十二迷宮戦。「戦術」と「雑兵」と「女王陛下」
@-yoshimura-
第1話 洗脳が解けた雑兵
俺の名は
周りからは青髪と呼ばれているどこにでもいるような容姿をした少し髪の長い17歳の男だ。
地上からやってくる冒険者達から人馬迷宮を護る雑兵として生活している。
俺はいつものように人馬迷宮の地下第2階層にある酒場へ向かい、街を歩いていた。
人がすれ違えるくらいの路地を挟み、石造りの建物が軒を連ねている。
レンガ敷きの道は50mほど真っ直ぐ伸びており、俺と同じ立場である迷宮を護る者達がワイワイとしながら楽しそうにうろついていた。
皆、この迷宮を守る雑兵で、職業に合わせて使い込まれた装備品を身につけている。
人の声がこだまし、お酒のにおいが街全体に蔓延していた。
とはいうものの換気用のファンが永続的に運転をしており、新鮮な風が吹き息苦しさという感じはない。
繁華街というほどの華やかなものではないが、少なからず活気が感じられる。
地下2階層の街は、高さ・幅が30mずつのトンネン状になった迷宮内に、建物が密集して建てられていた。
地下2階層は300人規模の雑兵が、迷宮攻略をしようとする冒険者達から守っている。
その雑兵の全員が、この街に暮らしているのだ。
迷宮は古代人が創ったものと言われており、
そんな時である。
————————突然、迷宮主にかけられていた洗脳が解けた。
そう。俺は洗脳され、冒険者達からここを護る雑兵として利用されていたのだ。
元々は冒険者だったはず。
半年前、人馬迷宮の攻略に失敗し、ここの迷宮主に洗脳、支配されてしまっていた。
洗脳、支配されてからの記憶ははっきりあるものの、俺が冒険者だった時の記憶については欠落している。
俺は一体どこで生まれたのだろうか。
親、兄弟はいるのか。
そして、かけられていた洗脳が突然解けたのであるが、その理由については分からない。
特にこれといって思い当たるふしがない。
とはいうものの、迷宮主からの支配については継続中であり、自由は奪われているのはそのまま。
洗脳が解除されたからといって、雑兵として命をかけて迷宮を守らなければならない立場については変わっていないという状況であった。
・名前 : 水烏
・通称 : 青髪
・種族 : 人間
・職業 : 術士
・年齢 : 17歳
・Level : 19(E +)
・力 : 10
・速 : 10
・体 : 15
・異能 : 召喚E、戦術E、鑑定E
・状態 : 支配中、洗脳解除、記憶欠落
・特殊 : 女王陛下の加護
・経験 : 999/999
・cost : 6/6
人馬迷宮の地下2階層を守っている雑兵で、Level19の『E+』。
経験値が1000に達すれば、Level20の『D−』となり、上級職と呼ばれるものへ『転職』できる。
見てのとおり経験値の上限が999。
―――――――――俺がLevelを上げるためには『上限突破』をしなければならない。
限界突破をするための条件は、この世界の唯一神である『ラプラス』に認めてもらうこと。
その『ラプラス』に認められてもらう手段については、誰に聞いても分からない。
つまり、俺のLevelは『E+』で打ち止めだというのが現実だ。
『Level』とは文字通りその者の強さを表している。
上がると転職することが出来、就く職業によっては、圧倒的な戦力を得られるのだ。
Level19とLevel20との職業の実力差は大きく、凄まじいほどの隔たりがあるというのが現実である。
そしてステータスの中に、把握していないものが生まれていた。
『女王陛下の加護』だ。
洗脳が解ける前までは、こんなものは存在していなかったはず。
突然、俺のステータスに加えられていたのだ。
一体これは何なんだ。
俺の洗脳が解けた原因は、この加護によるものだと直感していた。
今もかけられている迷宮主の支配から逃れるためには、この『女王陛下の加護』というステータスが鍵になる気がする。
女王陛下とは何者なんだ。
とにかく、まずはこの者が誰なのかを突き止める必要がある。
これについて、最優先に情報を集めなければならないか。
地下2階層を守護している者は、『漆黒麗嬢』と言われている女。
いわゆる、人馬迷宮の地下2階層を守護している
そして雑兵である俺の上司でもある奴だ。
漆黒麗嬢の名は
通り名のとおり黒髪が輝き、おそろしいくらいの美少女である。
