悪役=最後の希望
「イザーク、お前、どうしちまったんだ? ブルゴーレムの事件の時には、俺の話に耳を傾けてくれたじゃねえか。それがどうしてみんなから素材を巻き上げたり、ゼノンからクレアを奪うような真似をするようになった?」
「君には関係ないだろ。僕は自分の力を行使して、自分の願いを叶えているだけだ。この学園には決闘というルールがあって、僕はそれに則って行動している。それのどこが問題なのかな?」
「……人を脅したり、闇討ちすることも問題じゃないと、お前はそう思ってるのか?」
「さあ、なんのことかな? 僕にはさっぱりだ」
核心を突くユーゴの問いかけに対して、ふざけた様子でとぼけてみせるイザーク。
その様子に嫌悪感よりも悲しみを覚えたユーゴが顔をしかめる中、ニヤリと笑った彼がこんな話を持ち掛けてきた。
「それよりもさ……取引をしない? 君と僕、双方がハッピーになれる話があるんだよ」
「……どういうことだ?」
「簡単さ。この戦い、君は……わざと僕に負けてくれ」
ニタァ、と浮かべている笑みを不快な方面に強めたイザークが信じられないことを言う。
彼とは真逆に、一瞬で顔を険しくしたユーゴに対して、イザークはこう続けた。
「わかりやすく言えば八百長試合をしようって言ってるんだよ。戦いは適当に演出して、惜しいところで君が負けたってふうにしてあげる。弟やハーレムのメンバーの前で無様に負けるよりかはマシだろ? それに、おまけで素材も少しプレゼントしてあげるよ。あとはそうだな……僕の後で良ければ、クレアのことを使わせてあげる。ね? 破格の条件だろ?」
「……自分が何を言ってるのかわかってんのか、お前は?」
「なんだよ。折角、僕が情けをかけてあげようとしたのにさ……君には多少の恩もあるし、少しは良い目を遭わせてあげようとしたけど、断るなら仕方ないね」
ふざけ半分、本気が半分……というのが、そう語るイザークの雰囲気だ。
どういう意図があってこんな話を持ち掛けてきたのかはわからないが、今度は悲しみよりも嫌悪感を上回らせたユーゴが吐き捨てるようにして彼へと言う。
「悪いが俺は、そういう汚い話が大嫌いでな。それと、人を使うだなんて表現をする野郎も大嫌いなんだよ」
「ああ、そう。奇遇だね。僕も君のことが大嫌いなんだ。これで心置きなく、君を叩きのめせる!」
これまで浮かべていた不快な笑みに獰猛さを加えたイザークが歓喜の叫びを上げながら双剣を鞘から引き抜く。
ユーゴもまた彼と距離を取りながら左拳を握り締めると、真っ直ぐに相手を見つめ、言う。
「イザーク……お前がこれ以上、誰かから大切な何かを奪おうとするのなら、俺はお前を止めるだけだ。全身全霊を以てな」
「やってみなよ。君の全身全霊がどれほどちっぽけなものか、思い知らせてあげるからさ」
どこまでも余裕を崩さないイザークは、自分が負けるだなんて欠片も思っていないのだろう。
彼にそこまでの自信を抱かせる根源に不気味さを覚えるユーゴであったが、それを吹き飛ばすように勇気の魔法を叫ぶ。
「変……身っ!!」
紅の光が弾けると共に、ブラスタを纏ったユーゴがその中から姿を現す。
双剣を構えるイザークもまた戦いの構えを見せ、双方が準備を完全に整えた。
(負けるわけにはいかねえ。クレアのこともそうだが、ここで俺が負けたらイザークは完全に歯止めが効かなくなっちまう。そうなったら最後、みんなが苦しむことになるんだ)
決闘で連戦連勝を重ね、英雄候補と呼ばれる強者すらも打ち倒したイザークの精神は、増長を超えた危険な領域まで達しようとしている。
もしもここでユーゴが敗北し、彼を更に調子付かせてしまったら……もう誰も、イザークを止められる者はいなくなってしまうだろう。
そうなれば学園は絶望に包まれる。教師たちが動くまで、イザークの独裁が続くことになるだろう。
絶対に……そうはさせない。ここでイザークの暴走を食い止めてみせる。
確かな覚悟を胸に息を吐いたユーゴは、自分自身に言い聞かせるように小さな声で呟いた。
「絶望なんて一瞬でぶっ飛ばしてやる。俺が、最後の希望だ……!」
握り締めた両の拳を構え、イザークを見据えるユーゴ。
その瞬間、立ち合いを務めるヘックスの決闘開始の号令が響いた。
「では、双方清廉なる戦いを誓って……決闘、開始っ!!」
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