第44話

 三人の結果を聞くよりも先に組合の奥にある会議室のような部屋に連れて行かれる。

 そこにいたのは商人風のおじさんといかにも料理人というおじさんが二人。


 特に自己紹介もないままにライパンの試食会は始まった。

 最初に出てきたのはただ焼いた物に軽く塩胡椒を振っただけのもの。

 鶏肉に近い感じで癖は少ない。それ故に片方の臭みが際立っていた。

 次に出てきたのは大蒜にんにく生姜しょうがのようなもので下味をつけて焼いたものにマスタードのような調味料をかけた料理。


「では、皆様どちらの方がお好みでしたか?」

 エルネスさんの呼びかけにそれぞれが気に入った方の皿を選ぶ。

 ここでも結果発表は無しでおじさん二人とガンドさんと組合長と呼ばれた人を残して俺たちは退室させられた。


「みんなはどっちが良かった?」

 一緒に退室したエルネスさんが俺達に問いかけてきた。

 どっちというのは左右どちらの皿かということだろうか?

「ん、私は右」

「あ、私も」

「「私も」です」

「俺も右ですね」

「なるほどねえ」

「エルネスさんはどっちがどっちか知ってるんですか?」

「私は知ってるよ。右がアンタらが解体して持ち込んだものさ」

 そこからは「やっぱり」とか「臭みがねえ……」などと感想を言い合いながらロビーに向かう。

 そう、三人の組合証を受け取ってないのだ。


 待っている間に昼食を済ませようかということになり組合併設の食堂へ移動した。思ったより試食の量が少なくて食べ足りないんだよな。

 空いているところを探していると、さっきぶりの二人が手招きしてくる。

 アフェクトさんとデュータさんだ。

 先輩探索者に呼ばれると断るわけにもいかないのでそこへ向かって相席することにした。

 簡単な自己紹介を済ませて料理を注文。

 デュータさんとアフェクトさんは時々組むことがあるけど基本的にはソロ。今度のアンクロへの護衛任務にも参加するということで俺達と交流を図ろうと考えていたそうだ。

 まあ、そこに都合良く今回の件があって三人の実力を見る機会ができたというわけだ。


「シュリーナの実力は計りかねるものがあったな」

「ええ、とても実践的だったわね。エンリは美しい舞いを舞っているようで楽しめたわ」

「ミドヴィスは盾越しに攻撃する手段を持てば(盾役として)安定しそうだけどな」

「湾刀は何処に行けば売っていますか?」

 そういえば鍛治師組合では見かけなかったな。

「この町では見たことが無いな」

「そうですか」

「それよりもエイシャ、あなたが他の探索者と組むなんて珍しいわね」

「ん、旦那さま」

 エイシャは俺の方に寄り添うようにしてそう宣言した。

「えっ!?」

「あら、おめでとう」

 驚きの声をあげたのはデュータさん。やっぱりそういう反応が帰ってくるか。

「見ない顔だけど?」

「えっと、元々ジェドで探索者をしていて、あの大雨の時にアンディグまで流されて来た。レオです」

「昔からの知り合いってわけじゃないのよね?」

「そうですね。知り合ってからの日は浅いですね」

「それで、ここまでエイシャが気を許すとなると。貴方、なにかあるわね」

「そうですかね。髪の色が珍しいことを除けば、解体技術ぐらいのもんですよ」

「ああ、それでガンドさんの覚えが良かったのね」

 そういって向けられてくる視線は明らかに俺を値踏みするものだ。

「ふむん(特に変わったところは無さそうね)、これからよろしくね、レオ」

「こちらこそ」


 俺とエイシャがアフェクトさんと話している間、他の四人で会話をしていてエイシャが俺を旦那さまと言ったところで唯奈ゆいな里依紗りいさの二人が「私達の旦那さまでもある」と言ったもんだからデュータさんがまた「え〜〜っ!?」と声をあげた。

 アフェクトさんとの会話に区切りがついたタイミングで今度はデュータさんが俺とエイシャに話しかけてきた。

「なあ、エイシャがこいつを選んだ決め手はなんだったんだ?」

「ん、料理が美味しい」

「あ、あ〜、胃袋を掴んだのか……」

「彼の料理って、そんなに美味しいの?」

「ん、絶品」

「「美味しい」よ」

「はい」

 ゴクリと唾を飲む音が二つ。

「いやいや、皆んな、持ち上げ過ぎだって。アフェクトさん、デュータさんも真に受けないでくださいね。多分に贔屓目が入っているはずなんで」

「いえ、これは一度自分の舌で確かめる必要があるわね」

「アフェクトの言う通りだな」

「ん、驚くといい」

「また、エイシャはそんなことを言う…… 夕飯を振舞うのは構いませんけど、あんまり期待しないでくださいね」

「ううん期待していくわ、興味が湧いたんだからね」

「酒ぐらいは用意していくさ」

「ん〜、なら、今晩はどうかな?」


 うちの面子に確認を取ると反対する者はいない。皆んな同意の意を表して頷く。

「お二人は今晩でも良いですか?」

「ああ、構わない」

「俺もそれでいい」

「では、今晩、ウチでお待ちしています」

「ああ」

「ご相伴に預かるよ」

 昼食を間に挟みつつ、夕飯の約束を交わす。なんとも緩いこの状況は俺らしくていいな。昼食を食べている間に組合証ができたとエルネスさんがヒラヒラとそれを振って見せていた。話も区切りがついたし、二人分追加で食材を用意する必要もできたことだし「そろそろ、俺達は行きますね」と離席の意を表す。

「ん、今晩、待ってる」

「楽しみにしておくわ」

「ああ、俺もな」

「期待し過ぎないでくださいね」


 二人を席に残して俺達はエルネスさんのところに向かった。

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