―――――――――そして、半年前に冒険者として迷宮攻略をしていた俺をぶっ倒した女だ。
その時の記憶は曖昧だが、俺達は6人規模のパーティを組んでいたはず。
高度な戦術を用いて、被害を出すことなく人馬迷宮を攻略していた。
だが、漆黒麗嬢単体に俺達部隊は圧倒的な戦力差を見せつけられ敗北を喫したのだ。
その時に何が起きたのか記憶が欠落している。
だが、その女への恐怖だけは心に深く刻みこまれていた。
俺は地下2階層にある唯一の酒場に入り、人馬迷宮の雑兵になってからいつも座っているテーブル席についた。
100ほどある席は満杯状態だ。
お酒に酔った者達の笑い声が、店内に反響している。
石張りの床を、木製の壁に設置されている照明が明るく照らしていた。
天井には空気を循環させるために吊られている大きなプロペラファンが不気味な音をたてて回っている。
周りを見ると、いつものメンバーが決まった席に座っていた。
俺を含むここの雑兵達は、ルーティン作業をするように毎日、同じことを繰り替えしていた。
そう。何の迷いもなく。
当然に、洗脳が解ける前の俺も、自身の行動に疑問を持つことは無かった。
腰掛けた指定席の4人掛けテーブルには、俺と気の合う奴等が座っている。
槍使い(男)と拳闘士(男)、弓使い(男)の3人だ。
全員が俺と同じLeve19の『E+』。
地下2階層を守る雑兵は全員が経験値999。
限界突破が出来ていない奴等だ。
年齢は様々。
当然であるが、こいつ等も迷宮主に洗脳・支配されている。
酒を飲みながら、槍使い(男)が陽気な口調で、とんでもない言葉を口にしてきた。
「青髪。新しい冒険者達が地下1階層を突破した話しは聞いているか?」
不意に飛んできた言葉を聞いて、心臓に杭を突き立てられた気がした。
ギリギリと胸が締め付けられていく。
俺達は迷宮を護る雑兵。
―――――――――そう。俺達は、侵入してきた冒険者達と、命をかけて戦わなければならないのだ。
冒険者との戦闘において、俺達雑兵が全滅をすることはある。
だが、俺が生き延びてきた理由は運が大きく作用していた。
ここ地下2階層を守護する雑兵の数は約300名。
だが、1度の戦闘で戦う人数は30名。
冒険者への対応は、全雑兵の1割くらいがするのが規則となっていた。
そして、今回迷宮へ侵入してきた冒険者達の対応は、俺達がする番というわけだ。
分かっていることではあるが、確認するように槍使い(男)達へ確認をした。
「それはつまり、その冒険者達の相手は俺達がすることになるのか。」
「そうだ。今回は順番的に俺達が戦う番だ。」
「そうか。やはり俺達の順番だということか。」
「青髪。何をそんなに驚いているんだ。」
「俺達雑兵が、地上からの冒険者と戦うことは当然の義務じゃないか。」
「そうだぜ。気楽に行こうぜ。」
槍使い達はいつもと変わりなく陽気にお酒を飲んでいる。
気楽に行こうって、何を言っているんだよ。
槍使い達も俺と同じ地上世界の住人の可能性がある。
つまり、同じ人間で殺し合わなければならない。
―――――――――――――死んでしまうかもしれないんだぞ。
実際のところ、俺は冒険者との戦闘で何度も致命傷と言われるくらいのダメージを負ったことがある。
衛生活動をしてくれている機械人形達の蘇生処置で、ここまで命を繋ぎとめることが出来ていたのだ。
だが、処置が及ばなかった仲間達も数多くいた。
俺が生き残ってきたのは、ただの運。
このまま雑兵として生きていくならば、いずれ俺も例外なく蘇生処置が出来ないほどの致命傷を負い、死んでしまうだろう。
雑兵なんて所詮使い捨の駒。
俺は、生死を身近に感じ、体が緊張していた。
隣に座っていた拳闘士(男)が俺の異変に気が付いたようで、心配をしてきた。
「水烏。どうした。顔色が悪いように見えるぞ。」
「ああ、そうだ。これから冒険者達と戦わないといけないから緊張しているんだ。」
「何だって。緊張している理由が、冒険者と戦うからなのかよ。」
「そうだ。死ぬかもしれないじゃないか。」
「致命傷を負ったとしても、運が良ければ蘇生出来るじゃないか。」
「それに俺達は雑兵だ。死んでも替えなんていくらでもいるしな。」
「そうそう。地上世界からの侵攻を食い止めるのは当然のことじゃないか。」
「やっぱり、今日の青髪はどうかしているぞ。」
拳闘士(男)だけは俺を名前で呼んでいた。
同じテーブルに座っている槍使い(男)と、弓使い(男)が当たり前のような顔をしながら頷いている。
