第25話 格ゲーとチート
俺は、委員長に言われた通り、強キャラ、というか、オールマイティに使い易い主人公キャラを選択する。
「おっ、無難に来たね」
委員長はそう言って、主人公の劣化版みたいな弱キャラを選択した。
露骨なハンデ戦である。
まずは普通に戦ってみる。
委員長の体力ゲージを三分の一削ったところで普通に負けた。
「もうちょっと、技キャンセルとか上手く使えるようになった方がいいよー」
アドバイス頂きましたー。
「よしっ。次は本気出す」
「うわっ。出た。小学生みたいなやつ」
委員長がクスクス笑う。
冗談だと思ったらしい。
だが、俺は本気だ。
このまま負けると、本当は三回戦あるのが二回戦になってしまい、金が無駄になるし。
『身体能力強化』で、動体視力と反射神経、さらには筋力をゲーム機を壊さない程度に強化する。
『r―e―a―d―y f―i―g―h―t!』
本当はイケメンボイスなはずの、試合を告げる巻き舌の音声が、デブキャラの戯言みたいに鈍重に聞こえる。
動くキャラクターたちは、もはやコマ送り。
一人だけ、スローモーションの映像の中に紛れ込んだ普通の人になった。
そんな感覚だ。
委員長の繰り出す大技も、小技も、予備動作の時点で判別して回避できる。
いくら彼女のコンボがすごくても、当たらなければどうということはない。
『Perfect!』
完勝した。
俺の操作キャラクターが、キザにキメポーズを繰り出す。
「うそ……でしょ」
委員長が絶句する。
「本気を出すって言っただろ?」
「せこい! 一戦目はわざと手を抜いたのね!」
「悔しかったらかかってこい!」
俺は調子に乗って、委員長を挑発する。
「あ?」
委員長の血管がキレる音が聞こえる気がした。
『r―e―a―d―y f―i―g―h―t!』
再び試合が始まる。
今度は、一回コンボをくらったが、それでも余裕で圧勝した。
「はい。終わり」
「クッソー。いかにも弱そうなこと言って予防線張っておいてなんなの? その世界チャンピオンなみの見切りは! 小足見て昇鯉余裕でしたって訳!?」
委員長の言葉遣いがお下品になってる。
こわい。
「ははは、戦いはゲームをプレイする前から始まっているのだ」
俺はそんなもっともらしいことを言ってとぼける。
「もう一回! ね、もう一回! 今度は私も本気キャラ使うから!」
委員長が俺の腕をとって引っ張る。
その拍子に手が胸にあたった。
結構大きい。
着やせするタイプなのかもしれない。
「えー、まあ、金を払ってくれるならいいけど」
「払う払う!」
俺が渋々そう言うと、委員長は二つ返事で追加の料金を投入した。
その後、結局三戦付き合わされた。
いずれも結局は俺が勝ったが、戦う度に委員長は強くなっていき、かなり苦戦を強いられ、最後の一戦では、なんと一本とられてしまった。
チートを全開にしたのにもかかわらず、である。
技が見えるのに、何だか、詰め将棋をやられているような感覚で、分かっているのに技を受けざるを得ない状況に追い込まれたのだ。
おそらく、俺の行動のパターンを推測して、理詰めで戦略を組み立てたのだろう。
「まさか……、この私が一セットもとれないなんて」
「もうそろそろ勘弁してくれないか? 何ならジュースおごるから」
そろそろ俺も疲れてきた。『身体強化』は、身体には害はないようだが、脳は相当に疲労するようで、何だか頭が痛くなってきている。
「情けはかけないで……。もう、終わりでいいわ。お小遣いもほとんど使い切っちゃったし」
そう言って残念そうにうな垂れる委員長は、いつもの飄々とした感じとは違った表情で、何だかかわいかった。
「まあまあ。もうすぐ、コンシューマー版が出るから。それを買って、後は金のことは気にせず、好きなだけやれよ。何なら俺もたまにはネット対戦に付き合うからさ」
「私の親が、ゲームなんて俗的なもの、買ってくれると思う?」
委員長が、潤んだ上目遣いで俺を見上げた。
俺の社交辞令的な慰めは、かえって委員長を落ち込ませてしまったようだ。
「……じゃあ、俺がゲーム買ったら、やりに来ればいいじゃん」
そんなしおらしい反応をされると、クラスでは『優しいけど恋人には微妙だよね』的な立ち位置で通ってる俺は、キャラを守るために、そう社交辞令を重ねるしかない。
「ほんと!? ほんとだね? 見城くん! 私本気にするからね!? 約束だからね?」
委員長はさっきまでへこみ様はどこへやら、目を輝かせて、俺に顔を近づけてくる。
