「せめて、学園でその噂を取り払わねば……友達が出来ませんぞ!!」


 はっ!

 そういえば、ノアはゲームの学園だと取り巻きを金で雇っていた。友達と言える友達もおらず、結局は部下からも裏切られる。


 そんな未来が俺にも待っている……学園というのは、破滅への第一歩だというのか。


「大丈夫ですよ、セバスさん。私もお手伝い致します」

「セシル!」


 部屋に入ってきたセシルは、なぜか眼鏡をかけていた。

 しかも、女教師のような服装をしている。短いタイトスカートまで履いている。


 心の中で親指を立てつつ……エッチだと思う。

 

「セシル様……宜しいのですか?」

「はい、私は勉強も完璧です。模擬試験では100点を取ってますので」

「おぉ……! それはなんと心強い!」


 これは、セシルもお金ではなくちゃんと試験を受けて入学しようって考えか。

 みんな偉すぎるな……見習わないと。

 

「ノア、ちゃんと私が教えますからね。だから、今日はずっと一緒に居ましょうね」


 あっ、そっち狙いか……その衣装もわざとだな。

 セシルの考えがなんとなく分かると、気を引き締める。


「では、まず歴史から。王都の魔法教会の成り立ちと……」


 俺はその一言目から頭に入ってこなかった。

 筋肉に例えて教えて欲しい……。


 *

 

 とある王都の地下室。

 【十二の魔法使い】が集まる場所では、会議が開かれていた。

 しかし、集まったのはたったの二人のみ。他のメンバーは呼びかけにすら応じなかった。


 酷く機嫌が悪そうな声が響いた。


「なに? 【天秤の魔法使い】と【魔猫の魔法使い】が消息不明だって?」

「らしいよ~」


 爪を綺麗に整え、ネイルをしている女があくびをした。


「猫は別だが、アルバスは私が認めた魔法使いであるぞ……?」

「猫ちゃんに関しては初任務だし。まっ相手が悪かったかもね」


 相手……? と男が問いかけた。


 分かっているのは誰かの依頼を受けた【天秤の魔法使い】と【魔猫の魔法使い】が消えたことだけ。


「勇者」

「……っ! まさか、勇者に二人もやられたのか!? あんな若造に!」

「いや、アルバスは……ノア・フランシスとか言う奴のところ」

「フランシス領土のクズ息子じゃないか」


 女は足を組んで、不敵に笑う。


「そう、面白いでしょ? ただのクズ貴族にアルバスが負けるなんて思えない。だから私、調べてみたの。誰にやられたかって」


 そう言って、髪の毛が伸びる。

 女の正体は【魔髪の魔法使い】。自身の髪を自由に伸縮させ、情報収集や鋭利な武器として攻撃に用いる。


「引退したベテラン暗殺者セバス、元猟団の凄腕と言われたアンバー、王国防衛隊長を務めていたオルガ……」


 筋肉集団の名前をつらつらと告げて行く。


「一種の要塞のような場所だな。そこへアルバスが……それならば、負ける可能性も確かにある」

「そんなに調べてなかったみたいだし、かなりフランシス家が手を回して隠してた事実みたい」

「ま、有名な貴族だ。恨みも相当買っていると聞く。子どもを守るためならば、変ではないな」


 王国内では悪逆と有名なノア・フランシスは嫌われ者としても認識されていた。金持ちで横暴、ひっそりと陰で言われている悪い権力者といえばとノア、と名が挙がるのは言うまでもない。

 

 ダンベルを手に持ち、『見てみて! これ爆発するダンベル!』などと開発に勤しむ姿を知っているのは、屋敷の人間のみ。


「どうするの? フラマ」

「今は第二王女、クレー・レオウルスの誘拐が先だ。敵国から大金を積まれただろ?」

「その王女もどうやらフランシス領土に向かってるみたい。ついでにれるけど?」

「ほぉ……好都合。やられっぱなしでは、【十二の魔法使い】の恥だ」


 フラマは無精ひげを撫でながら、口角を歪めた。背後にはいた無数の獣の吐息が「グルルゥゥ……」と荒くなる。


 フラマが立ち上がって、外套を広げる。


「出陣だ……我が猟犬よ。ノア・フランシスの首を取りにな」


 フラマの名は【服従の魔法使い】。相手の脳内に侵入し、情報を抜き取る。時に魔物や人間を使役し、暗殺を得意とする。


「必ず……必ずお前の仇は取るぞ……アルバス、わが友よ」

「じゃ、その次は勇者ね……若い男って好きなのよねぇ食べちゃいたい……ふふっ」


 *


「にゃ、にゃ”あ”あ”~」

「お前、相変わらず変な鳴き声で鳴くよな~」


 下手くそな猫の鳴きまねのような声で、メス猫は勇者に抱っこされている。


「俺と戦った、あの謎の猫っぽい魔法使い……どこ行ったんだろうなぁ」


 猫が僅かに飛び跳ねる。

 顔色を悪くし、必死に勇者の視界から外れようとしていた。


「まっ、いっか! お前と会えたし! な、デブ助!」

「にゃ、にゃ”あ”あ”~」


(よ、良かったニャ〜、こいつが馬鹿で。まさか、手も足も出ずにやられるとは思わにゃんだ……こいつ、馬鹿だけど超強いにゃ……でも、デブ助って名前は不満にゃ)


 勇者はのんびりとした歩調で、王都へ向かっていた。そして、その道中にはフランシス領土も含まれている。


 世界に広がる三つの糸が、徐々に絡みつつあった。

 

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