ありがとうを何度でも4

「お父さんは小技連打ではめ殺しをする様な子に育てたつもりはありませんよ!!」コントローラーを持ってウガーといきり立っている父さんを尻目に、

「前転ローリングで回避できるだろ?それにこの技教えてくれたの父さんだからな!?」


「前転で回避した所に小技をするのはズルだと思います!!反則です!!」


「知らねぇよ!!それも技だろ!?」へへんとどや顔する俺。


「ごめんね、たえちゃん。この二人はいつもこうだから」母さんが呆れた顔をする。


 たえは、嬉しそうに笑いながら、「アハハ、まこと楽しそう」


 親父と俺はいつもこんな感じだった。ふざけてムキになって……。


 たえが、俺達親子を嬉しそうに眺めている。後で、たえともゲームやろうかな?そう思っていたら、「たえちゃんも後で一緒にやろうね!!」父さんがコントローラーを握り締めながら叫んだ。


 父さんは、ゲームや遊ぶ事が大好きで俺が何かに夢中になるきっかけはいつも、父さんだった。


 ギターに興味を持つきっかけもそう、五月蝿く言い勝ちな母さんと違って、父さんはあまり怒らない。


 ただ、『何にでも一生懸命やれ』とは、良く言われた。


 それが、どんなに下らない事でも、それがどんなに辛い事でも。俺の基盤は多分、父さんが教えてくれた、この一言なんだろうとと思う時がある。


「まこと、もう一回、もう一回なっ?」全く子供かよ?父さんが俺に拝みながら頼み込む。面倒臭いな。


「はーい、じゃあ次私やりたい!!」たえが元気良く手を上げて、次の対戦相手を希望してくる。「しょうがないな、じゃあ次はたえがあい……」


「よーし、たえちゃん来ーい!!まことが欲しければ、私に勝ってからだー!!」


「言ってる事がコロコロ変わるな!!」本当に面倒臭いな。少しうんざりしながら、たえを見ると……指をペキペキ鳴らしてウォーミングアップ、やる気満々だった。



「お兄ちゃん二人いますから、鍛えられてますよ!!」うぉう、空中投げ、連打技キャンセル必殺技コンボ……やるなぁ、たえが操る女性キャラは一瞬で父さんを瞬殺。俺でも勝てないんじゃないかなぁ?


「アイ・ウィン!!」勝ってVサインを示すたえ、項垂れる父さん、大笑いする母さん。


 唖然とする俺。


 父さんは項垂れながら言った。


「勝負はあった。まことは持っていけ……」

 そういや、そんな話だったかな?どうでも良いけど、俺がたえを貰うんだし。あれ?たえ?何だよ、王者の顔は、なんだ俺とやろうってか?良いぜ、やろうか?終わりのある勝負って奴を!!


 ……負けました。これってどうなるんだろう?そんな馬鹿な事を考えていると、たえがコントローラーを床に置き、正座して俺達の方を見て、三指をつく。


「この度、青葉まことさんと婚約させて頂く事となりました。忍野たえです。ふつつかふつつかものではございますが、よろしくお願い致します」


 そう言って深々と頭を下げる。


 父さんと母さんも慌てて、何故かハハーッと言ってお辞儀する。


「たえちゃん、抜けてる所がある息子だけど、末永く仲良くして上げてね」

 母さんは、目にうっすらと涙を浮かべながらたえにもう一度、お辞儀した。


「巧も鼻が高いだろうな、こんな良い娘さんに育って……」少し、堪えきれなくなったのだろうか?父さんは、鼻をすすった。

「父は、おじさんに言ってなんてい「たんですか?」


「巧は、お前達二人を凄く心配してたよ。お前達は、本当に仲が良かったし、でもくっつきそうでくっつか無くて、お前達二人が付き合っている所が見たかったなぁって」


「……パパ」たえが、胸の前で手を祈る様に組む。「私も見せたかったよ、ごめんね」


「たえ……」俺はそっとたえを抱き寄せる。父親の事を思い出したのか、彼女は静かに涙を流していたからだ。

「謝らなきゃいけないのは俺だろ?俺はいつも意気地無しで、臆病で……本当学生の時の俺は何をしてたんだろうな……」本当に、少し勇気をだせば良かったんだ。ほんの少しだけ……。


「私だって、意気地無しで臆病で……ごめんねパパ」


 ふと、肩にぬくもりを感じて、そちらを見れば、父さんが俺とたえを包む様に俺達二人の肩を抱いている。


「君らは、君らのペースで行けば良い。今が幸せならそれで良いじゃ無いか」


「父さん……」


「おじさん……でも、パパに見せたかったな……」


「見てるさ、きっと巧も、娘が幸せになろうとしている所を見たくない親なんていないだろ?」俺の父さんは、普段は落ち着きの無くてはふざけているけど、大事な事は決して間違えない、優しい思いやりのある人なんだ。


 父さんの言葉に、たえは、声を上げて泣き出してしまう。


 最近の俺達はいつも泣いてばかりだな……。


「なぁ父さん、いつも口癖みたいに娘が欲しかったって、言ってただろ?」


「なんだ、急に昔の話を……」昔の暴露話をされて父さんは少し照れた様に頬を掻く。


「今でも、そうか?」泣いた、たえの頭を撫でてやりながら父さんに聞いた。


「それは……いや、そうでも無いか?」父さんはフフッと小さく笑うと、


「だって、こんなに可愛い義娘むすめを連れて来てくれる、息子も悪くは無かったからな」


「だろ?」俺も父さんの様に笑う。


 父さんは、部屋の天井の虚空を眺めて言った。


「なぁ巧、うちの息子も中々やるだろう?ちゃんと、お前の所の素晴らしい娘さん、射止めて帰って来たぞ……だからさ」


 父さんの手が俺の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でて来た。その手は!思ったよりも、小さくて……。

「後は、うちの息子に、たえちゃん任せても良いだろ?」その一言で、泣き虫なたえは、もっと泣き出してしまった。















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る