閑話

 瀬良せら 拓人たくとが意識を取り戻した時には動ける衛兵達が大量の傷薬や包帯で治療を行っていた。

 恐慌状態に陥っていた錦城きんじょう 京也きょうやもいまは落ち着きを取り戻したようだった。

「ドラゴン(石像)は……」

 ドラゴン(石像)が居たであろう場所には瓦礫の山があるだけでそれがドラゴン(石像)だったと思わせる部位は見当たらない。それでも。

「タクト、お前も治療を受けてメシを食え」

「あ、はい……」

 正直、疲れすぎて何かを食べれる気がしていなかった。

 それは京也きょうやも同じらしく衛兵に押し付けられた携行食を手に固まっていた。その視線の先には亡くなった衛兵二人の姿があった。


 どこか自分達は特別な存在で死ぬことは無い。そんな風に考えていたのに今回の探索で死の手はすぐ近くにあることを痛感させられた。


 そして二人を含む衛兵達は一度撤退することを決定して洞窟の探索を終えた。


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆


 ルゥビスに帰って諸々の報告を済ませた二人は以前より真剣に鍛錬に取り組んだ。

 その反面で鍛錬のあとは側付きの侍女を抱き、休暇になると娼館に通い詰めるようになった。

 それは死の恐怖から逃れるための行為であり快楽を得るためのものではなかった。

 そして今日もまた側付きの侍女が鍛錬のあとの身の回りの世話をするために部屋にやってきたところを抱いた。

「タクト様、どうされたのですか?」

 侍女のなかで三度果てた拓人たくとは侍女の豊満な胸に顔を埋めてギュッと抱きしめていた。その手が僅かに震えていることを感じ取った侍女は拓人たくとの背中と頭を優しく撫でた。

「すまん、もう少しだけ、こうしていさせてくれ」

「はい……」


 拓人たくとの側付き侍女、いまはカティと名乗っているが元は辺境の貴族令嬢だった。その元貴族令嬢が何故王城で侍女をしているかというと、国境に現れた正体不明の脅威に対処するために派遣した兵が戻らず、ついには彼女の父親までが対処するために出向くことになった。

 そしてその父親が戻らず家督を継ぐために求められる武力を持ったものが居なかったことで彼女の家族は貴族としての地位を失った。

 それでも王城で侍女として働けるだけマシだと考えていたカティに転機が訪れた。それは召喚されたものの世話係になること。召喚されたものが男である以上、性行為を求められることがあっても断ることは許されないという現代の日本人が聞いたら耳を疑うような条件が提示されたがそれでもカティは志願した。

 他にも数名の侍女が志願していたが、それぞれがそれぞれの思惑の元に必要に駆られてのことだった。

 そしてカティは志願者の中で一番豊満な胸を持っていたことで拓人たくとに選ばれたのだった。カティ自身にとってこの大きな胸はコンプレックスだったのだが。

「このままタクト様が私に依存するようになれば……」

 純潔を奪われたうえに貴族令嬢でもない、いまのカティを娶りたいという貴族はいないだろう。このまま侍女として生きていくよりはこうして甘えてくる拓人たくとの正妻に収まることができればと思考してしまう。

「そのためには娼館通いを辞めていただかないと……」


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆


 京也きょうやの方はというと側付きの侍女から「本当は私、好きな人がいるんです」なんて言われて、すっかり侍女を抱く気になれなくなっていた。

 京也きょうやにしてみれば抱いていいと言われたから当然の権利であって、その対象である侍女からこんなことを言われると思っていなかった。

「それなら最初からそう言えよ。くそっ」

 知らないうちに他人の彼女が惚れていたということはあっても自分から他人の彼女を寝取ることは望んでいない。

「しゃぁない、また娼館に行くか」

 ひとりで行くのも気が引けて拓人たくとを誘いに行ったのだが部屋の外まで漏れ聞こえてくる喘ぎ声にため息をついた。

拓人たくとは侍女さんと上手くいってるんだな」

 侍女を替えてくれと頼むことはできるがそうなるといまの侍女、サミュラは役目を果たせないということでクビになるらしい。そんな話を聞くと別の侍女と替えてくれとも言えなくなった。


 だから今日も京也きょうやは娼館に通うのだった。


 余談:三ヶ月後、京也きょうやお気に入りの娼婦が孕った。父親は一体誰なのか? 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る