第33話

 エイシャの案内でやって来たのは、大通り沿いにある煉瓦造りの建物。

 両隣の建物よりも凝った意匠が目につくけど非常に落ち着いたもので嫌味は感じ無い。


「なあ、こんな普段着のまま来てもいいのかここ……」

 場違い感が酷くて出直したい気分になってきた。

「流石に、私もそう思う」

「同じく」

 唯奈ゆいな里依紗りいさも同じ気持ちらしい。

「大丈夫、探索者も来るお店」

「そうか」

「それなら」

「ねえ」


 エイシャがドアを開けるとカランと心地良い音が響く。

「いらっしゃいませ」

 静かな落ち着いた声の壮年の男性が俺達を迎えてくれた。よくある店員さんがベッタリ張り付くタイプの接客じゃなくて自由にショーケースを見ることができるタイプの店舗らしい。

 その方が俺としたら助かるけどな。あの背後について回られる感じは好きじゃない。

 色々な宝飾品を見ているうちに三人とも気に入った物を見つけたようで俺を手招きしてくる。


 最初は唯奈ゆいな

 彼女は指輪ではなくネックレス。小さな円の中に鳥の意匠が施されたトップの華美過ぎないもの。ショートヘアでどちらかといえばボーイッシュな彼女にはこのくらいシンプルなものが似合う。

「どうかな、これ?」

「いいんじゃない。唯奈ゆいなに似合いそうだよ」

「そうかな…… じゃあ、これにする」

「ん」


 次に俺を呼んだのはエイシャ。

「レオ、見て」

「あ、ああ」

 彼女が選んだのはシンプルな指輪。表面が甲丸、内側が平打ちの平甲丸と呼ばれるタイプの装飾も入っていないもの。

「それでいいの?」

「ん、派手なのは好きじゃない」

「でも、地味過ぎない?」

「そう思うならレオが選んで」

「わかった」

 指輪を選んでくれと言われて俺が選んだのは断面が三角の剣椀と言われるタイプの指輪。表面に刃文のような模様が浮かんでいるもの。

 これなら派手過ぎなくて存在感もあるしエイシャに似合いそうだ。

「これはどう?」

「ん、レオならそれを選ぶかなと思った」

「あれ、俺、試された?」

「ううん、違う。選んで欲しかった」

「そ、そうか」

 不意打ちで嬉しいことを言うのはドキッとするからやめてください。


 最後に俺を呼んだ里依紗りいさは少しむくれていた。

「また、エイシャとイチャイチャしてた」

「イチャイチャしてないし」

「私の、ううん、私達のこともちゃんと構ってよね」

「ああ、わかってる」

「じゃあ、今は私の番だからね。これなんだけど、どうかな?」

 里依紗りいさの選んだものはデザインはシンプルな平甲丸、宝石は嵌ってないけどその部分には小さな花弁の花が大きさを変えて三つ並んでいた。彼女の髪の色に合わせるように淡い金色の輝きを放つ指輪。

「いいと思う、里依紗りいさの髪色とも合ってていいな」

「ホント、よかったぁ」


 そのあと皆んなの指のサイズを測って調整後に引き渡しとなった。

「皆んな、とても似合っていたよ」

 宝飾店を出たところで改めて感想を告げると三人共、照れを含んだ喜びの表情を見せてくれて俺も嬉しくなった。


◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆


 くぅ〜っと可愛らしい音が聞こえて、そっちを見るとミドヴィスが恥ずかしそうに俯いた。太陽は中天を過ぎていて、色々見てまわったことで結構いい時間になっていた。

 この位置からだと露店の方が近いかな。


「俺もお腹すいたし、露店で何か買って食べようか?」

「ん」

「賛成」

「そうだね」

 皆んなの賛同を得たことで市場に戻って、思い思いの食べ物を購入して持ち合う。露店の食べ物のイメージってたこ焼き、唐揚げ、フライドポテト、お好み焼きに焼きそばをすぐに思い浮かべるけどこの世界には無くて少し寂しくなる。

 肉串だけは同じようにあるから俺はそれを人数分購入して周りに目を向ける。


 少し先でエイシャが支払いを済ませているところだった。その露店は少し甘い匂いを漂わせていた。

「エイシャは何買ったの?」

「ん、ドライフルーツの焼き菓子。ユイナとリイサに食べてもらおうと思って」

「もしかして、すごく甘い?」

「そんなことはない」

「そう? すごく甘い匂いがしてるから」

「ん」


 大きな葉っぱの包の中からひとつ取り出して俺の口元のに差し出してくる。

 見た目的には某製薬会社のスティック状の栄養補助食品カロリー〇〇ト。

 パクッと口に含むと意外にしっかりとしたザクッとした歯応えだった。

「あ〜〜っ、また、二人でイチャイチャしてるぅ!」

 叫んだ里依紗りいさに焼き菓子を口に含んでいて答えることのできない俺に変わってエイシャが答える。

「皆んなも早く、こっちに来て」

 呼ばれて俺たちの周りに集まって来た唯奈ゆいなは骨付き肉、里依紗りいさは茹でたスティック状の野菜に塩を振ったもの、ミドヴィスは葉物野菜で燻製肉を包んだものを購入してきていた。


「んっ」

 エイシャは里依紗りいさの口元にさっきの焼き菓子を差し出す。

 はむっとそれを口に含んだ里依紗りいさ

「あれ、匂いほど甘くない」


 そうなんだよね。この焼き菓子匂いからはもっと甘いと思っていたんだけど、口に含むとそこまで甘くない。割としっとりした食感にドライフルーツがゴロゴロ入っているものだった。

 美味い、美味くないで言うと微妙だけど割と安価に手に入る食べ物。

「子供の頃時々、食べてた」

「思い出の味?」

「ん、そう。ユイナも食べる」

 唯奈ゆいなの口元にも焼き菓子を差し出すと彼女もこれをパクッと口に含む。

「意外としっかりしてるね」

「今朝のパンの方が甘かったでしょ?」

「そうだね」

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