「あ、ああ……。も、もちろん、男に二言はないぞ。でも、あ、あれか。お前の親が許さないだろ? 男の家に遊びに行くなんてさ。しかも、俺は一人暮らしだから、二人っきりになっちゃう訳だし」
あまりの勢いに、俺はまた断る予防線を探すようにして言った。
委員長の格ゲー趣味を隠すとなると、他の友達を呼ぶ訳にはいかないから、必然的にそういうことになる。
「それは大丈夫! 見城くんは、親の『付き合ってもいい男子生徒リスト』に入ってるから!」
「なんだそれ」
「家柄、人柄、資産を総合して、お近づきになってもいいクラスメイトのリストだよ? 結構、合格ラインは厳しいんだから」
委員長はあっけらかんとそう答えた。
そのリストの存在に何の疑問も抱いてないらしい。
「あ、ああ、そうなんだ」
俺は引き気味に頷く。
俺の人柄がそんなにいいとは思えないから、合格理由は主に親の資産だろう。
それにしても、過干渉ここに極まれりって感じだなあ。
本格的に委員長がかわいそうになってきてしまった。
「うんうん。だから、いくらでも見城くんの家に行っても、大丈夫。――あっ、そういえば、私が負けたら、見城くんの言うことを何でも聞く約束になっていたよね? どうする? 私に何して欲しい?」
「それはいいよ。別に。結果として、タダで遊ばしてもらった訳だし」
俺はいい人キャラを貫徹するために、そう偽善を吐く。
「ダメだよ。約束は約束なんだから」
委員長が意固地にそう言い張った。
暗にさっきのゲームの約束を守るように牽制しているのかもしれない――と考える俺は性格が悪すぎるか。
たぶん、委員長に他意はなく、本当にきっちりした性格なだけだろう。
「うーん。そう言われてもなあ」
ダンジョンの感覚で、『じゃあ、お前にエロいことをさせろ』なんて言う訳にもいかないし。
「遠慮なく言って。――まあ、私にできることなんて大したことはないけど。授業のノートを貸してあげるとか、クラス委員決めの時に当たらないように便宜を図ってあげるとか、それくらいが精いっぱいだけどね」
委員長はそう言って自虐的に笑った。
俺は身体以外の委員長の用途を必死に考える。
できれば、なるべく後腐れがないような簡単なやつがいい――おっ、一つちょうどいいのがあるじゃないか。
「そうだなあ……。じゃあ、この後俺の買い物に付き合ってくれよ」
俺はやおらそう切り出した。
「え? うん。もちろんいいよ。まあ、塾があるから、そんなに遅くまでは無理だけど。でも、そんなことでいいの?」
委員長がきょとんとした表情で言った。
「ああ。実は、地方に住んでる親戚の女の子にさ。都会の服を送ってくれって言われてるんだけど、俺一人じゃ買いに行きにくくてな」
当然嘘である。
先日タダで引き取った双子の少女奴隷に着せる服を調達したいだけだ。
ネット通販とかでも、買えないことはないのだが、俺の購買履歴に女物の服を入れたくないし、できれば中古で安くまとめて仕入れたい。
「都会の服かー。私、あんまりファッションとか詳しくないけど、大丈夫?」
委員長が心配そうに問いかけてくる。
「ああ。問題ない。その子も『都会で買ってきた』っていうブランドが欲しいだけで、ファッションに詳しい訳じゃないから。適当に古着屋で中古の服を漁るつもりだ」
俺は自身満々に頷いた。
はっきり言って、ファッション性とかはどうでもいい。
最低限、女の子っぽい服なら十分だ。
なんせ、売り物にする訳でもない奴隷のための服なのだから。
「そうなんだ。じゃ、行こう。私もいつもはお母さんに着る物を決められちゃうから、見るだけでも楽しそうだしね」
委員長は乗り気な様子で椅子から立ち上がる。
俺もまだ続いているゲームを適当に敗北して終らせ、スコア画面にAAAとやる気のない名前をぶちこんで、腰を上げる。
「じゃ、よろしく頼む」
「任せておいて」
俺たちは連れ立ってゲーセンを出た。
「あっ、ちょっと待って」
委員長が立ち止まって、鞄をがさごそ漁りだす。
「ん? なんだ?」
俺もつられるように立ち止まった。
「良かったら、制服の背中のとこにファ○リーズしてくれない? 親にゲーセン行ってたってバレないように、服についたタバコの臭いを少しでもとっておきたいの」
委員長は思いだしたようにそう言って、緑色のパッケージがついたノズル付きの容器を俺に差し出してくる。
「……マメだな」
俺は委員長の格ゲーにかける情熱に感心しながら、彼女の制服のブラ紐が透けるくらいまで、その消臭用の液体を吹きかけてやった。
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