俺達は雑兵だ。
その言葉のとおり、とるに足らない存在。
代わりはいくらでもいる。
死んでも当たり前。
実際に洗脳が解けるまでは、俺もそう考えていた。
だから3人の思考はよく分かるし、それが雑兵の常識だ。
とにかく、いま1番大事なことは侵入してきた『冒険者達の情報』を獲得すること。
これから戦う相手の情報を事前に取得すれば、何か対策を用意することが出来るかもしれない。
地下1階層を守る雑兵は全員がLevel19の『E+』級。
そこを突破してきたということは、地下2階層を攻略しているという冒険者のLevelは『E+』級以上。
場合によっては、格上となるLevel20以上となる。
俺達は、格上である冒険者達と闘わなければならないかもしれないという状況に陥っていたのだ。
だが、そこまではいい。
問題なのは、酒場にいる全員が、緊張感なく酒を飲んでいるという事実だ。
酒場にいる者の数は俺を含めて100名。
全員が酒を飲んでいる。
そしてこの中で、戦闘に参加する者は俺達以外にもいるのだろう。
畜生!戦闘に参加している奴等も平気で酒を飲んでいるのはどうしてなんだ。
これから冒険者と戦う者に緊張感が無いのは致命的だ。
格上となるLevel20以上の『D』級だったら、俺達が生き残ることができる確率が限りなく無い。
喉が渇き、胃がキリキリする。
とにかく情報だ。
そう。敵の情報がほしい。
俺は、槍使い達に、冒険者達についての情報を聞いてみた。
「槍使い(男)。迷宮攻略をしている冒険者達の階級や職業が分かるなら教えてくれないか。」
「迷宮の攻略をしている奴等の階級と職業か。聞いていないな。」
「普通に考えて、地下1階層を突破してきたんだから、Level19の『E+』級以上なんじゃないか。」
「青髪。お前、なんでそんなことを気にしているんだ?」
「冒険者の情報を知っていた方が、戦術がたてやすくなるからだ。」
「さすが頭脳派。だが、冒険者の情報なんて普通は俺達雑兵なんかには届くことはないだろ。」
「地下1階層の雑兵達は、どうなったんだろう。」
「冒険者が突破したってことは、参戦していた奴等は殺されたんだろうか。」
「そうだな。当然、蘇生処置が難しい奴もいるのだろうな。」
「まぁ、仕方がないことだ。」
「地下1階層を守る階層主も殺されたと思うか?」
「階層主か。」
「どうだろう。」
「知らないけど、大丈夫だろ。」
「1階層の階級主は、冒険者達と戦わないみたいだしな。」
地下1階層を守るフロアー主のLevelは『D-』と聞く。
基本『E+』から『限界突破』をすると階層主に成れるという噂だ。
―――――――――――――もし、迷宮をの攻略を開始してきた冒険者のLevelが『D』以上だったら、俺達は確実に全滅してしまうだろう。
槍使い達の洗脳を解くことが出来れば、生き残れる可能性が高くなる。
洗脳を解く鍵は『女王陛下の加護』。
その女王が何者なのか分かれば、謎に近づける気がしていた。
ここは駄目元で、3人へ聞くしかないか。
「みんな。唐突な質問なんだが、『女王陛下』って何者なのか誰か知っていないか?」
「今度は何だよ。」
「女王陛下だと。」
「それって、俺達の迷宮主のことかよ?」
「いや。迷宮主は男のはずだぞ。」
「迷宮主が囲っているハーレム嬢の1人じゃないか。」
「ハーレム嬢か。」
「俺達雑兵には無縁の話しだぜ。」
3人から出てきた情報は、誰もが知っている程度のもの。
捕らえた女達は、迷宮主のハーレム嬢となるのが通例だ。
俺達雑兵は、男でありながら繁殖することを許されていない。
だが例外的にハーレム嬢にならない女も存在する。
漆黒麗嬢もその例外の1人だ。
ずば抜けた美少女であるものの、ハーレム嬢ではない。
実際の理由は分からないが、戦闘力が特化しているのは間違いない。
その時である。
迷宮地下2階層に降りてきた冒険者への迎撃命令が発令された。
「侵入者が地下2階層へ降りてきた。これより、人馬迷宮への侵入者を迎え討つ!」
伝令係からの号令とともに、酒場にいた雑兵達が一斉に立ち上がり雄叫びをあげた。
◇◇◇
11話まで(計4万文字程度)は下書きが終わっております。
週4話程度投稿していくつもりです。。
それ以降は、しばらく空くかと思います。
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