side:主人公(やっぱり予想外の事態に直面した男の話)

「は? はぁ? はぁ!? ま、待ってよ! なんで三体に増えてるのさ!?」


 こちらへと駆けてくるブルゴーレムの姿を目にしたイザークがわかりやすく動揺し、狼狽する。

 何かの見間違いではないかと考える彼であったが、何度確認したってブルゴーレムの数は三体のままだ。


 しかも、その内の一体は群れを率いる長らしく、他の二体よりも大きな体をしている。

 ボスが一体とその取り巻きが二体という、ゲームでよくあるパーティ構成になっているブルゴーレムの姿を目の当たりにしたイザークは、先ほどまでの余裕を完全に失ってしまっていた。


(さ、三体? これもゼノンがやらかした影響なの? あ、あれ? 本来のゲームシナリオでもそうだったっけ? あ、あんまりこっちのルート進まないから、ききき、記憶が、曖昧だ……!)


 ただでさえ苦手なブルゴーレムが一体ではなく三体。しかも、その内の一体は見てわかる通りのボス格。

 これを一人で対処しなければならないと考えたイザークは、パニック状態に陥ってしまっていた。


 これが散見されるゼノンがゲームシナリオを変えてしまったことで生まれた弊害なのか、それともただの記憶違いなのかすらも判別できないでいるイザークは、狼狽しながら視線を泳がせている。


 双剣と相性が悪い敵が三体。ステータスはこちらが上かもしれないが、相手の方が数が多い。

 それに、自分のステータスは体力や防御力が低い素早さ特化型だ。脳筋タイプのブルゴーレムの攻撃を一発でも食らったら、それだけで致命傷になりかねない。


 状況は圧倒的に不利で、打開策も見つからない。

 こんなことになるんだったら、やっぱりさっきの戦いでスケルトンホースを倒しておくべきだった。アンヘルの好感度を無理に稼ごうとか、そんなことを考えるんじゃなかった。


(て、撤退だ! 撤退しよう! ソロプレイの鉄則は、無理はしないこと! ダメだと思ったら一度退いて、体勢を立て直してから改めて挑戦を――あっ)


 後悔を抱えながら、ここを一人で乗り切るのは不可能だと判断したイザークがようやく撤退を決断したのだが……少しばかり、遅かったようだ。

 彼が気が付いた時には三頭のブルゴーレムはもう目の前まで迫っていて、パニックになっていたが故に敵との距離に気を配れていなかったイザークが目を見開いたその瞬間、彼の体は綺麗に宙を舞っていた。


「ぎゃあああああああああっ!?」


 彼にとって幸運だったのは、【隠密】のスキルが発動していたこと。

 もしもブルゴーレムたちがイザークの存在に気付いていたら、足を止めて彼と戦おうとしていたはずだ。


 そうならなかったのはひとえに【隠密】スキルの効果で彼の姿と気配に気付かなかったお陰であり、もしもイザークがブルゴーレムたちと戦っていたら、苦戦は免れなかっただろう。


 そして、彼にとって不幸だったのは、【隠密】のスキルが発動してしまっていたことだ。

 先にも述べた通り、ブルゴーレムたちがイザークの存在に気付いていたら、間違いなく足を止めて彼と戦っていた。

 しかし、魔鎧獣たちは彼の存在に気が付くことはなく……三体のブルゴーレムたちはそのまま駆け抜けてしまったわけだ。


 その結果、筋肉と岩で構成された乗用車サイズの魔物たちは、猛烈なスピードで疾走した状態でイザークと正面衝突した。

 当然ながら彼がその衝撃に耐えられるはずもなく、見事なまでに弾き飛ばされたイザークは弧を描いて宙を舞った後、地面に激しく叩きつけられてしまう。


「がべっ!? お、おぐっ……!!」


 全身に響く痛みに呻きながら、地べたを這いずるイザーク。

 魔鎧獣を不意打ちするはずが、あべこべに自分の方が不意を打たれて大ダメージを負っているこの状況に混乱を深める彼が、悔しそうに呟く。


「こ、こんな、はずじゃ……! くそっ! やっぱりあの時、スケルトンホースを倒しておくん、だった……」


 最後にそう恨み言をこぼしたイザークが、ガクッと力なく地面に崩れ落ちる。

 幸運なことに、ソロプレイを貫いているお陰で彼のその情けない姿を見ている者は誰一人として存在していなかったが……傷付いた彼を助けてくれる者もまた、どこにも存在していなかった。




―――――――――――――――


応援メッセージで『side:主人公』というタイトルがちょっとわかりにくいというお声を頂いたので、そのうちタイトルを修正するかもしれません。

『side:ゼノンorイザーク』というように登場するキャラの名前にすると思います。


いつもご意見ありがとうございます。感想の返信ができずに申し訳ありません。

色々と落ち着きましたら再開しますので、少々お待ちいただけると幸いです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る