第36話
五分ほどしてエイシャ達がキッチンにやって来た。
「お待たせ」
「先に座ってて、すぐに持っていくから。
俺も先に焼いていたお肉を親方達から見えないようにバッグの中から取り出す。こうすれば冷めることもない、焼きたての状態を提供できる。便利だよなこれ。最後に焼いたお肉を持ってテーブルに着く。
「美味そうな匂いだな」
「お口に合えば良いのですが」
「ん、レオの料理は絶品」
「ありがと、それより待たせちゃ悪いから、食べようか。いただきます」
「「「「いただきます」」」」
「お、おおっ」
「ご馳走になる」
コップを打ち合わせグッと煽る。ん、んんっ!?
「「「「ぷっ、はぁ〜」」」」タンっと音を響かせてコップを置いたのは四人、親方、弟子二人、
「
「こっちじゃ飲酒に年齢制限ないんだよ」
「そういう問題かぁ!?」
「ん? レオは飲まないの?」
とか話している間にも
そして親方達はというと無言で料理を口に運んで酒で流し込んでいた。その表情がどこかうっとりとしたものだったのは喜んでもらえたようで安堵すると同時に少し怖かった。俺はキッチンに行ってこっそりとバッグからレモン水(もどき。レモンに似た風味の果汁に蜂蜜と砂糖を混ぜたもの、便宜上こう呼ぶ)を取り出して水差しに注いでからテーブルに戻った。
今、お酒を飲んでいるのは俺と
「料理、好評みたいだね」
「そうだなぁ、口にあってよかったよ」
「ん、レオの料理は絶品」
椅子の数が足らないから立食形式になっているんだけど俺の両隣にはエイシャと
ミドヴィスに空になったお皿を下げてもらってその様子を三人で眺める。途中で席を外したお弟子さんがいたとは思っていたのだけど樽でお酒を買って来ていたのには驚かされた。どんだけ飲むつもりなの……
追加の食料として採取に行った時に焼いて収納しておいた川魚の塩焼きを振舞う。この頃になるとキッチンで料理していないことを気にする人はいなかった。
皆んなはっちゃけていて比較的酔いの浅いエイシャと素面の俺、
ある程度のところで二人には先に休んでもらうことにした。
「あの調子だと問題ないとは思うけど
「ん、わかった。おやすみ」
「おやすみ。
「ああ、おやすみ」
結局、樽の中身が無くなるまで飲んだところでお開きになった。小さめの樽とはいえそれなりの量のお酒が入っていた筈。
親方は荷車にお弟子さんを積み込むと「美味かったぞ。嬢ちゃん、また飲もうや」と俺達に言い残して帰って行った。親方も恐るべしだな。
家の中に入り
「
「あはは、こっちに来てからだよ。他の人と行動を共にしてると飲まざるを得ないことってでてくるからさ。
「えっと、それって全然酔わないの?」
「ん〜っとね、今日くらい飲んでほろ酔いくらいかな」
「おぅ…… すごいな、それ」
「あっ」
「ん、どうした?」
「えっ、あっ、その〜、酔ったふりして礼央にキスを迫ればよかったと…… 今気がついた」
「あ、ああ〜〜、それを聞くとしにくいな」
「そ、そうだよね。私もそう、言った後で、思った……」
モジモジ、しゅ〜んって感じにしょげるその姿は普段活発な彼女のまた違った一面。愛らしい、そう感じた俺は
「れ、
「可愛いなと思ったら抱きしめてた。今はこれで勘弁してくれ」
「ぅん」
暫く抱き合ったあと、二人で食器を洗って、拭きあげてからそれぞれの寝室に向かった。
「「おやすみ」」
こっちに来てから就寝時間は随分早い。
今日は例外的に遅くまで起きていたからベッドに突っ伏すように倒れ込む。むにゅっと柔らかな感触が俺の顔を受け止める。あれ、いつもより控えめの様な気が……
思考を放棄してついでに意識も放棄した。その時、パタパタという足音のあと、扉が勢いよく開かれて「私もこっちで寝てやる〜」という声が聞こえた気がした。
◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆
翌朝、最初に目が覚めた俺は身動きが取れずにいた。
横向きに寝ていた俺の正面ではエイシャが俺の頭を胸に抱えて眠り、そのエイシャごと俺に抱きついているのは
どうにか
「う、う〜ん……」
「
「んん〜、れ、お〜、んっ!?」
「あ、起きた。ごめん腕の力、抜いて……」
胸元、もとい谷間でモゴモゴ喋っているとエイシャも目を覚ます。
「ん、んぅ、レオ、もっとぎゅってしてあげる」
「ふぅおっ!?」
再び俺はエイシャの谷間という深みに囚われた。
そこから俺を引き剥がしてくれたのは背中側にいた
そんな戯れから俺を救ってくれたのは部屋に来たミドヴィスの恥ずかしそうな「お腹が空きました」という一言だった。
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