第12話 ヒロイン攻略②


「あの……俺さっさとダンス終わらせて帰りたいんだけど……」


 数週間後、俺はまた貴族教育養成所の大広間でダンスの訓練を受けていた。

 正直、もう行きたくはないのだが……あれから事あるごとにセシルから手紙を受け取っていた。断りづらいせいで、こうして今ここにいる。


『ノア様、次の貴族教育養成所にはいつ来られますか?』

『ノア様? 私の庭園で育っております桜の木を一緒にご覧になりませんか?』

『ノア様……噂には聞いておりますが、筋肉バカとはノア様のことでしょうか?』


 手紙! 凄い量の手紙があれから送りつけられるんだ!

 そういえば……ゲームでも主人公を一番独り占めしたい欲が強いヒロインだったっけなぁ……。

 

 まさか俺に惚れてる訳じゃないだろうし、それでこの手紙の量は……うーん、セシルは律儀でもあるから、単純に婚約者として不仲の噂が立つのが嫌とか?


 不味い……セシルの考えてることがさっぱり分からん。


 でも! 俺も無策で貴族教育養成所に来た訳ではない。

 前回、従者を相棒にしてオッケーだと知った。だからセバスを連れて来ようとしたのだが、キアラが行きたいというので連れてきた。


 ふふん、セシル。残念だが、俺は今回相手が居るんだ。


 その結果が、冒頭の台詞に繋がる。


「初めまして、キアラちゃん。意外と可愛いのね、あなたが将来の妹なんてすごく楽しみ」

「ええ、それはこちらこそ同じ……ねぇ、セシル?」


 お互いに「ふふふ」と笑い合って怖いんだよ!

 二人が会って早々、この場所の空気が変わった。


 なぜか火花が見えるが……気にしないでおこう。うん、男が出る幕じゃない、と言い訳する。


「す、すみませんセシル様……今日は妹とダンスの約束で」

「あら、構いません。兄妹の親睦を深めるのも大事なことです。兄離れもすぐに済むといいですね」


 セシルの言葉に苛立ったのか、キアラがわざとらしく俺の腕を掴んだ。


「お兄様、早く行きましょう?」

「あ、あぁ……今度、きちんと穴埋めしますので……」

「はい、楽しみにしております。ノア様」


 笑顔で手を振って、セシルは見送ってくれる。


 可愛らしい妹なんだが、女性の影がチラつくと途端に怖く感じるんだよなぁ。

 ダンスに付いて来たいって言ったのも、『女の匂いがする』とかいう理由だし。


 女の勘と言う奴だろうか。


 

 ノアとキアラが少し離れた時、ふと男の子がセシルにぶつかった。


「おっと、すみません。ダンスの練習で気づか……ひぃぃぃっ!」

 

 セシルは半眼で、ほぼ睨んでいるとも捉えられる冷徹な視線を向けていた。

 

(あの子……邪魔ですね。やけに誘いを断られると思っていたら……あの子が原因かしら)


 それに対して、キアラはこう思っていた。


(私のお兄様……あんな女に取られてたまるもんですか。前のままだったら、女なんて絶対に近付かなかったのに……もっと警戒しないと)


 そして二人は同じ結論に至る。


((どうやってあの女、消そうかしら))


「キアラ? どうした?」

「へっ!? いえ、なんでもありません。お兄様、随分と筋肉が付かれて、とても素敵だなと」

「そうかな!? やっとキアラも筋肉の魅力に気付いてくれたか? 一緒に筋トレする?」

「いえ、それは全く」

「そうか……」


(でも、前より分かりやすくてチョロくなったお兄様が、一番好きですけど) 


「ふふっ」

「なんだよ~……」


 不満げな様子で、ノアが呟いていた。

 楽しそうな声音がノアの耳に届く。

 

「私は今のお兄様が、一番好きですよ」



 

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