第74話

 天然の洞窟といった様相を見せる場所を彷徨っている三人は何度かスライムと遭遇した。その度に弱点となる核を見つけないといけないんだけど透過率が低過ぎてこの薄暗い環境下ではなかなか上手くいかない。

 それに何かを捕食している時なんかは核と似たシルエットのものが体内にあってそっちを突くこともあった。

「大丈夫?」

「うん、流石に近距離じゃあ魔法? を避けられないのはキツイけど威力が弱いから……」

「この先威力が増してきたとしたら……」

「考えたくないけどそうなるって思ってた方がいいでしょうね」

「……そうだよね、やっぱり」

「あの、すいません…… 盾を失ってしまって……」

「あの時、守ってくれなかったらもっと悪い状況になっていたかもしれないからミドヴィスは気にしなくていい」

「そうだよ。気にするよりいまは無事に帰れるようにしないとね」

「はい。わかりました……」

 自分が足を引っ張っている。そういう考えを抱いたミドヴィスは気にしなくていいと言われても気持ちを切り替えることは難しそうな表情をしていて唯奈ゆいな里依紗りいさは互いの顔を見て肩をすくめた。


 どれくらい彷徨ったのかわからない。

 収納を通して礼央れおが食事と心配する手紙を送ってきてくれることを励みにして探索を続けているうちに下の階段を見つけた。

 ゲームのように階層を守護するモンスターがいなかったのは幸いだったけど地上に戻るためには上階への階段を見つけなければならないのに。

 薄明かりに照らされた三人の表情には疲弊が浮かんでいた。

「結構歩いたと思うんだけど」

「うん、だいぶ歩いたよね」

「アンディグからアンクロまで歩いた気がします」

「そんなにかぁ」

「実際には探索したりスライムの相手でそこまでは歩いてないと思うけどね」

 現在、三人は行き止まりになった開けた場所で休息を取っていた。

「早く地上に帰りたいね」

「そうだね」

「はい」

 食事の間に出てくる会話もそんな願望を口にするだけだった。


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆


 三人から『天然の洞窟のようなところ』ということを聞いた礼央れお達はアンクロに到着してすぐに探索者組合を訪れていた。

「アンクロからルゥビスの間に洞窟のようなダンジョンはありませんかっ!」

「ひっ!?」

「レオ落ち着いて」

「すまないが急ぎで情報が欲しい。魔法を使う粘液状の生物の情報もあれば欲しいのだが」

 最初の連絡からもう何日も経過している。それなのに三人から地上に出たという連絡はなく、収納に納めた料理が消費されていることと簡単な状況報告だけで生存が確認できている状況に礼央れおは焦っていて普段しないような勢いで受付嬢に詰め寄った。それをエイシャが諌めてアフェクトが組合証を提示して問い直した。

「し、少々お待ちください」

「すまない」

 受付嬢はアフェクトの等級を見ると席を立ち奥へと消えた。

「レオ、心配なのはわかるがもう少し落ち着け」

「ん、二人は強いし、り、エンリも回復ができるから大丈夫」

「でも、ミドヴィスが骨を折ったって話だし、守りながらだと……」

「それでもだ。だからこそ、こっちはこっちで、できることをするしかない」

「そうじゃぞ。焦ると大切なことを見落とす。そうならなぬように落ち着いて考えるんじゃ」

「ありがとう皆んな。でも、セリシェールは普段通りにしゃべった方がいいよ」

「な、これでいいのじゃ」

「アフェクト様、お待たせいたしました。こちらにお越しください」

「ああ。行こうか皆んな」


 受付嬢に案内されたのはテーブルを挟んで三人掛けのソファーと奥に一人掛けのソファーがあるだけの応接室とでも言えばいいのだろうか、そんな雰囲気の部屋だった。

 奥の一人がけのソファーに深く腰を下ろしていた片眼鏡をかけた神経質そうな壮年の男性が受付嬢に案内されて部屋に入った礼央れお達を値踏みするように睨め付けた。

 礼央れお以外の三人に向けたその視線は内包する魔力量を見ているのか満足気だったが礼央れおを見たその目はすぐに興味を失ったように視線を外した。

 その態度にエイシャが口を開きかけたところで礼央れおが制止した。訴えかけるような視線をエイシャが向けてきたけど礼央れおはエイシャの手を握って宥めた。憤ってくれた気持ちは嬉しい。そう伝えられたことでエイシャは息を吐いた。

 それに気づいたのかどうかはわからないが壮年の男性がそのタイミングで口を開いた。

「足が悪くてね。このままで失礼させてもらう。私はこのアンクロ探索者組合、組合長のリーガンだ。それで『魔法を使う粘液状の生物』の情報だったかな。結論から言わせてもらうが、そんな生物の目撃情報は無い。そもそも獣にそんな知能はないではないか。確かにどんな獣であっても魔力は内包している———」

 チラリと礼央れおに視線を向けて話を続ける。

「ごく稀に魔力を持たない人間がいるが獣が魔法を使うなどという話は聞いたことがない。私も長いこと第一線にいたがそんな話は聞いたこともない」

「そうですか。では、アンクロからルゥビスの間で洞窟のようなダンジョンはありませんか? それも二階層以上あるようなものは」

「ダンジョン自体が稀有なものなんだがな…… その条件に該当するものは二つだ。一つはここから三日ほどのところにある。もう一つはルゥビスから二日ほどのところにある」

「その二つは踏破されているのですか」

「ルゥビス側のものはわからん。だがここから三日ほどの洞窟は四階層までは探索が進んでいて地図がある。五階層は途中までだな」

「その両方の資料を見せてください」

「まあ、いいだろう」

「ありがとうございます。では、失礼します」

「ああ、新しく何かわかれば報告を頼む」

「ええ」

「では、資料室にご案内します」

「頼む」

 こうして俺達は探索者組合の資料室に案内された。

 

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