第48話
◇◆ ◇◆ 奥さん達(+1) ◇◆ ◇◆
エイシャは「緊急会議を招集」と宣言したあと、洗濯物を持って戻ってきたミドヴィスも引き込んで車座に陣取った。会話の内容はレオ達に聞かれないように魔術を行使する念の入りようだった。
「ん、では、会議を開始します」
「はいっ!」
「ん、リイサどうぞ」
「私は事故だと思うから、他言しないのならいいと思う」
「はい!」
「ん、ユイナどうぞ」
「私もわざとじゃないならいい。それにレオやエイシャ以外にもああやって水を出せる人いるんでしょ」
「ん?」
「「えっ」もしかして…… 珍しい、の?」
「ん、レオ以外でできる人見たことない。それに、レオは私以上」
「私も、見たこともありません。レオさんに会うまではそんなことができるとも思いませんでした。それにこの周りに音が聞こえなくなるような術も」
「それは…… まいったね」
「ある意味で、私達より特異な存在だったりする?」
「ん、そうみたい。一緒にいると、色々常識が覆されて楽しい」
「あ、「あははは……」」
それをエイシャ達四人は聞くことにした。
エイシャの中ではレオとアフェクトの間に何もないという確信がある。
それでも目の前でレオが押し倒されていた光景に感情の方が追いついていない。そう、自覚せずに嫉妬しているのだった。
三人がそうやって会話をしている間、とりあえず引き込まれてしまっただけのミドヴィスはいまだに状況を飲み込めてはいなかった。(そろそろ、洗濯物を干しに行きたいんですけど…… いつまで続くんだろう)
半ば雑談と化してきたところでエイシャが決を取る。
「では、レオに対してどうしようか?」
「はいっ!」
「ん、リイサどうぞ」
「もやもやさせられた分甘やかしてもらう!」
シュバっと手をあげて「私もっ!」と宣言するあたり残念な令嬢(風)の
「他に、意見はありませんか?」
エイシャは三人の表情を窺う。誰からも異論は出ないようなので決定事項を口にした。
「では、レオには甘やかしてもらいましょ」
そのあと順番を決めたり、アフェクトへの対応を話し合ったところで会議(笑)は終了した。
◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆
「二人の処遇が決定した」
俺とアフェクトさんの前でエイシャはそう宣言した。
神妙な面持ちで俺はその結果を待つ。あ、
「レオにはもやもやとした気持ちにさせられた分、私達を甘やかしてもらいます」
心配かけちゃったかと罪悪感を抱くけど、それで許してもらえるなら、彼女達の甘い決定を受け入れて滅茶苦茶甘やかそうと思った。
「次にアフェクトにはそのポーチを譲り渡してもらいます」
「えっ!?」
「えっと、エイシャさん。それはちょっと厳しすぎない?」
「ん、レオは最後まで話を聞く」
ビシッとおでこに人差し指を押し付けられて続きがあることを宣言された。
「そのうえでアフェクトには、私達と一緒のパーティになってもらいます」
「その心は?」
ふふんっと言っているのではないかと幻視する程に胸を張ってエイシャは「レオを守るため」と宣言した。
俺の頭の上には疑問符が並ぶ。
「つまり?」
「どういうことだ、エイシャ。私には理由がわからないぞ」
「ん、レオの希少性は理解した?」
「それは、まあ」
「なら、レオのことを知ったら引き入れようとする者が現れることも理解できる?」
「そうだろうけど、桶に一杯の水を生成できたとしてもそれ程重要じゃないだろう。せいぜいパーティーが探索中に持っていく水が減るぐらいじゃない。それなら、そのポーチの方が有用じゃない? 違うのか?」
「あ、「あ〜〜」」
「えっと…… その反応は、もしかして……」
ぐりっと首を回らせて俺を見てくるアフェクトさん。そんな目で見ないで……
「私達のパーティーに入って、私達の秘密を他に話さないと誓約できるのであれば、レオのことを話す。悪い話じゃない」
「それは魔術的な誓約? 私のことも話さないと誓約するということでいいのかしら?」
「ん、それでいい」
「それなら私がポーチの分、損するだけなんじゃない?」
「ん、それが罰」
このままだと平行線だよな。
「あのね、アフェクトさん。俺、桶一杯とか余裕です」
「えっと? つまり、水には困らない?」
まあ、一番ヤバそうな(収納魔術の)ことは言ってないけど、この情報もそれなりに意味を持つだろ。ヤバそうな情報を開示して見たんだけど、どうだ?
「エイシャがレオを守りたくて言ってるだろうというのはわかるけど、罰としては重過ぎないかしら」
これは、このまま話し合っても埒があかないな。
三人に目配せをして、もうひとつ情報を開示することにした。
「あ〜、アフェクトさん。エイシャの提案を受けても貴女が損をすることはないですよ。これを見てください」
壁際に吊っておいたバッグから愛用の解体ナイフを取り出す。明らかにバッグに入らない長さのもの。
「それって、このポーチと、同じもの……」
「ん、こっちに来る」
はぁっとため息を溢したエイシャは俺達を手招きして、変わらず降り続いている雨のなか納屋へと向かう。
「レオ、お願い」
「は〜い。じゃあ、ホイ、ホイッと」
荷車の上にバッグの中の樽、食材、調味料、素材などを崩れない程度取り出す。
「あっ…… えっ!? その量、なに?」
「ん、これでも一部」
「嘘でしょ、こんな量……」
ん、と視線で促されたので
「…………」
「あれ、やり過ぎた、かな?」
言葉を無くして立ち尽くすアフェクトさんの目の前でヒラヒラと掌を振ってみた。うん、反応が無い。
「なあ、これ、やり過ぎたかな?」
「ん、大丈夫」
エイシャはそう言ってアフェクトさんの脇腹にぐりっと人差し指をねじ込む。
「うひゃんっ!?」
なるほど、脇腹が弱いのか…… じゃなくって、奇声を発して身を捩った彼女はエイシャを涙目で睨む。
「ん、元に戻った」
「エイシャ、あなたねぇって、それより、これはどういうことよ」
「見ての通り。まあ、戻って話をしようか?」
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